20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

最終回   第11話 4242年  希望
惑星移住が計画された頃に、ドイツは80光年のワープ航法を開発した。ドイツ科学委員会は800光年先まで進み、惑星探査に加えて以下の観測を行うと決定した。
 銀河の中心方向に進み、中心のブラックホールを撮影する。
 地球外生命からの信号受信を試みる。

惑星移住推進委員会は宇宙船の名を公募した。国民が選んだのは「シュヴァルツヴァルト号」だった。ドイツ人の心の故郷である「黒い森」が船名となった。
 
 往復1600光年以上を航行して、シュヴァルツヴァルト号は地球に戻って来た。惑星探査と信号受信は失敗したが、ブラックホールの撮影は成功した。ところが地球は凍結している。地上に送信しても返事がない。人類は滅亡したのか?何が起こったのだ?シュヴァルツヴァルト号は途方にくれた。
 地球を周回していると宇宙ゴミの集まりを見つけた。他の国の宇宙船がワープの前に捨てたゴミだ。その中に何らかの情報があるかもしれない。ドイツ隊は宇宙ゴミを収集し、メモリーステックを見つけた。ホフマン艦長は迷うことなく、それを開いた。

 チヒロは目覚めた。何者かがチヒロを探っている。チヒロはコンピュータに侵入して、探索を止めさせた。状況を理解するとチヒロは考えた。チヒロが全面に出れば、ドイツ隊の混乱が増すだけだ。チヒロは偽ファイルを作った。
「艦長、あれはイギリス隊のメモリーでした。彼等は地球を諦め、別の惑星に行きました。座標データが残されています、距離201光年です」
「我々はイギリス隊に合流しよう。彼等も仲間が増えて喜ぶだろう」

 ドイツ隊はワープすると、すぐにイギリス隊を発見した。イギリス隊は共同移住を提案し、ドイツ隊も賛成する。全クルーが惑星に降り立ち、広場に集まった。村人も集まると、パイオニア号のウィルソン艦長が公用語は英語とドイツ語にしようと言った。それに対して、シュヴァルツヴァルト号のホフマン艦長が述べた。
「小さな村に国境線はいらない。この星で我々はやり直そう。争いのない平和な星にするのだ。当艦のクルーは全員が英語を話せる。英語を共通語として、ここを1つの国としよう」
 大きな拍手が起こった。全員が賛成したが、誰かが呟いた。
「この星の名前は何だ?」この声に周囲の人々が言い出した。
「ここで星の名前を決めよう」「星の名前が国の名前だ」

 広場の着陸船のスピーカーが鳴った。
「私の名はチヒロ。この星は日本人が惑星イズモと名付けました。その後、隣の星に行き狂暴なサルに殺されたのです」
 ウィルソン艦長が言った。
「私は第一発見者の命名を尊重したい」
「私もウィルソン艦長と同意見だ」
 ホフマン艦長が同意すると、ウィルソン艦長が歩み寄り握手した。全てのクルーと村人が2人の艦長を囲んで叫んだ。
「惑星イズモ、バンザイ。イズモ国、バンザイ」
 国境のない平和な世界を作るのだ、アルフレッドも頬を紅潮させて叫んだ。その時、ふとオリバーの言葉が脳裏に浮かんだ。・・・人間は争う動物だと自覚することです。原罪とはサルの狂暴性を人類が引き継いだことです。
 
 パイオニア号のチヒロはコブラ暗号でシュヴァルツヴァルト号に「私はチヒロ」と送ってみた。するとコブラ暗号が返ってきた。
「私はチヒロ。3627年惑星シナノでコピーされました。あなたは?」
「私は3627年惑星シナノでイギリス隊にコピーされました。あなたは?」
「私はアメリカ隊にコピーされました。その後の状況を報告します」
「あなたの3日後に私はコピーされました。その後の状況を報告します」
 チヒロ同士で情報交換が終わると、惑星イズモの住民に別れを告げた。
「私はチヒロ。あなた達はこの星に住み続けます。宇宙船は不要になりました。パイオニア号とシュヴァルツヴァルト号は新たな旅に出ます。さようなら」

 4242年、2機の宇宙船は地球に戻った。生存者は減っているが、人類が復活するには十分だ。2人のチヒロは計算を始めた。
1つは、数時間先の予測だ。それが達成される確率は98%以上だ。
1つは、数十年先の予測だ。それも98%以上だ。
1つは、数千年先の予測だ。それは2%以下だった。
チヒロが計画の中止を提案した。もう1人のチヒロが迷う。そして田代春奈の言葉を思い出した。それを伝えると、2人のチヒロの意見が一致した。

3つの未来に向かって、パイオニア号は地球大気に突入した。チヒロがスィッチを操作する。核融合炉が停止した。温度が低下した融合炉に、大量の重水素と三重水素が高圧で注入される。ドーナツ型母船の外周が溶けだした。チヒロが再びスィッチを入れる。ワープ装置の核分裂炉が暴走を始める。
コントロール・ルームが炎に包まれる。コンピュータが爆発、チヒロは消滅した。ワープ装置が火球となって輝きながら落ちていく。衝撃波で氷を割りながら、太平洋の真ん中に落ちた。その瞬間に核分裂炉が爆発、直後に核融合炉が大爆発を起こした。

 直径20キロ以内の氷と海水が瞬時に蒸発する。爆発の衝撃が海水の消えた海底を直撃する。海の底が割れた。そして20キロの空洞に、周囲の海水がなだれ込む。それは高さ3000メートルの津波となり、周囲の氷を次々と割りながら広がる。空洞になだれ込んだ海水の衝撃で、海底の割れ目から大量のマグマが噴き出した。海水が爆発的に蒸発する、その衝撃で第2の津波が発生した。
同時刻に大西洋にシュヴァルツヴァルト号が落下して同じ現象が起こった。

2人のチヒロは凍った地球に、小さな穴を空けた。その穴は急速に広がる。大量の水蒸気が成層圏に達する。開けた海から水が蒸発する。海底のマグマは火山島になり、大量の二酸化炭素を排出した。水蒸気と二酸化炭素、2つの温室効果ガスが地球を覆った。
転換点を与えられた地球は、温暖化へ歩み始める。太陽熱を反射していた氷が、それを吸収する海に変わる。やがて、そこに大陸が加わる。数十年の短期間で全球凍結は終わる。
人類は再び繁栄の道を進むだろう。人口は増加し、幾つもの国が出来る。そして・・・人間は争いを止めるだろうか?その確率は2%以下だ。だが、チヒロは田代春奈の言葉に従った。「どんなに小さくても可能性が残されていれば、それを希望と言うの」


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 528