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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第4回   第4話        葬儀
「ここは暑いねぇ、おまけにムシムシする。防弾チョッキを脱ぐよ」
「危険はなさそうだ。ライフルも置いて行くか?」
「いいや。こいつは、あたいの相棒だよ」
2人が広場に行くと男が包丁を研いでいる。
「御馳走が出るのかね?」ソフィアがアルフレッドに囁いた。
「これを使うか?」ゴチョウがアルフレッドに包丁を差し出した。
「いや、僕は下手で簡単なのしか出来ないんだ」
 ゴチョウは不思議そうな顔をすると、「それなら、これを使え」と長い棒をアルフレッドに渡した。
「あんたの棒はちょっと短いが・・・」とライフルを持ったソフィアに声をかけた。
「あたいはこれで良いよ」

 ゴチョウが歩き出すと、4人の男たちが布で覆われた板を持って従う。その後を2人は付いて行く。行列は村を出ると橋を渡って草原を進む。低い山並みの麓まで来た。斜面に黒い物が見える。洞窟の入り口のようだ。男たちが止まって板を下す。布を取るとルーカスの遺体が現れた。
「ルーカスよ、安らかに眠れ」ゴチョウの合図で男たちが包丁を振り上げた。一斉に打ち下ろし遺体が切り刻まれる。2人はあっけに取られて、すぐに顔をそむけた。
「何をしとる、棒を使え」ゴチョウが指さしている方に大トカゲがいた。洞窟から続々と出て来る。2人は即座に理解した。大トカゲは遺体を食いに来たのだ。解体が終わるまで待たせるのが棒だ。青ざめたソフィアがライフルの安全装置を外した。
「やめろ、葬式だぞ。発砲するな」アルフレッドが押し殺した声で言った。
「分かってるよ、あたいの指が勝手に動いただけさ」装置をロックすると、ソフィアがライフルを振り上げた。大トカゲは口を開けてソフィアを威嚇しつつも後ろへ下がる。アルフレッドが機敏に動き大トカゲの動きを封じた。

「死体を食ったヤツを食うんだよ、信じられないね」ソフィアがアルフレッドに小声で言った。
「大トカゲを食うのは、葬式から三日以上過ぎてからだ」前を歩いていたゴチョウが振り向くと笑顔で言った。
「それなら問題ない」アルフレッドが答えた。そしてゴチョウに訊いた。
「何故、葬式に大トカゲを使うんだ?」
「大トカゲのいる洞窟は地の底につながっている。そこは死者の魂が眠る場所だ」
「洞窟に入って見たのか?」
「昔からの言い伝えだ」
「そうか。葬式に呼んでくれてありがとう」
「お前たちは良く働いた。次の葬式も出るか?」
「あたいは、もういいわ」
「ゴチョウのおかげで葬式が分かった。僕も、もういい」
「お前たちの仲間が死んだら、俺が葬式をやってやる」
 2人は顔を見合わせた。驚いて返す言葉が出ない。ゴチョウは人の良い世話好きな顔で笑った。

村に戻ると祈りの場を見た。白い石を敷き詰めた地面に、黒い石を並べて文字が書いてある。サッカーが出来そうな広さだ。
「村人が皆集まって、ここで祈るのだ。地球から助けが来るようにな。そしてお前たちが来た」
「僕たちはこのHELPの文字を見て降りてきたんだ」
「文字?それは何だ?」
 紙とペン、と言いかけてアルフレッドは気づいた。宇宙船は全てデジタルだ、アメリカ隊もそれは持って無いはずだ。あの惑星でアメリカ隊は着陸船と少なくとも1人の隊員を失った。ここでの暮らしは厳しかっただろう。紙とペンを作り、子供たちに教える余裕はなかったはずだ。
「いや、僕たちはこの黒い模様を見たいと思ったんだ」
「祈りの場はご先祖様が作った。だから俺たちはここで祈る。そしてお前たちが来た」
「何を祈るんだ?」
「俺たちを約束の地へ連れて行ってくれ」
「約束の地とはどこだ?」
「夜になると見える。美しく輝く星だ。そこへ行くには神の箱舟がいる。お前たちの船は小さい。神の箱舟は空の上か?」
「空の上には母船がいるが、神の箱舟とは何だ?」
「神の箱舟はゴモラとソドムを神の雷で滅ぼした。そして我々を約束の地へ連れて行った。だが、そこには悪魔がいた。神の箱舟は悪魔に乗っ取られた。だから、我々は新しい箱舟を神に祈っていた。そしてお前たちが来た」

 アルフレッドが言葉を失っていると、ゴチョウは祈りの場に立っている小さな十字架を指さした。
「縦の柱と横の棒が交わる所に神がいる。約束の地へ導く神だ」
 十字架を見つめていたソフィアが言った。
「穴がある、縦と横の交わる所に」
 アルフレッドは十字架が異教徒のものに思えた。いや、自分が異教徒なのだと気づくと触れるのはタブーだとおもった.
「ゴチョウ、穴はどうなっている?」
 ゴチョウは十字架に手を伸ばした。穴の栓を外すと小さな白い物を取り出した。
「約束の地へ導く神だ」
「それは・・・メモリーステックだ」
「神は俺たちを約束の地へ導く。だが神は箱舟を失った。神が箱舟に乗り移った時、我々は約束の地へ向かう。お前たちの箱舟に神と俺たちを乗せてくれ」
「母船に艦長がいる。君たちを乗せるか決めるのは艦長だ」
「カンチョウ?」
「そうだ。僕たちの中で一番偉いのが艦長だ」
「お前たちは兄弟だと思っていた。だが、そうではないと分かった」
「どうして、そんなことを言う?」
「お前たちにカンチョウを見せてやる、付いてこい」

 ゴチョウが歩き出した。2人は後を追う。村はずれの畑に人がいる。2人が首枷を付けて働いている、1人は鞭を持っている。
「あれがカンチョウだ」
「鞭を持って囚人を見張っているのか?」
「違う。カンチョウとは囚人のことだ。あの男は仲間を裏切った。もう1人は嘘つきだ」
「・・・なんで、囚人がカンチョウなんだ?」
「昔からの決まりだ。お前たちにはあきれた。囚人が一番偉いとはな」
 アルフレッドは困惑した。住民とのトラブルはまずい。安心して調査できないどころか、最悪の場合あの惑星の二の舞いになる。
「違うよ。地球には浣腸という罰がある、けつの穴に棒を突っ込むんだ。それで囚人をカンチョウと呼ぶようになったのさ。あたいたちが呼ぶ艦長は船の長という意味さ。あんたのカンチョウとあたいたちの艦長は、言葉は似てるけど別物さ。これが本当の勘違いだね」
 ポカンとしていたゴチョウが笑いだした。
「わはは、そうだったのか。俺もへんだと思ったよ。カンチョウと艦長で勘違いか、わはは。しかし、地球も野蛮なことをするな」


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