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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第3回   第3話  4041年 HELP
コントロール・ルームは微妙な空気が漂っていた。あの危険な惑星には行きたくない。一方で、この星の気候は暑すぎる。あの惑星か、この星か?クルーが2つに分かれているというよりも、各自の心の中が2分されていた。
 モニタに次々と数字が表示されるが、結論は出ない。艦長はこの星は移住に適さないと考えた。会議を招集しようとした時、地表を観測していたオペレーターが叫んだ。
「あっ!」
「どうした?」「何が見えたんだ?」
 オペレーターが口を開いたままモニタを指さした。そこにはHELPの文字があった。

 調査隊のメンバーが発表された。リーダーはアルフレッド、他5名と少ない。パイロットもアメリアだけだ。前回のミッションでパイロットを2名失ったからだ。HELPの文字は地球人を表している、危険性は少ない。それが艦長の説明だ。とはいえ、6名は心細い。着陸船の中では全員が沈黙していた。張り詰めた空気を和らげようとアルフレッドが口を開いた。
「ここにいるのはアメリカ隊の子孫だろう。そう心配することはない」
「文字に見えるが自然現象かもしれない」
「あたいがいるんだ、まかせときな」そう言ってソフィアが膝の上のライフルを示した。「この前、あたいの腹具合が悪くなかったら、死ぬのは半分で済んだんだ」
「どうして、軍を止めてオペレーターになったんだ?」
「陸軍大学を卒業して3年間軍務につけば学費が安く済むってわけさ」
「3年の軍務はどうだった?」
「きつかったさ、あんたならゲロ吐いてダウンだね」
「唯一の元兵士だ。頼りにしてるぞ」
「お喋りはおしまいよ」アメリアの声が響いた。「目標を発見、着陸に備えて」
「着陸したら、僕が1人で外にでる。皆は機内で待機だ」
「かっこつけるんじゃないよ、アルフレッド。あたいが援護する」
「ありがとう。着陸してもゲートは開くな。非常口から僕とソフィアが外に出る」
「見張りもいたが良いぞ、僕も外に出る」ジョージが手を挙げた。「循環システムが好調で、僕は必要なくなった」

「目標上空200ヤード」
 アメリアの声に全員が窓を覗いた。それはHELPの文字にしか見えない。そこに人らしき姿が集まってきた。アメリアがマイクを握った。
「下に降ります。そこは危険です、火傷するよ。速やかに移動しなさい」
 下の人影が駄目だと言うように手を振った。そして少し離れた広場を指さした。
「言葉が分かるみたいだぞ」着陸船の中がざわついた。
 広場に着陸するとアメリアが叫んだ。
「相手は大勢よ、外に出ないで。船内から様子を見ましょう。すぐ飛べるようにエンジンは止めないわ」
 アルフレッドは目を凝らして近づく者の顔をみる。サルではない!人だ。弓を持っているが攻撃する様子はない。外部マイクが外の声を拾った。
「あそこは俺たちの祈りの場だ。降りてはいけない」
「英語だ!」「アメリカ人だ」
 アルフレッドがリヤゲートを開いて外に出た。ソフィアは念のためライフルを持って出る。1人の男が進み出ると言った。
「俺はこの村のゴチョウだ。お前たちは地球から来たのか?」
「そうだ、我々は地球から来た。ゴチョウとは何だ?」
「村を治めるのはゴチョウだ。俺たちはアメリカの地球の子孫だ」
 アルフレッドは思った。あの惑星でアメリカ隊の着陸船を見たのは414年前だった。彼等がこの星に来たのはその頃だろう。400年で地球の知識は忘れられたようだ。イギリスの名を出せば説明が面倒なだけだ。
「僕たちは同じ地球の人間だ」
「おお、俺たちは兄弟だ」
「兄弟よ、君たちはいつからここにいる?」
「ずっと昔からだ」
 その時、1人の男が走って来てゴチョウに叫んだ。
「ルーカスが屋根から落ちた」
「分かった、すぐに行く」
「僕も行って良いか?」
「ああ、付いて来い」
 
 中年の男が倒れている。
「足が痛くて動けない」
「ルーカス、しっかりしろ」
「ゴチョウ、俺はもう駄目だ。今まで世話になった、ありがとう」
 アルフレッドは何もできずに見ているしかない。少し遅れてソフィアが来た。ライフルの他に救急箱も持っている。しゃがむとルーカスの足を触った。「痛っ!」ルーカスが苦痛の声をあげた。
ソフィアが顔を上げるとゴチョウに言った。「骨折だ」そしてアルフレッドに言った。「軍で応急手当の訓練をした」救急箱から注射器を取り出すと、ルーカスが叫んだ。
「その針で俺を刺すのか、止めてくれ」
「何を言ってんだい、鎮痛剤だ。これで楽になるんだよ」
「俺は死ぬ、放っておいてくれ」
「あんたっ!」彼の妻が駆け込んできた。息が切れて喋れない。ルーカスが片手を上げると、妻がその手を握った。
「エマ、ありがとう。お前と一緒になって幸せだった」ルーカスはそう言うと、死んだ。

 泣いている妻から離れると、ゴチョウが2人に言った。
「葬式は明日だ。俺は戻って準備する」
「あたいが触ったから死んだんじゃないよ」
「分かっている。ルーカスは死に時を悟った」
「明日の葬式に僕たちも出ても良いか」
「おお、ルーカスも喜ぶだろう」
 2人は思った。足の骨が折れて死ぬとは聞いたこともない。何故ルーカスは死んだのか?村人は400年で何かが狂ったのだろうか。

 夕方になって着陸船にクルーが戻って来た。最初にハロルドが口を開いた。
「村人が100人は少ない。川で水浴びをしているのが原因かもしれない」
「寄生虫かい?感染症かい?」ソフィアが聞くとアルフレッドが言った。
「屋根から落ちた男が、足の骨折で死んだ。あっさり死にすぎる。それが原因かもしれない」
 ジョージが発言する。
「米に似た植物を見つけた。野草だが実は食用になるそうだ。実が熟したら穂を刈り取る、変だろう?」
「何が変なんだ?」アルフレッドが質問する。
「野生種は熟した実はこぼれる。栽培種なら実が穂に付いたままだ」
「どういうことだ?」
「栽培種が自生している」
「アメリカ隊は米を植えたが、子孫は栽培方法を忘れたのか」
「植物学的にはそう思えるが、常識的には変だ」ジョージが肩をすくめて両手を開いた。
 ソフィアが話題を変えた。
「狩りの獲物は鹿、鳥、大トカゲだとさ」
「ライオンのような猛獣はいないのか?」
「いないとさ、ここは平和だよ」
「移住した時に駆除したのだろう。その時にはライフルもレーザーガンもあったはずだ」
「あたいも、その時に来たかったね」
アルフレッドが笑ってから、真顔になって話し出した。
「この星に住むのか、アメリカ人と暮らすか、あるいは前の惑星に行くのか何も決まっていない。艦長は詳しい調査を望んでいる。僕とソフィアは明日、葬式に出る。ジョージとハロルドは調査を続けてくれ」


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