夢の中で俺は幼児だった それなのに一人でバスに乗っていた しばらく走ると家並みは途切れ、田んぼが広がっている バスを降りると田んぼの中の道を歩いた やがてポツン、ポツンと家が見えてきた その1つが爺ちゃんの家だ
爺ちゃんは俺を抱き上げ「おお、よく来た、よく来た」と頬擦りした 爺ちゃんはいつも無精ヒゲを生やしていて、それがチクチクした 俺は「爺ちゃん、くすぐったいよう〜、痛いよう〜」と嫌がった 爺ちゃんは面白がって、なかなか止めようとしなかった
俺は突然、大人になっていた。そして思い出した この日のために俺も3日間ヒゲを剃らずにいたのだ 俺は爺ちゃんに自分のヒゲで反撃した 一瞬ひるんだが、さすがに俺の爺ちゃんだけあって、攻撃を止めなかった 二人でヒゲをこすりあううちに俺のほっぺたがヒリヒリしてきた
爺ちゃんは、いつものように言った 「大きくなったなぁ」 「そうだよ、俺もう大人だもん」 「そっか〜、大きくなったはずだな」 爺ちゃんのほっぺたも赤くなっていた ほっぺたをさすりながら爺ちゃんが言った 「今日はお祭りだでゼンコやるぞ」 お祭り、と聞いて俺は幼児に戻った 「わぁ〜〜い」 爺ちゃんは、きっと10円くれるだろう 10円あれば綿菓子が2つ買える
爺ちゃんの部屋にはベッドが1つあるだけだった 財布が入っていそうなタンスも机も何もなかった 不思議に思っていると爺ちゃんがシーツをさっと取り払った 俺は驚いて息を呑んだきり言葉も出なかった ベッドは札束を積んで出来ていたのだった
「田んぼを売ったんだわ」 「へぇー」 「上の1段だけ持ってけ。1段だけだぞ、それ以上取るとベッドが低くて使いにくくなるからな」 爺ちゃんはそう言うと部屋を出て行った シーツを取ったのに枕が残っていた 100万の束を端から取っていくと枕の真ん中で8束になった 「・・・ということは、横1列で1,500万か」 縦は何列だろう、俺は札束を床に並べた 「これで5千万・・・1億」と数えていると、婆ちゃんが掛け布団を抱えて現れた 「おやまぁ、久はえらいねぇ。今日は仏さんの番をしてくれるんかい」 「えっ!」 爺ちゃんの部屋だったはずが、そこは仏間だった
俺は心細くなった。大きな仏壇は不気味でお墓の匂いがした 泣きたくなったが、婆ちゃんの前なので我慢した 「おやすみ」 婆ちゃんが電気を消すと部屋は真っ暗になった さらに俺は目をかたく閉じた
真っ暗で目を閉じていたのに、仏壇の扉が音もなく開いたのが見えた ロウソクがポッと灯り、仏壇の中から何か聞こえてきた 「南無阿弥陀仏、なむあみだぶつ・・・・」 「うわあー」 俺は蒲団に潜って両手で耳を塞いだが、お経は聞こえてくる 固く目を閉じたのに、仏壇から黒い影が出るのが見えた 俺は心臓がドキドキして、冷たい汗が背中をツーと下りていった
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