俺は忙しい、滅茶苦茶忙しい。家に帰れば電報の山だ。 「ハラヘッタ、メシクレ」「シニソウダ、クイモノクレ」 俺は途中で親の家に寄った。 「食い物、余ってない?」 「自分たちの分を掘るだけで精一杯だよ」 仕方ない。俺は一生懸命に穴を掘り、御御頭を集めて、祖父母と曾祖父母に渡す。くたくたになって家に帰ると幼い息子が泣いている。 「え〜ん、お腹が空いたよ」 「ごめん、ごめん。すぐに美味しい御御頭をとってくるから待ってなさい」
息子を寝かしつけた後で、俺は今日一日、何も口にしていないことに気づいた。だが、もう穴を掘る気力もない。仏壇の妻の写真に語りかける。 「お前が天国に行ってから、俺は地獄の毎日だ。だけど心配するな。息子が一人前になるまで頑張るから」
翌日も電報の山だ、しかも2通多い。 「テガイタクテ、ホレナイ」「クイモノタノム」 今日は親の面倒も見なければいけない。立ち上がるとフラフラする。家を出ると俺は叫んだ。 「どなたか僕を助けて下さい。僕は一人息子で親の面倒を見ています。妻は若くして亡くなり妻の親二人も見ています。そのうえ祖父母が八人、曾祖父母十六人の面倒を見ています。だけど今日は具合が悪くて・・・」 だが人々は俺には目もくれず急ぎ足で通り過ぎていく。皆も忙しいし俺と同じように老人の面倒を見ているのだ。 仕方ない、俺は土を掘り始める。最初にとった御御頭を口に入れた。すると猛烈に腹が減っているのに気付いた。俺はがむしゃらに掘りまくると、両手いっぱいの御御頭を家に持ち帰った。 「パパは食べないの?」 「さっきまでお腹ペコペコだったんだけど、今は食べたくないんだ」 「パパ、顔が赤いよ。熱があるみたい」 「身体がだるいから寝るよ」
俺は高熱にうなされていた。遠くから声が聞こえる。 「パパ、御御頭食べなよ」 「あぁ、お前か。御御頭はどうした?」 「昨日のだよ。パパがいっぱいとってきた残りだよ」 俺は御御頭をすこし食べるとまた眠った。
翌日、息子が御御頭を差し出した。 「昨夜の晩御飯を食べずにパパに残したんだ。これ食べて元気になって」 「そうか、ありがとう」 息子の愛と御御頭に俺は元気を取り戻した。その時、玄関が激しく叩かれた。 「ここを開けなさい。君を保護責任者遺棄罪で逮捕する。君の祖父母と曾祖父母が死んだんだぞ。君のご両親も餓死寸前だ。分かっているのか。ここを開けなさい」 俺はタンスの横に穴を掘り始めた。すぐに俺と息子が入れる穴があく。警官が扉を叩き壊す音が響いている。俺は息子と急いで穴に入るとタンスを動かして穴をふさいだ。警官がトンネルに気づくのに、しばらくかかるだろう。その間に遠くに逃げるのだ。 土を掘ると御御頭が出てくる。それを息子に渡し、自分も食う。掘っては食べ、掘っては渡す。俺はすっかり元気になった。息子が言った。 「パパ、もうお腹いっぱいだよ」 「御御頭の保存食を作るんだ。頭を軽く噛むと御御頭は気絶する。強く噛むと死んで腐ってしまうからな」 「うん、パパのやり方を見てたから知ってるよ。パパ、疲れたでしょう、今度は僕が掘るよ」
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