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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第2回   第2話        ダミー
「エミリー、あんたが死んでから悪い事ばかりよ。やっと地球に帰れたと思ったら・・・」
イザベルが涙を拭いていると艦内放送があった。
「各員に告ぐ、5分後に勤務を中断して待機せよ。艦長の訓示がある」
艦長の話を一人で聞くのが怖い、イザベルは部屋を出た。食堂にはすでに10人ほどが集まっている。その中にハロルドを見つけた。
「ねぇ、教えて。地球は何故凍ったの?」
ハロルドは思った、艦長はどこまで話すのだろう?それを聞くまでは迂闊なことは喋れない。
「幾つかの要因が重なったのかもしれない。太陽活動が弱くなったとか、星間物質のせいかもしれない」
「どういうこと?」
「宇宙の塵は一様ではなくてムラがある。太陽系が塵の濃い部分に突入すると、太陽の光は塵で分散されて地球に届く量が減る」
「それだけで地球が凍るの?」
イザベルの言葉を遮るように艦内スピーカーが鳴り出した。

「諸君、艦長のウィルソンだ。我々は長い探索の旅を終えて地球に戻った。そして諸君と同様に私も驚いた。地球は凍っているではないか。いったい何が起こったのだろう?地球には生存者がいるが、我々の問いに答える余裕はないようだ。彼等は数十ケ所に分散して暮らしている。それは石油や石炭の産地だ。諸君も知ってのとおり、我々が出発する以前に化石燃料は使用禁止になった。地下には大量の燃料が眠ったままだ。生存者は豊富な燃料で発電し、暖房も照明にも不自由していないはずだ。彼等は地下に農場を作り、巨大なタンクで培養肉も作っているだろう。やがて二酸化炭素は増加して氷を解かすだろう。

 専門家によれば地球は過去に3回も全球凍結したそうだ。しかし、地球の生命はそれを乗り越えた。だから我々が存在する。今回も生存者は乗り越えるはずだ。私は母国に着陸して生存者の様子を見たい。しかし、我々には彼等を援助する余裕はない。彼等に我々への援助も期待できない。我々は第2の地球を目指す他ないのだ。
 諸君に良い知らせがある。その星を見つけた。ここから201光年だ。大気の組成や気温は地球と大差ない。海があり、生命が存在する可能性は高い。公転と自転の周期も地球に近い。期待できる惑星だ。チャレンジ精神に富み勇気ある諸君を私は誇りに思う。6時間後にワープする」

 食堂にまばらな拍手が響いた。イザベルが質問を続ける。
「全球凍結って百年くらいで終わるの?」
「今回の全球凍結は原因も分からないし、どのくらい続くかも分からない」
「ハロルド、あんた専門家でしょ。何で分からないのよ」
 二人の会話にジョージが割り込んできた。
「研究するほど謎が増えて、迷路をさまよい歩く。それを専門家と呼ぶのさ」
「それじゃ、あんたに循環システムを任せられないわね?」
「スピルリナは奥深い生き物でね、僕の手を離れて自由に繁栄している。クロレラは増えすぎてミートワームも大喜びだ」
 イザベルは顔をしかめ、ジョージをにらむと離れていった。ハロルドが肩をすくめて言った。
「彼女が虫嫌いなのは知ってるだろ?」
「そうかい、でもハンバーグを美味そうに食ってるぜ。ところで僕の部屋に来ないか?ここにいると、また面倒な質問がくるぞ」

 循環システム室に入ると微かに排泄物の臭いがした。そのせいかハロルドの他には誰もここには来ない。二人だけで話すには都合の良い場所だ。
「艦長の言い方では全球凍結を乗り越えたのは、マンモスを追っていた原始人みたいだ。本当は何だ?」
「バクテリアだ」
「バクテリアが人類の祖先か!?」
「だいぶ遠いけど間違ってはいない。前回の全球凍結は7億年前だ」
「少ない生存者の出す二酸化炭素で凍結は終わるのか?」
「全然足りないさ、艦長も余計な事を言ったな」
「前は何年で終わったんだ?」
「1億年だ」
「えっ・・・1億年!」
「今回はそこまで長くはないだろうが、分からない。僕たちが地球に戻ったのは1686年ぶりだ。そんな短期間で全球凍結したのが不可解だ」
「核戦争か?」
「その冬は半年で終わるはずだ・・・が、さらに悪条件が重なったのかもしれない。大きな隕石の衝突とか・・・」
「二酸化炭素固定菌かもしれない。タンクから流出した菌が川や池で生き残り、突然変異して海で繁殖すれば回収は不可能だ。菌が爆発的に増えれば二酸化炭素濃度は短期間で低くなる」
「その可能性もあるな」
「だが、どれも推測でしかない」
「そうだな、僕たちは迷路をさまようしかない」
 ハロルドがそう言って笑うと、ジョージが真面目な顔で培養タンクを指さした。

「艦長は嘘を言わないが、都合の悪い事は発表しない」
「何か起こったのか?」
「11人の仲間が減ってバランスが崩れた。二酸化炭素と肥料が減って、藻の活性が落ちた。もうすぐ酸素が減り始める。だが艦長は循環システムを修復する気はない」
「いつまでもつ?」
「せいぜい10日間だな。あとは酸素タンクの残量しだいだ」
「期待できる惑星に行くには十分だ」
「あの星はダミーだ。星に着いて駄目だと知る。食料も燃料も残り少ないのは皆が知っている。さらに酸素まで少なくなると選択の余地はない。例の惑星までたったワープ1回だ」
「仲間が死んだ星は気が進まないな」
「奴等とは別の大陸に行く。もう着陸地点も決まっているはずだ」
「本当か?」
「さまよい歩けばそこにたどり着くさ」


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