田んぼと畑の中の道を進むと、三十軒ほどの集落があった。そこから、こん棒を手に五人の男が出てきた。 「ここは俺達の村だ」 「よそ者は勝手に通さねえ」 「通りたかったら、何か置いていけ」 「どういう事だ?」 「おい、その包みは何だ?」 「これは肉だ」 「何っ、肉だと!それをよこせ」 星を見る男が包みを渡すと、男がそれを開いた。 「本当に肉だ。焼いた肉だぞ」 男達が驚きの声を上げると、満足そうに笑った。 「良し、通れ」
二人が足早に通り過ぎる。その背に男達が悪態を浴びせた。 「似合いの夫婦だな。せいぜい気をつけて行くことだな」 「次の村では何を差し出すんだ?」 「お前のおっかぁでは、誰も受け取らんぞ」 「わははは」 星を見る男が振り返ると、背に手を伸ばした。 「お止し、矢がもったいないよ」 蛇を踏んだ女はそう言ったが止めようとはしなかった。弓が引き絞られると、蛇を踏んだ女も槍を構えた。二人に気付いた男達が叫んだ。 「おい、やろうってのか。良い度胸じゃねえか」 「いくら弓でも、一対五だ。俺達には勝てねえぞ」 「へなちょこ矢なんぞ叩き落してくれる」
星を見る男が矢を放った。ブンと音がすると男の持った包みに当たった。肉がパッと飛び散り地面に落ちた。 「野郎!なめた真似をしやがって」 男達がこん棒を振り上げた。しかし、星を見る男が次の矢を抜いたのを見ると、手を下ろして肉を拾い集めた。 「くそっ、肉が土まみれだ」 「洗って食おうぜ。洗っても肉に違いはねえ」 「美味そうなタレがだいなしだ」 男達は肉を拾い集めると、小川で肉を洗った。男がそれを一口食べて言った。 「おう、美味いぞ。肉の中までタレがしみ込んでいる」
行く手に次の村が見えた。その手前に森に続く小道がある。二人はそこを曲がった。 「この森は健太の一族を探しに行く時に通った」 「その時は何を狩ったの?」 「何も狩らない。干し肉十日分を持っていた。お前が用意した干し肉だ」 「思い出したわ。でも、今は肉を取られて何もない」 星を見る男が立ち止まった。蛇を踏んだ女も気付いて言った。 「あっちに小川があるわ」 「お前はその側で野営の仕度をしろ。俺は獲物を捕ってくる」
星を見る男がウサギを捕って戻ると、蛇を踏んだ女が火の横で皮をはいだ。食べ終えた頃には真っ暗だ。焚き火を挟んで二人は横になった。遠くで獣の鳴き声がした。風が森を通り抜けながら木の葉をざわつかせる。それが星を見る男に言葉のように響いた。 「似合いの夫婦だな」「姉さん、元気な赤ん坊を産みなよ」。避難所の大岩で一瞬見た白い胸が、閉じた目蓋に浮かびあがる。それは次第に大きくなり、脈動し始めた。喉が渇く。星を見る男は起き上がって振り向いた。焚き火の向こうで蛇を踏んだ女も上半身を起こした。二人の目が合った。 「俺は男の子が欲しい。小さい頃から弓を教える」 「お前の息子は弓の名手になるだろう」 そう答えた蛇を踏んだ女の目が炎を受けて輝いた。 「お前の欲しいのは息子だけか?他にも欲しいものがあるだろう」 「俺は・・・俺はお前が欲しい」 星を見る男が焚き火を飛び越えた。蛇を踏んだ女がその胸に飛び込んだ。二人は真っ暗な森の中で赤い炎に照らされ愛し合った。
日が暮れると大前の屋敷も暗闇に包まれた。さらに深夜ともなれば物音一つ無い。そんな中、大前の部屋にロウソクの明かりが灯っていた。 「アイウエオ、カキクケコ、サシキダヨ・・・・変だな。言葉の調子が合わない」 国王が偉大なる知恵の書を開いている。 「サシキダヨのキは、カキクケコのキと同じだ。くそっ、奴は嘘を教えたな」 国王が頭を抱え込んだ。やがて顔を上げると鼻先で笑った。 「ざまあみろ、今頃は冷たくなって身体中、斑点だらけだ」 そう呟くと、立ち上がって深呼吸をした。 「落ち着け、ゆっくり、やり直すんだ」 「あ・・い・・う・・え・・お・・」 「かぁ・・きぃ・・くぅ・・けぇ・・こぉ・・」 「さぁ・・しぃ・・」 そのまま黙り込み、考える。もう一つの呪文をゆっくり言ってみる。 「あぁ、かぁ、さぁ、たぁ、なぁ・・・。判ったぞ。最初の文字はアで終わる。次はイだ。二つの呪文を組み合わせれば良いのだ。はっはは、判ったぞ。
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