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作品名:モグラの星(再掲載) 作者:織田 久

第6回   第6話 コンピュータとウィルス
アズマ政府中央管理センターは警備が厳しかった。塀の深さは5メートルでトンネルを掘っての侵入は不可能だ。だが俺には鉄パイプがある。電動入れ歯、老人、犬を叩いたパイプの先は少し曲がっていた。そこを塀に引っ掛けるとパイプを伝って乗り越えた。
コンピュータ室に四角い箱が一つあった。俺は鉄パイプを振り下ろした。コツンと音がしただけで箱は傷一つ無い。くそっ、俺はパイプで打ち続けるが息が切れただけだ。どうやったらコンピュータを破壊できるのか?
「パパ、頭がボウーとしてきた」
息子が赤い顔をしている。額を触ると熱い、これは風邪ではない。インフルエンザ・ウィルスに感染したのだ。
「ハックション、ハックション」
すると、箱がウィーンと音をたてながら赤くなっていく。ウィルスに感染したのだ。コンピュータには免疫システムがないから潜伏期間はゼロなのだ、と意味不明な科学知識に納得する。箱は真っ赤になって膨らみだした。俺は息子を抱きかかえて逃げ出した。
爆発音が聞こえた。真っ黒な煙が空をおおう。塀の中も外も消防車がいっぱいだ。俺は混乱に乗じて外へ出た。

街頭テレビは消えていた。俺は息子を背負って野宿する場所を探していた。いつの間にか大勢の人が俺を見ている。俺は不安になった。だが俺が指名手配だとは知らないはずだ。一人の女が話しかけてきた。
「お子さんは具合が悪いのかしら?」
「はい、インフルエンザかもしれません」
「それはお困りでしょう。家は近くですか?」
「いや、ちょっと遠くて・・・野宿でもしようかと」
会話を聞いていた青年たちが穴を掘り、娘たちが枯れ葉でベッドを作った。そこに息子を寝かせると、女が御御頭の黒焼きを持ってきた。
「熱さましよ、うちの子供もこれで治ったから」
「ありがとうございます。こんなに親切にしていただいて」
「いいのよ、私たち暇なのよ。働いていた入れ歯工場が止まったのよ。変ね、失業したのに、さわやかな気分だわ」

他の人たちも口を開いた。
「ゆっくり歩いて、しかも立ち止まったなんて10年ぶりかしら」
「工場まで脇目も振らず歩いてから、ここにお花畑があったなんて気づかなかったわ」
「僕のジイジとバアバの入れ歯を注文したんだ。だけど工場が止まって・・・二人とも死んじゃうよ」
「コンピュータが壊れたから何もかも止まってしまった。だけど心配するな、女王様が新しいコンピュータを買ってくださる」
「大変だ、大変だ」男が走りながら叫んでいる。「ワームホールが無くなった。女王様はこりん星に戻れなくなった」
「コンピュータが壊れたからか?」
「女王様は地球でこうおっしゃったそうだ・・・こりん星のことは忘れて下さい」
「どういうことだ?」
「女王様はワームホールを掘るのを止めたのか?」
「地球で何があったのだろう。女王様は無事なのだろうか」


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