箱根を半周してから東に向かうと川があった。俺は暗くなるのを待って橋を渡る。橋の途中に野良犬がいた。俺は呟いた。 「まずいな」 「それは違うぞ、美味そうなネズミちゃん」 「俺はネズミじゃない。それに美味くもない」 「ほ〜珍しい、モグラじゃないか。滅多に食えない御馳走だ」 俺は鉄パイプを上段に構えた。 「ははは、そいつで俺を殴るってか。俺が避けられないと思っているのかね」 俺は恐怖で固まった。もう駄目だ。
その時、眩しい二つ目の化け物が轟音を立てて向かって来た。俺は恐怖にかられ失神して倒れた。かすかに「キャイン」という鳴き声が聞こえた、と同時に俺は顔面を強打して正気に戻った。 「あいたたた」倒れたまま見上げれば、化け物はすごいスピードで走り去った。あれが噂に聞くクルマだったのか。それより犬はどうした?急いで起き上がると目の前に倒れている。俺はパイプを構えた。犬がゆっくり起き上がる。 「痛いよ、頭に瘤ができたよ。いきなり ぶつのは卑怯じゃないか」 「俺はクルマに驚いて倒れただけだ。まだ俺を食うつもりなら本気でぶつぞ」 「もうモグラは食わないよ、だから勘弁してくれ」 そう言って犬は去っていった。
「パパ、おかえり。顔が腫れてるよ」 「ちょっと怪我したんだ。待ってる間、淋しくなかったか?」 「ううん、淋しくなかったよ。だって、あそこにパパの顔があったから」 街頭テレビに俺の顔が映っていた。そこへ誰か来た、俺は下を向いて顔を隠す。息子が小さな声で言った。 「大丈夫だよ、顔が腫れてテレビの顔と全然違うから」 それを聞いて安心したものの、顔の腫れは3日もすれば治るだろう。その前に決行せねば。
「出発するぞ、東に行こう」 「どうして?」 「東京にはコンピュータがある。それを壊しに行くんだ」 「どうして?」 「俺たちの未来が掛かっているからさ」 「どうして?」 「パパは指名手配されたんだ」 「どうして?」 「大ジイジと大バアバ、大々ジイジと大々バアバが死んだんだ」 「どうして?」 「パパが御御頭を持って行かなかったから」 「そっか〜」
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