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作品名:セカンド・プラネッツ後伝・・続編  作者:織田 久

第1回   第1話  3840年 カメラ
 着陸船の上部カメラは回転して外部を360度撮影する。映像は着陸船と共に母船にも送られる。母船は90分周期で惑星を回るので、生中継出来るのは40分だ。母船に電波が届かない50分は録画され、生中継の直前に送信される。
 母船が惑星の陰から出たのに画面は暗いままだ。オペレーターが騒ぎ出した。カメラの故障だ、エミリーに確認しよう。その時にエミリーの緊急連絡が入った。

 悲惨な事件から10日経って、オペレーターのアルフレッドはビデオを確認した。オスカーが着陸船から日本の宇宙船にケーブルを繋げた。15分後に映像が消える。それは母船が陰に入ったからだ。だが、その続きの50分を見ると何も映っていない。
ビデオを細かく見直す。日本船の下は緑だが、着陸船の下草は茶色く焦げている。アメリカ隊が着陸したのは、比較的最近のことだ。そして2つの船はケーブルで繋がっていた。アメリカ隊は日本船に電気を送ってコンピュータの再起動を試みた。オスカーもそう考えたはずだ。
オスカーが日本船に入った。5分後に出て、こちらに歩いてくる。満足気な顔でケーブルを引き出すと、それを引っ張りながら日本船に戻った。再起動の成功を予想しているように見える。この15分後に母船は電波が届かなくなる。そう思った時にビデオのカウンターに目がいく。スタートから20分を示している、残りは20分だ。5分早くビデオが止まったのだ。
その瞬間、アルフレッドに1つの考えが浮かんだ。オスカーは再起動してデータのあるファイルを特定した。だが、彼はメモリーを持っていない。彼は日本船から直接、母船にファイルを送ることにした。残り時間が5分でオスカーは慌てたのだろう、着陸船の連絡用周波数ではなく、カメラの周波数で送信した。2つのデータで混戦した電波を、母船のコンピュータは不正侵入と判断し受信拒否したのだ。
「くそっ」アルフレッドは思わず呟いた。自分も関わったセキュリティー・プログラムが、意図しない形で作動してしまった。それがなければ映像だけでなく、日本隊のデータも入手出来たのだ。

コンピュータを確認すると、思ったとおり受信は停止している。アルフレッドは受信拒否を解除した。するとモニタに映像が映った。アルフレッドは目を疑った、映っているのは母船だ!カメラはまだ動いている。カメラの録画時間は7日だが、すでに10日経ってしまった。映像は上書き消去されてしまった。それを復元できる装置は宇宙船にはない。地球に戻ってやるしかない。
 それを聞いた艦長は不機嫌だった。船長はマイケルを指名したが、アメリアが命令に背いて宇宙服を着た。だからカメラを止め忘れたと思っている。

 着陸船1号機はアメリアとフレデリック、2号機はエミリーとマイケルだった。2号機でトラブルが生じていると、アメリアがアルフレッドに相談にきた。マイケルがエミリーに思いを寄せているが、エミリーは彼を嫌っている。宇宙船という閉鎖空間で男女トラブルはタブーだ。表面化すれば、被害者であるエミリーまで非難されるかもしれない、とアメリアは心配している。上手い対応策はないだろうか?アルフレッドは簡単な方法をアドバイスした。

1号機に出動が決まると、アメリアが体調不良を訴えた。代わりにエミリーが1号機に乗る。こうして2号機のマイケルのペアはアメリアとなった。
 エミリーが負傷して2号機のマイケルとアメリアが救援に向かう。艦長がアメリアに言った。
「体調不良の君を出動させたくないが、代わりがいない。エミリーの怪我が軽ければ、彼女に操縦を任せても良い。とりあえずマイケルと共に行ってくれ」
 アメリアは仮病だとは言えずに出動した。

1号機は原住民に汚染されている。防護服を着たクルーが原住民を始末し機内を消毒する、という手筈だった。ところが、エミリーと原住民は血まみれで重なるように死んでいた。汚染がひどくて防護服では防ぎきれない。完全に防御可能な宇宙服で作業することになった。宇宙服は本来、無重力で着るから服の重さはゼロだ。それを陸上で着れば40キロの荷物を背負うことになる。艦長はマイケルを指名した。
 作業手順が変更された。エミリーの遺体を回収する前に、汚染された衣類を取り、身体を消毒してから袋に入れる。それを聞いてアメリアが宇宙服を着ると言い出した。マイケルに裸体をさらすのは、エミリーが可哀そうだと思ったに違いない。艦長は体調不良のアメリアが重労働をするのを危惧した。アメリアは艦長の反対を押し切って宇宙服を着た。その重さに疲労困憊して、着陸船のカメラを停止するのを忘れた。それを責めるのは酷だとアルフレッドは思った。
母船のオペレーターはカメラが故障したと叫んだ。それをアメリアもコントロール・ルームで聞いている。全員がカメラの故障と思い込んでいた、その確認をしなかったのはアメリアだけではない。アルフレッドも含むオペレーターの責任でもある。
  
 地球が凍結していてビデオの復元は出来なくなった。新しい有望な星に向かう途中で、艦長が着陸船のビデオが見たい、と言い出した。装置がない船内で復元は無理だと思われた。それでもアルフレッドは挑戦してみようと思った。それは艦長ではなく、アメリアのためだ。

 アルフレッドが艦長室に入ると言った。
「ビデオの復元に成功しました」
モニタに日本の宇宙船が映る。画面がゆっくり右へ移っていくとアメリカの着陸船が見えた。さらにカメラが回ると草原が広がる、そこをフレデリックが走っている。彼が止まって振り向いた、途端に矢を受けて倒れる。
「ストップ、ちょっと戻せ。彼が立ち止まった所に何かあるだろう」
 艦長の指示を受けて、アルフレッドは画面を操作する。
「拡大します・・・十字架?」
「私にもそう見える。フレデリックはキリスト教徒の墓を見つけた。そこに草は生えていない」
「はい、土が盛り上がっているように見えます」
「アメリカ人が死んだのは、最近だな」
「アメリカ人ですか?」
「日本人にキリスト教徒は少ない。墓は1つだけか?」

 アルフレッドは再生を続行すると、草原に男の背中が現れた。
「オスカーだ!」2人が同時に叫んだ。
 彼はレーザーガンを撃っている。弓矢を持った3人の原住民の1人が倒れた。オスカーが振り向いて叫び、着陸船の近くに迫った敵を撃った。その直後に倒れた。
「オスカーは着陸船を守ったんだ」
「彼の勇気と犠牲的精神を讃え、冥福を祈ろう」艦長は十字を切ると言った。「奴等の正体を見せてくれ」
 弓を構える顔が映るとアルフレッドは呟いた。
「人に似ている・・・いや、サルだ」
「狂暴なサルだ。このことは口外するな。時期をみて私から発表する」
「分かりました」アルフレッドは答えながら考えた。サルを見ればクルーは移住を嫌がるだろう。しかし、住めるのはサルの星だと艦長は予想している。艦長が発表するとしたら、そこに着陸した後だ。


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