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作品名:モグラの星(再掲載) 作者:織田 久

第5回   第5話 西から東へ
箱根を半周してから東に向かうと川があった。俺は暗くなるのを待って橋を渡る。橋の途中に野良犬がいた。俺は呟いた。
「まずいな」
「それは違うぞ、美味そうなネズミちゃん」
「俺はネズミじゃない。それに美味くもない」
「ほ〜珍しい、モグラじゃないか。滅多に食えない御馳走だ」
俺は鉄パイプを上段に構えた。
「ははは、そいつで俺を殴るってか。俺が避けられないと思っているのかね」
俺は恐怖で固まった。もう駄目だ。

その時、眩しい二つ目の化け物が轟音を立てて向かって来た。俺は恐怖にかられ失神して倒れた。かすかに「キャイン」という鳴き声が聞こえた、と同時に俺は顔面を強打して正気に戻った。
「あいたたた」倒れたまま見上げれば、化け物はすごいスピードで走り去った。あれが噂に聞くクルマだったのか。それより犬はどうした?急いで起き上がると目の前に倒れている。俺はパイプを構えた。犬がゆっくり起き上がる。
「痛いよ、頭に瘤ができたよ。いきなり ぶつのは卑怯じゃないか」
「俺はクルマに驚いて倒れただけだ。まだ俺を食うつもりなら本気でぶつぞ」
「もうモグラは食わないよ、だから勘弁してくれ」
そう言って犬は去っていった。

「パパ、おかえり。顔が腫れてるよ」
「ちょっと怪我したんだ。待ってる間、淋しくなかったか?」
「ううん、淋しくなかったよ。だって、あそこにパパの顔があったから」
街頭テレビに俺の顔が映っていた。そこへ誰か来た、俺は下を向いて顔を隠す。息子が小さな声で言った。
「大丈夫だよ、顔が腫れてテレビの顔と全然違うから」
それを聞いて安心したものの、顔の腫れは3日もすれば治るだろう。その前に決行せねば。

「出発するぞ、東に行こう」
「どうして?」
「東京にはコンピュータがある。それを壊しに行くんだ」
「どうして?」
「俺たちの未来が掛かっているからさ」
「どうして?」
「パパは指名手配されたんだ」
「どうして?」
「大ジイジと大バアバ、大々ジイジと大々バアバが死んだんだ」
「どうして?」
「パパが御御頭を持って行かなかったから」
「そっか〜」


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