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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第90回                第10話 局長死亡の謎
 船長は満足げに笑みを浮かべると、椅子に深々と座りなおした。
「次の問題に移ろう。大倉局長のことを教えてくれ」
「局長は2090年島根県出雲市で大倉家の長男として生まれました。小学生の時に父親が死亡。苦学して信濃大学法学部を卒業。警察庁に入り三十七歳の若さで刑事局長になった逸材です。2146年の東京強制捜査では総指揮を取っています。
その実績を買われ、新たに設立された航空宇宙局の局長に就任。そのワンマンぶりに局内では帝王と恐れられていました。2156年、アスカ出発した年の11月22日に死亡しました。六十六歳でした」

「自殺または東京マフィアによる他殺というのは?」
「玉造の洞窟温泉で首吊り自殺と発表したのは島根県警です。自殺には不審な点がありました。局長には自殺する理由が無かったこと、温泉で裸になって自殺するのも不自然です。
しかし、館内エレベーターの防犯カメラから、その時間に温泉にいたのは局長一人だったからです。洞窟温泉へ行くにはエレベーターが唯一の方法です。可能性としてはもう一つありました。洞窟の先は宍道湖と繋がっていると言われていました。
島根県警はその調査もしました。確かに、温泉と湖は繋がっていましたが、酸素ボンベを使えば出来るはずの空気だまりが無かったのです。素潜りなら三分以上も潜ることになる。それも有り得ない、と判断したのです。そして最大の理由は、偽装殺人ならば不自然な自殺よりも、溺死、転倒などの事故死を選ぶはずだからです。

 ところが、警視庁特捜部がこの事件に乗り込んできました。そして他殺の疑いを発表したのです。殺害理由は怨恨、もしくは金銭トラブルです。特捜部が捜査したのは局長の自宅でした。そして六億円が発見された。世間の注目は死因よりも、収賄事件に注がれました。
状況証拠がありました。強制捜査で東京マフィアは一掃されたと思われていましたが、佃連合という組織が、強制捜査の当日に東京を離れていました。大倉氏はそもそも組織犯罪対策部にいました。暴力団の取り締まりを担当していたのです。この時に佃連合と繋がりがあった可能性が浮上したのです。強制捜査の日取りを教え、金銭を授受した疑いです。佃連合が犯した殺人事件の証拠を隠滅した疑いもありました。
六億円という金額から、他にも汚職をしていたはずです。しかし、捜査は進展しないまま終わりました。事実の発覚を恐れた東京マフィアによる他殺説が噂になった理由です」
「東京マフィアと宮内庁からせしめたのが六億円か」
「そのようです」

「徳寺に関しては?」
「徳寺家は松江市にいましたが、太平洋戦争後に長野に移りリンゴ栽培を始めたようです。その後の温暖化でリンゴは作れなくなりましたが、徳寺家は長野に留まっていました。
状況が一変したのが2080年です。大地震の直後に巨大台風に襲われ東京が水没、犠牲者は百万人以上でした。首都が長野郊外に移った時、徳寺家の農地は駅前の一等地になったのです。治の曽祖父の時代です。この曽祖父は賢明な人物だったようです。単なる土地成金では終わらずに不動産業で成功し、スキー場だった山を買ってミカン栽培を始めています。
徳寺高弘に関しては、開かずのメールに書かれた内容以上のものは見当たりませんでした。財務省を辞職した後、東京で漁師をしていたと推測されるだけです」

「そうか、徳寺高弘という男に興味があったんだが。漁師に関しては?」
「強制捜査のさいに多くの漁師が東京から逃げました。長野の高級料亭は魚の入手に困りました。高級官僚、経済人などが働きかけ、政府は三か月後には漁師に東京に戻るように勧告しています。
その頃に佃連合も東京に戻ったようで、両者のトラブルが続発したようです。それを示唆する記事がいくつかあります。漁師の首吊り自殺や事故死、佃連合組員の溺死です。
2157年に漁業組合で出来き、組合長に選ばれたのが水中網の発案者である大江京(たかし)です。大江組の組長の名と同じです。そこで大江組を検索した結果、大江京という名は歴代組長に引き継がれていました。漁業組合が暴力団に転じた可能性がありますが、その記事はありません」

「京という名は珍しい、偶然とは思えんな。水中網とは何だ?」
「検索しましたがヒットしませんでした。しかし、東京の漁法に関する記事がありました。東京の水中には建物、電車、車などの残骸が多数残っている。その為、網は使えず釣りも難しい。水中銃が有効だが高級料亭では傷のある魚は買わない。これらの理由により東京の魚は大きく育ち、希少価値もあって高級魚となった」
「水中銃を改造して銛の代わりに網が飛び出す。それなら傷つけずに魚が簡単に取れる」
「C.G.を作ってみます」
 モニタに魚が泳いでいる。男が筒を持って近づくと、筒の先から網が広がって飛び出した。が、魚はヒラリと体をかわして泳ぎ去る。
「水の抵抗が大きいため、網は銛に比べ速度が低下します。魚のスピードに追いつけないようです」
「簡単には取れないか。何度も潜ってやっとだな」

 船長が、ガバッと身を起こして叫んだ。
「東京の漁師なら水中洞窟を通れたかもしれない。局長を首吊り自殺にしたのは仇を打ったんだ。佃連合と局長はつるんでいた」
「お言葉ですが、論理に飛躍があるように思います」
「漁師の首吊り自殺は佃連合の殺人だ。だから、局長にも同じ方法を採った。それは漁師から佃連合へのメッセージだ。お前達のバックを始末した。局長が死んでから漁師は殺されているか?」
「局長死亡後は漁民の自殺はありません。しかし、論理に飛躍があります」
 興奮から醒めた船長が小さな声で言った。
「ひらめいた、と思ったんだが」
「漁業組合が大江組になったのでしょうか?」
「大江京の名も同じなら、場所も同じ東京だ。間違いないだろう」

「高度二千五百メートルまで低下。このまま滑空を続けますか?」
「今、どこだ?」
「高山盆地の南端です。右前方に千六百メートルの山があります。その南尾根を通過します」
「滑空では気流の乱れに即座に対応出来ない。上昇しよう」
「了解しました。エンジン再始動。上昇します」


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