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作品名:爺ちゃんの夢 作者:織田 久

最終回   第3話 鬼ごっこ
そこは墓場だった
幼児の俺が恐くて泣いているので、大人の俺が助けに行った
今までは交互に出ていたのが、二人同時に出られるようになったのだ
これは科学が進歩したからだろうと俺は思った

「久ちゃん、大丈夫だよ」
「おじさん誰?どうして僕の名前を知ってるの?」
「それは君が俺だからさ。つまり君が大きくなったのが俺なんだよ」
幼児の俺は、大人の俺を変なおじさんだと思った

「爺ちゃんと婆ちゃんは何処に行ったの?」
「爺ちゃんは君が中学生の時に死んだよ。婆ちゃんは大学生の時だった」
そう言った後で、幼児の俺に過去形で話したのは不適切だったと気付いた
「君が中学生になると爺ちゃんが死んで、大学生になると婆ちゃんも死ぬんだよ」
「僕は来年から小学校だよ。爺ちゃんも婆ちゃんも死んでないよ」
「あのね、君はこれを君の夢だと思っているけどね、僕の夢なんだよ」
「これは夢なの?変な夢だね。変なおじさんが変な事を言うし」
こまっしゃくれた生意気なガキだと、大人の俺は腹が立った

「ほら、これを見てごらん」
動かぬ証拠を見つけて、大人の俺は得意になって墓石を指差した
<爺ちゃん 中学生の時永眠>
<婆ちゃん 大学生の時永眠>
「どうだい、おじさんの言った通りだろ」
「お墓は○○家と書くもんだよ。変なお墓。変なおじさん。僕、こんな変な夢を見るのは初めてだ」
「だから、これは俺の夢だと言ってるだろ」
幼児の俺に馬鹿にされて、大人の俺は怒りが湧いてきた
生意気なガキの尻を叩いて折檻してやろうと思った
手を伸ばすと幼児の俺はすばやく逃げ出した
「ふっ、ふっ、逃げても無駄だぞ。俺は足が速いからな」
俺は追いかけたが、追いつかない
「しまった!アイツも俺だったんだ。足が速いんだ」

二人で走っていると、そこは校庭だった
スピーカーから女教師の声が聞こえた
「親子競争で〜す。お父さん頑張って〜」
運動会の親子競争とは違うような気がしたが、とりあえず俺は叫んだ
「俺とアイツは親子じゃないぞ」
あんな生意気なガキと親子だなんて、とんでもない
「そんなら、鬼ごっこだろ」
その声は来賓のテントから聞こえた
テントの中にいたのは爺ちゃんだった
爺ちゃんは赤くなったほっぺたを擦りながら叫んだ
「そいつはほっぺたスリスリ攻撃をしてくる悪い鬼だぞ」

女教師がマイクで叫んだ
「鬼退治を始めます」
全校児童がワァーと俺を取り囲むと白玉と赤玉を投げつけてきた
「アイタタ・・」
俺は逃げ回ったが子供達はぐるりと俺を取り囲んで玉を投げつける
それが玉入れ競争の玉だと気付き、俺は名案を思いついた
玉入れの籠を立てたのだ
子供達は俺ではなく籠を狙って投げ始めた

「しめしめ、上手くいったぞ」
四方八方から白い玉、赤い玉が飛んできては頭上の籠に入って消えていく
下からそれを見ているのは面白かった
子供達が投げる玉は、全部が籠に吸い込まれていく
俺は安心して見上げていると、突然メリメリッと音がして籠の底が抜けた
大量の玉がドサッと俺の頭に落ちてきた
「痛いよ〜、爺ちゃん助けてくれ〜」
爺ちゃんは壇に上がると来賓代表の挨拶をはじめた
「こういうアホな大人にならないように、君たちはしっかり勉強しましょう」


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