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作品名:セカンド・プラネッツ後伝 作者:織田 久

第1回   第1話 3527年 イギリス隊
 ウィルソン艦長は決断した。
「諸君、惑星探査計画は終了した。我々は地球に帰還せねばならない。残念ながら移住できる星は見つからなかったが、それは諸君が完璧な仕事をして、この空域に有望な星が無いことを証明したということだ。私は君たちを誇りに思う」
食堂に集まったクルーが一斉に拍手した。艦長はそれを制すると言葉を続けた。
「諸君も知ってのとおり、惑星探査に14の空域が設定された。しかし名乗りを上げたのは7ケ国に過ぎない。つまり半分の空域は空いている。しかし、他の空域を探査することは宇宙協定で禁じられている」
 クルーが残念そうな顔をする。艦長がその表情を見まわして言葉を続けた。
「諸君は歴史の授業で大航海時代を習っただろう。コロンブスがアメリカ大陸を発見し、その先へ進んだのがマゼランだ。その海を渡った3ヶ月と20日のあいだ嵐はなかった。そこで穏やかな海の意味で太平洋と名付けた。彼の艦隊は水と食料が少ないまま未知の大海に乗り出した。水平線しか見えない単調な日々が続く。上陸できる島は無い、その嘆きを込めた命名とも言われる。我々も宇宙という海へ漕ぎだした。その空域はまさに太平だった。我々の航海がマゼランと同じように終わって諸君は満足か?
「俺は不満だぞ」「もっと探そう」クルーが口々に否定する。
「マゼランの後でハワイやオーストラリア大陸が発見された。見つけたのは我がイギリスのキャプテン・クックだ」
「オオッー」クルーたちがどよめいた。
「私は宇宙協定を破ると決めた。その責任は全て私一人にある。諸君は宇宙のキャプテン・クックになれ。パイオニア号は隣の空域を通って地球に戻る、惑星を探しながら帰ろう」
「ウォー」食堂は艦長を賞賛する大歓声につつまれた。

食堂を出るとイザベラがエミリーに言った。
「お願いがあるんだけど、アイラが喋るようにしてくれない?」
「あら、言葉を話す犬は気味が悪いって言ってたじゃない」
「退屈すぎて話し相手が欲しくなったのよ。エミリーの得意分野でしょ」
「犬が?」
「違うわ、プログラムよ」
「才能が無いのに気づいてパイロットになったのよ」
「今でもやってるんでしょ」
「難しいことは忘れたわ」
「ロボットが話すソフトは簡単よね?」
 そう言いながらイザベラはカフェ・コーナーをのぞくと大きな声を出した。
「オスカー、聞いて。エミリーが簡単なソフトを作ってくれないのよ」
 オスカーがエミリーに聞いた。
「何のソフトだい?」
「プログラミングは止めたのよ」
 エミリーの代わりにイザベラが答える。
「喋るロボット犬、話し相手が欲しいのよ」
「そのくらい作ってやれよ。君ならできるだろう」
 オスカーに反論しようとして、エミリーは思いついた。
「交換条件よ。デュアル・チャージャー・システムを分かりやすく教えてくれたら良いわ」
「あら、私も知りたいわ。教えてよ、オスカー」
「何でそうなるんだ」
 オスカーはそう言って苦笑いした。そして少し考えると話しはじめた。
 
「川を堰止めて木材を浮かべたと想像するんだ。堰を切って水の勢いで木材を流す」
「分かりやすいわ」
「木材を50Km流すには50トンの水がいる。だけど10Kmしか流さないから10トンでは駄目なんだ、最初の勢いに50トンが必要だからさ。そして10Kmの地点で流れから離脱する」
「水がワープ・エネルギーで木材が宇宙船ね」
「デュアル・チャージャー・システムは流されながら水のエネルギーを回収する。これはイギリス独自の素晴らしい技術だ。他所の国はただ流されるだけ」
「他国は5日間かけてエネルギーを貯めるけど、私たちはワープ中にもチャージするから3日間で次のワープが出来る」
 オスカーが頷くと先を続けた。
「システムを活用するためにワープは50光年を基本とする。それが長所であり短所でもある」
「ワープが長いと問題あるの?」
「他国が隣の星まで10光年ワープする時に、パイオニア号は50光年行った先で探査して50光年戻って隣に行く」
「10日間で他国のワープは2回、イギリスは3回よ。探査できる星は1.5倍だわ」
「ワープの距離も回数も多いと、地球時間とのズレが増える。僕たちが出発して10ヶ月ほどだけど地球では1300年以上経った」
「リバプールも海の底かしら・・・戻るのが怖いわね」


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