アズマ政府中央管理センターは警備が厳しかった。塀の深さは5メートルでトンネルを掘っての侵入は不可能だ。そして高さも30センチはありそうだ。立ち上がってもジャンプしても届かない。だが俺には鉄パイプがある。電動入れ歯、老人、犬を叩いたパイプの先は少し曲がっていた。そこを塀に引っ掛けるとパイプを伝って乗り越えた。
コンピュータ室に四角い箱が一つあった。俺は鉄パイプを振り下ろした。コツンと音がしただけで箱は傷一つ無い。くそっ、俺はパイプで打ち続けるが息が切れただけだ。どうやったらコンピュータを破壊できるのか? 「パパ、頭がボウーとしてきた」 息子が赤い顔をしている。額を触ると熱い、これは風邪ではない。インフルエンザ・ウィルスに感染したのだ。 「ハックション、ハックション」 すると、箱がウィーンと音をたてながら赤くなっていく。ウィルスに感染したのだ。コンピュータには免疫システムがないから潜伏期間はゼロなのだ、と意味不明な科学知識に納得する。箱は真っ赤になって膨らみだした。俺は息子を抱きかかえて逃げ出した。 爆発音が聞こえた。真っ黒な煙が空をおおう。塀の中も外も消防車がいっぱいだ。俺は混乱に乗じて外へ出た。
街頭テレビは消えていた。俺は息子を背負って野宿する場所を探していた。いつの間にか大勢の人が俺を見ている。俺は不安になった。だが俺が指名手配だとは知らないはずだ。一人の女が話しかけてきた。 「お子さんは具合が悪いのかしら?」 「はい、インフルエンザかもしれません」 「それはお困りでしょう。家は近くですか?」 「いや、ちょっと遠くて・・・野宿でもしようかと」 会話を聞いていた青年たちが穴を掘り、娘たちが枯れ葉でベッドを作った。そこに息子を寝かせると、女が御御頭の黒焼きを持ってきた。 「熱さましよ、うちの子供もこれで治ったから」 「ありがとうございます。こんなに親切にしていただいて」 「いいのよ、私たち暇なのよ。働いていた入れ歯工場が止まったのよ。変ね、失業したのに、さわやかな気分だわ」
他の人たちも口を開いた。 「ゆっくり歩いて、しかも立ち止まったなんて10年ぶりかしら」 「工場まで脇目も振らず歩いていたから、ここにお花畑があったなんて気づかなかったわ」 「僕のジイジとバアバの入れ歯を注文したんだ。だけど工場が止まって・・・二人とも死んじゃうよ」 「コンピュータが壊れたから何もかも止まってしまった。だけど心配するな、女王様が新しいコンピュータを買ってくださる」
「大変だ、大変だ」男が走りながら叫んでいる。「ワームホールが無くなった。女王様はこりん星に戻れなくなった」 「コンピュータが壊れたからか?」 「女王様は地球でこうおっしゃったそうだ・・・こりん星のことは忘れて下さい」 「どういうことだ?」 「女王様はワームホールを掘るのを止めたのか?」 「地球で何があったのだろう。女王様は無事なのだろうか」
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