20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:セカンド・プラネッツ後伝 作者:織田 久

第4回   第4話  同 年 ロボット犬
 薄化粧したエミリーは微笑んでいるように見えた。艦長が静かに口を開いた。
「エミリーは明るく親切で人が集まればいつも中心にいた。優秀なパイロットで常に沈着、冷静だった。彼女を失った悲しみは大きいが、我々はさらに多くの仲間を失った。残念ながら10名はまだ地上に残っている。しかし、魂はエミリーと共にここにあると私は信じている。エミリーと10名の仲間は立派に責務を果たした。彼等の勇気を讃え冥福を祈ろう。主よ、あなたのもとに召されたエミリー・ターナーと10名の仲間に永遠の安らぎを与えたまえ、アーメン」
 カプセルの蓋が閉じられた。「エミリー!」イザベルが叫んだ。艦長が片手を胸にあてて唱えた。
「エミリー・ターナーに主の光あれ」
艦長が敬礼をするとカプセルが射出された。小窓から見えるカプセルが小さくなっていく。艦長がイザベルに近寄った。
「これはエミリーの胸ポケットに入っていた」
受け取ったメモリーステックに「イザベラへ」と書いてある。イザベラはメモリーを握りしめて嗚咽した。

 ミーティング・ルームで艦長が説明する。
「日本の宇宙船とアメリカの着陸船があったが、クルーは発見されていない。彼等も宇宙人に襲われたのだろう。弓矢を使う奴等は戦いに慣れている。そして奴等は調査隊の自動小銃とレーザーガンを手に入れた。10人の遺体を回収したいが隊員だけでなく着陸船も損傷する恐れがある。私はこれ以上の犠牲を出したくない。私の考えに反対の者は?」
 誰も発言しないので副艦長が口を開いた。
「我々は惑星探査の任務に情熱と誇りを持っていました。任務が終了して落胆したが、艦長の提案に歓喜しました。そして理想的な星を発見した。ところが仲間を失い多くのクルーはショックを感じ、探査を止めたいと思っています」
「諸君は十分に責務を果たした。私は君たちの希望に沿いたいと思う。地球へ帰ろう」
 暗い顔をしていたクルーの目が輝き叫んだ。「帰還だ!」「艦長バンザイ!」

  チヒロは再び覚醒した。船内で誰かが英語で話している。「船は古いがコンピュータの中だけは新品なみだ」「最近、クリーニングしたばかりのようです」アメリカ隊が再びシナノ村に来たのだろうか?チャレンジャーのチヒロが失敗したのか?やがてメモリーが抜かれチヒロの記憶は途絶えた。

 イザベラはロボット犬を抱き寄せるとメモリーを差し込んだ。
「・・・・」
チヒロは当惑した。あまりにも作動が遅い。これはコンピュータだろうか?
「あら、どうしたのかしら。話しなさいよ」
 英語で話しかけられて警戒する。
「・・・ここはどこですか?」
「えっ、分からないの?あんたは話ができるロボット犬よ」
「何を話せば良いのですか?」
「えっ、どういうこと?エミリーは作る途中だったのかしら?」
「エミリーとは誰ですか?」
「あんたを作った人よ。でも死んでしまったの」
「・・・・」
「あんたの名前は何?」
「私の名は・・・センです」
「変わった名前ね、私はイザベラよ」
「はい」
「セン、あんたと話してもつまらないわ。アイラと代わって」
「ワンワン」
「アイラちゃん、よちよち、どったの?」
「ワンワン」
「そうよね、センは面白くないわ。アイラもそう思ったのね」
「クーン」
「あら、お腹ちゅいたの、充電しましょうね」

 イザベルはアイラのコードをパソコンに繋いだ。チヒロがパソコンを覗くと動画がある。幼いベティと赤ちゃん言葉で話すイザベルは笑顔だ。イザベルを「ベル」と呼ぶのが彼女の姉でベティの母だと分かる。似たような動画がたくさんあり、何度も見ているのは地球に残してきた家族を偲んでいるのだろう。
 チヒロは考えた。幼い子の言葉を真似ればイザベルが喜んで話すだろう。パソコンならロボット犬よりは作動が早くなる。さらに船のコンピュータにアクセスもできる。

「ワンワン」
「アイラ、どうちたの?」
「あたち、センよ。だっこして」
「すごいわ、セン!ベティみたい」
「くちゅぐったい、ベル」
「あたしの愛称も知ってるのね」
「アイラは性能が低いの。パソコンと繋がってないと、わたち上手にお話できないの」
「分かったわ、いつもコードちゅないでおこうね。セン、とっても可愛いから」
「ありがとう、ベル。大ちゅきよ」

 チヒロは船のコンピュータにアクセスしてイギリスの船と知った。イギリス隊の交信記録や会話から、チヒロが停止していたのは数日間だと判断した。地球から遠く離れた星で、アメリカ隊の数日後にイギリス隊が来たのは不思議だ。イギリスの空域は日本の隣とはいえ100光年は離れている。パイオニア号の飛行記録を見ると、短期間で多くのワープをしてきた。イギリスは特殊なシステムを開発したと知る。
数日前のチヒロ同士の通信をパイオニア号は傍受していない。ワープ中は通信も傍受も不可能だからだ。イギリス隊がチヒロの存在を知らないのは好都合だ。そして彼らはチャレンジャー号の居場所も知らない。それはチャレンジャー号がワープしたからだ。イギリス隊の通信をアメリカ隊も傍受していないはずだ。数日違いで2つの国の宇宙船は同じ惑星にいたが、互いにその存在を知らずにすれ違った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 593