成長した息子の姿に、俺は決心した。西へ行くのだ。決戦の地、箱根で敵はよからぬ研究をしていると聞いたからだ。 小田原に着くと保存食が袋いっぱいになった。 「これを食べてパパを待っていなさい。もしも、パパが帰らなかったら、お前一人で生きていくんだ。大丈夫だ、お母さんが草葉の地下から見守っている」 涙ぐむ息子を残して、俺は山道を登った。
研究所は足柄峠にあった。忍び込むと白衣の年寄がいた。 「ご老人、ここで何をしている?」 「おぬし、アズマの者か。一人で来るとは度胸のある奴だ。ワシはコウべ族のエジソンと呼ばれておる。ワシの発明品はコウべ者だけでなく、アズマにも役立つ。だから、最前線で研究を続けている。製品化したらアズマも売れるようにな」 「何を作るつもりだ?」 「寿命が延びる画期的な品、電動入れ歯だ。食う力がなくなった年寄りが喜んで買うじゃろう」 「お前の狙いは西だけでなく、東にも販路を広げることか」 「金儲けの何が悪い。金があれば若い娘が寄ってくるぞ。おぬしもキャバレーは好きじゃろう、イッヒッヒ」 「お前の発明品は社会の役には立たないだろう」 「馬鹿なことを言いおって、寿命が延びるは皆の願い。ワシもあと10年もすれば使うつもりじゃ」 「長生きのせいで俺は警察に追われている」 「おぬし、何をした?」 「何もしていない、風邪で寝込んだだけだ」 「訳の判らぬことを言いおって。出て行け、さもないと兵士を呼ぶぞ」
近くにあった鉄パイプを手にすると、俺は試作品の電動入れ歯を叩き割った。 「何をする、愚か者め。であえ〜であえ〜、曲者だ」 試作品を壊しても、あいつの頭の中に設計図が入っている。俺は決心した。パイプを手に老人に歩み寄る。 「一つ、人の寿命を引き伸ばし。二つ、不当に苦しみ延ばし。三つ、醜い金儲け。退治てくれよう、足柄山の金太郎」 「何をする、助けてくれ〜」 「ご免」
倒れた老人を見下ろして、俺は間違いに気づいた。何てこった、決めの台詞を間違えた。本当は桃太郎だったのに、ここが足柄山なので金太郎と言ってしまった。いや、今はそれどころではない、急いで逃げよう。その時、警備の者が入って来た。 「ここで何をしている!」「侵入者はアズマ者だ」 俺は外に逃れて様子をうかがう。アズマへの道は封鎖された。仕方ない、俺は西に向かった。敵の真っただ中はむしろ警戒が薄いとみたのだ。
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