恐怖の為か、俺は大人になっていた 大人だと恐さが薄れたような気がした 「これは夢なんだから、何でもないんだよ」 そう自分に言い聞かせると、俺は安心してまどろみ始めた
しかし、その声は俺の夢の中にも追いかけてきた 「なむまいだ、なんまいだー、なんまいだ?」 ハッと俺は気付いた。その声は問うていたのだ 「何枚だ?何枚だ?」 「えーと、横1列が15束だから1,500枚で・・・縦は何列あったっけ?」
俺は起き上がって札束を数え始めた 「1,2,3・・」 「何枚だ?何枚だ?」 「・・17,18,・・ん?」 「何枚だ?何枚だ?」
お経が邪魔をして途中で数が判らなくなる 何度も数え直すが、やはり途中で訳が判らなくなる 突然、お経が止まった 「こりゃ駄目だ。数もろくに判らんアホに、大事な田んぼを売った金は渡せん」 その声と共に床に並べていた札束がフッと消えてしまった 札束のあった所には黒くて丸いシミのような物があるだけだった 「何だろう?」 手を伸ばすと、それは固かった 「今日はお祭りだ!」 俺は幼児に戻ると10円玉を握りしめて外に飛び出した
田んぼの中の道は真っ暗だった それなのに爺ちゃんと婆ちゃんが振り返るのが見えた 「早くおいで」 「お祭りが終わっちゃうよ」 「待ってー」 俺は二人を追いかけた
神社の境内には櫓(やぐら)から放射状に提灯が並んでいる さらに境内を提灯の輪が囲んでいる 屋台の裸電球の明かりも輝いていて昼間のように明るい いや、それは昼間よりも輝いている
俺は懸命に走ったが、歩いている爺ちゃんと婆ちゃんに追いつけない 二人はお祭りの灯りの中に消えていった
俺が近づくにつれ提灯の数が減っていく やがて提灯は1個だけになった 変だなと思いながら提灯を見上げた と、提灯が真ん中からパカッと割れた 割れ口から真っ赤な舌が出ると同時に、目を開いて言った 「うらめしや〜〜」 「爺ちゃん〜〜助けて〜、婆ちゃん〜〜恐いよう〜」
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