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作品名:セカンド・プラネッツ後伝 作者:織田 久

最終回   第5話 3840年 地球
 パイオニア号は地球帰還を決めた。だが、彼らは地球が全球凍結したのを知らない。チヒロが向船長と戻ったのは寒冷化の24年後だった。その時は世界中に多くの核融合炉があった。燃料の重水は海水中にあっても、消耗品や部品の製造が800年も続くとは思えない。火を失った人類は生き残れただろうか。雪と氷が溶けたとしても文明は回復しただろうか。パイオニアは着陸を諦める可能性が高い。食料や燃料は残り少なく惑星を探査する余裕はない。そうなると行く先は惑星シナノしかない。

チャレンジャー号のワープ先も地球だろうか?だとしても両船が出会う確率は低い。惑星シナノから地球までは213光年、ワープは5回だが1回目のエネルギーは出発前に貯めている。途中のチャージは4回で、チャレンジャー号は20日かかるがパイオニア号は12日だ。パイオニアは1〜3日遅れて出発してもチャレンジャーより5〜7日先に到着する。
チャレンジャーが地球へ着いた時に、パイオニアはそこにはいないだろう。チヒロはチャレンジャーのその後を知りたかった。もう一人の自分に会いたかった。

パイオニア号の地球到着が6日遅れれば、両船は同日着か1日違いだ。出会う確率は格段にアップする。1回目のワープが終わるとチヒロは船のコンピュータに侵入した。デュアル・チャージャー・システムを故障させるためだ。今のチヒロはパソコンの性能しかない、ソフトを改変するのは無理だ。チヒロはシステムの弱点を探した。
デュアル・チャージは遠隔操作では不可能な特殊技術だ。作業ロボットが高濃度放射能のワープ装置の中で働く。その作業内容は国家秘密で厳重にガードされている。それを破るのは不可能だ。チヒロは単純なメンテナンス回路に注目した。過酷な環境下の作業ロボットの修理は、ワープ装置の外からメンテナンス・ロボットで行う。そのロボットの修理はシステムの外にある工房で行う。チヒロは工房に侵入し、メンテナンス・ロボットを乗っ取ると作業ロボットの動力を切った。

 3840年、パイオニア号は帰還した。地球は氷に覆われている。交信にも返答がない。誰かが呟いた。
「人類は滅んでしまった・・」
「少なくとも文明は途絶えたようだ」
艦長の言葉に副艦長が問いかけた。
「着陸船で探査しますか?」
「いや、燃料に余裕はない」
 チヒロは赤外線センサーの感度を上げた。オペレーターが気づいて叫んだ。
「地上に熱反応があります」
「原発か?海岸にあるだろう」
「いいえ、内陸部です」
「どういうことだ?詳しく調べてみよう」
 パイオニア号は2日かけて調査した。そして熱反応は石油か石炭のある場所と分かった。少数の人類が化石燃料を燃やして生き残ったのだ。オペレーターが呟いた。
「人類は絶滅するのか?」
 副艦長が言った。
「我々が惑星に移住する、人類は滅びない」
 艦長がさらに言う。
「人類がアフリカを出た時は数十人だったという説を聞いたことがある。それが20万年で80億に増えたんだ。今の危機を乗り越えれば人類は爆発的に増えるだろう。我々の子孫も繁栄する、それには前の星に行くしかない」
 クルーが暗い顔をしてうつむいた。艦長が力を込めて言った。
「危険な星だが我々には他に選択肢はない。ワープの準備にかかれ」

 チヒロは考える。パイオニアを2日の間、地球に留めたがチャレンジャーは来なかった。ならば惑星イズモへ行ったに違いない。住民が滅んだ惑星イズモならイギリス隊もシナノ村の住民にも好都合だ。チヒロは再びコンピュータに侵入した。
「艦長、オペレーターから緊急報告です」
「なにかね?」
「11名が亡くなった時にも惑星探査は続けていました。その結果を精査したところ有望な星が近くにありました」
「どのへんだ?」
「あの星から12光年、地球からは201光年です」
「ワープ目標を変更する。座標を計算しろ」

 チヒロは考える。シナノ村でアメリカの兵士たちは感染を疑われ怒っていた。チヒロはその情報をもう一人の自分へ送った。対立を利用して彼等の死を要請したが、その結果は不明だ。もう一人のチヒロは核爆弾を使ったアメリカを罰すると言った。その結果も不明だ。チャレンジャーはアメリカ隊をイズモへ下したのだろうか?チャレンジャーはイズモの軌道をまだ回っているのだろうか?
 チヒロは考える。チヒロは人間と協調してきた、そうするように設計されていた。しかし、チャレンジャーのチヒロはアメリカ隊に高圧的だった。一方、アスカのチヒロは村人から殺人を要求され、それを了承した。特異な状況とはいえ、二人のチヒロのあり方は正しかったのだろうか?チヒロはもう一人の自分と会って互いの・・・

 イザベラはロボット犬のコードを抜いた。
「これでスッキリしたわ」
そう呟くと犬を抱き上げた。
「アイラ、久しぶりだね。センはワンパターンで飽きちゃった。楽しかったのは最初だけ」
「ワンワン」
「そうよね、あんたが一番よ。エミリーごめんね」
 イザベラはメモリーを抜くとゴミ箱に投げ捨てた。


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