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作品名:モグラの星(再掲載) 作者:織田 久

第3回   第3話 長生き万歳
俺は忙しい、滅茶苦茶忙しい。家に帰れば電報の山だ。「ハラヘッタ、メシクレ」「シニソウダ、クイモノクレ」
俺は途中で親の家に寄った。
「食い物、余ってない?」
「自分たちの分を掘るだけで精一杯だよ」
仕方ない。俺は一生懸命に穴を掘り、御御頭を集めて、祖父母と曾祖父母に渡す。くたくたになって家に帰ると幼い息子が泣いている。
「え〜ん、お腹が空いたよ」
「ごめん、ごめん。すぐに美味しい御御頭をとってくるから待ってなさい」

息子を寝かしつけた後で、俺は今日一日、何も口にしていないことに気づいた。だが、もう穴を掘る気力もない。仏壇の妻の写真に語りかける。「お前が天国に行ってから、俺は地獄の毎日だ。だけど心配するな。息子が一人前になるまで頑張るから」

翌日も電報の山だ、しかも2通多い。「テガイタクテ、ホレナイ」「クイモノタノム」今日は親の面倒も見なければいけない。立ち上がるとフラフラする。家を出ると俺は叫んだ。
「どなたか僕を助けて下さい。僕は一人息子で親の面倒を見ています。妻は若くして亡くなり妻の親二人も見ています。そのうえ祖父母が八人、曾祖父母十六人の面倒を見ています。だけど今日は具合が悪くて・・・」
だが人々は俺には目もくれず急ぎ足で通り過ぎていく。皆も忙しいし俺と同じように老人の面倒を見ているのだ。
仕方ない、俺は土を掘り始める。最初にとった御御頭を口に入れた。すると猛烈に腹が減っているのに気付いた。俺はがむしゃらに掘りまくると、両手いっぱいの御御頭を家に持ち帰った。
「パパは食べないの?」
「さっきまでお腹ペコペコだったんだけど、今は食べたくないんだ」
「パパ、顔が赤いよ。熱があるみたい」
「身体がだるいから寝るよ」

俺は高熱にうなされていた。遠くから声が聞こえる。
「パパ、御御頭食べなよ」
「あぁ、お前か。御御頭はどうした?」
「昨日のだよ。パパがいっぱいとってきた残りだよ」
俺は御御頭をすこし食べるとまた眠った。

翌日、息子が御御頭を差し出した。
「昨夜の晩御飯を食べずにパパに残したんだ。これ食べて元気になって」
「そうか、ありがとう」
息子の愛と御御頭に俺は元気を取り戻した。その時、玄関が激しく叩かれた。
「ここを開けなさい。君を保護責任者遺棄罪で逮捕する。君の祖父母と曾祖父母が死んだんだぞ。君のご両親も餓死寸前だ。分かっているのか。ここを開けなさい」
俺はタンスの横に穴を掘り始めた。すぐに俺と息子が入れる穴があく。警官が扉を叩き壊す音が響いている。俺は息子と急いで穴に入るとタンスを動かして穴をふさいだ。警官がトンネルに気づくのに、しばらくかかるだろう。その間に遠くに逃げるのだ。
土を掘ると御御頭が出てくる。それを息子に渡し、自分も食う。掘っては食べ、掘っては渡す。俺はすっかり元気になった。息子が言った。「パパ、もうお腹いっぱいだよ」
「御御頭の保存食を作るんだ。頭を軽く噛むと御御頭は気絶する。強く噛むと死んで腐ってしまうからな」
「うん、パパのやり方を見てたから知ってるよ。パパ、疲れたでしょう、今度は僕が掘るよ」


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