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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第94回   第7部 3213年      第1話 牛泥棒
「前と同じ場所に着陸しよう」
「了解しました。着陸地点は富士山対岸の草原です」
 星を見る男と蛇を踏んだが外を見つめる。昔の池が見えた。山を越えれば村がある。二人は固唾を呑んで前方を凝視する。
「あっ!」。二人が同時に叫んだ。
「家がいっぱいよ。すごく増えてるわ」
「見ろ、牛だ!牛がいるぞ」
草原全体に散らばっていたはずの牛が、片隅に群がっている。星を見る男は少し変だとは思ったが、その理由を考えようとはしなかった。

着陸するとチヒロが言った。
「惑星イズモに帰還しました。出発から402年が経ち町は発展していました。他にも変わったことが多いでしょう。その点に十分留意して行動して下さい。十二名はこの町で生活するのか、或いは他の地域に移住するのか早急に決定して下さい。その必要があるなら、海を越えた別の大陸へ私が送りましょう。それではタラップを開きます」

星を見る男は弓を持ってタラップを駆け下りた。蛇を踏んだ女も槍を手に続く。牛は二人を横目で見ながら草を食っている。矢が届く距離になっても逃げない。星を見る男がゆっくり近寄ると、狙いすまして矢を放った。
牛が驚いて走り出した、その首から血が噴き出している。二人が牛を追う。逃げる牛の先に二段の横棒が組んである。牛がそれに沿って走りながら力尽きて倒れた。蛇を踏んだ女が槍を打ち込む。星を見る男が腹を裂いて心臓を取り出した。久しぶりの生暖かい肉に二人は夢中だ。

アスカに残った十二人がそれを見ている。娘達は若者の背に隠れ、小さな悲鳴をあげながらのぞき見る。
「残酷だわ。それに血だらけじゃないの、汚らわしいわ」
「あれは柵だろう。ここは牧場だ」
「まずいぞ。二人は牧場の牛を勝手に殺して食ったんだ」
「やっぱり、あの二人は小学生以下ね」
僕達も行って、肉を少し貰おうぜ。本物のステーキが食える」
「私は嫌だわ、殺すところを見たのよ。とても食べられないわ」
「あの二人に関らない方が良い。後で面倒なことになる」

二人は心臓を食い終わると牛を解体する。つまみ食いをしながら肉の塊を草の上に並べ、剥がした皮の中に内臓を入れる。その背後から怒鳴り声が浴びせられた。
「こらっ!何をしている」
二人が振り向くと三人の男が立っている。
「牛を倒した。お前たちも食うか?」
「馬鹿者、牛泥棒の罪を我等になすりつける気か」
そう言うなり、男達は二人を縛り上げた。

アスカの中から見ていた若者達が口々に言い出す。
「やっぱり捕まったぞ」
「外に出ないで良かったわ」
「私は注意するように警告しました。町の大きさから推測するに警察組織に似たものがあると考えられます。一晩、監獄で過ごすのも、二人には良い薬となるでしょう。あなた達も行動には十分に注意して下さい」

男達の一人がアスカの近くまで歩いてくると大声で叫んだ。
「お前達はチキュウから来たのか?」
一人の若者が外に出た。近寄って来た男の顔を見て若者は驚くが、冷静さを装って答える。
「そうです。地球からこの星に移住するために来ました」
「私は大前様に仕える役人だ。チキュウからの客人を案内するよう命じられた。ところで、あの二人はお前達の仲間か?」
「違います。僕達と奴等は別のグループです」
「そうか、仲間ではないのだな。大前様のお屋敷に行くぞ、付いて来い」
「判りました。ちょっと待って下さい」
役人に答えた若者が、船内に戻るとチヒロの指示を仰いだ。
「あなた達は若く経験が浅い。それが私には気掛かりです。私が船長の代わりを務めます。通信機を持って行きなさい。私が話を聞いてアドバイスをします」
「大前様とは誰ですか?」
「402年前に一人の男がこの星に残りました。それが大前です。その子孫がこの町を治めているようです」

役人が歩き出す。少し離れて十二人が続く。途中で荷車を引いた男達に出会った。鼻が低いのは役人だけではない、この星の人間の特徴だと知る。
「大前様の命令で、客人に出す牛を取りに来た」
「ちょうど良い。盗人が牛を殺した。それを持っていけ」

やがて、大きな屋敷に着いた。一人の男が立っている。案内して来た役人が跪いて報告する。これが大前様かと思ったが違うようだ。その男が屋敷の中を先導する。中庭で待たされる。背の高い屈強な男が現れた。
「私は大前ランドの国王だ。お前達が来ることは大前様から聞いている。お前達を大前様のお食事に招待するが、くれぐれも失礼のないように」
若者達が顔を見合わせる。一人が聞いた。
「あの・・大前様と国王様と、どちらが偉いのですか?」
国王が苦笑して答えた。
「私は大前ランドの国王でしかない。大前ランドも南ランドも、この世界は全て大前様のものだ」
国王の案内で先に進むと、十二名分の席が用意された部屋に着いた。板の間に草で編んだ座布団らしき物が置いてある。そこに座ってまた待つ。


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