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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第9回               第7話 さらなる警告
ふと目を開けると窓の外に動くものが見えた。白い物がリズミカルに近づいて来る。あれは何だろう?俺はいつのまにか窓の外に出ていた。白い物体が横向きになった。俺は叫んだ。「シマウマだ!」。見ればその腹に三匹の寄生虫がぶら下がっている。シマウマは俺を見るとブルッと腹を大きく揺すった。
三匹の寄生虫は弾き飛ばされて惑星の上へ落ちていった。俺が惑星の上へ飛んで行くと、それはライオンだった。三匹のライオンは赤く染まり、燃え出すと三つの流れ星になった。俺がそれを見届けて戻ると、巨大なシマウマは暗黒の宇宙の真ん中に立っていた。後ろ足で立ち上がると前足で力強く虚空を蹴る。真空の夜空にシマウマのいななきが響き渡った。その背には翼が生えている。「ペガサスだ!」。俺はそう叫ぶと突然息苦しさに目が覚めた。

治は自分が何処にいるのか判らなかった。ぼんやりと目の前の画面を見て、何をしていたのか思い出した。画面にはそれまでに気付かなかった装置が見えた。「射出レバー」。その意味を理解すると同時に宇宙服の酸素が切れかけているのが判った。
治は循環システム室へ急いだ。エアーロックに入ってヘルメットに手を掛ける。まだだ、今ヘルメットを外してもここは真空だ。エアーロックが開くまでが長い。目の前が暗くなってくる。扉に手をついて開くのを待つ。エアーロックが開くと共に、治は室内に倒れこんだ。倒れながらヘルメットを外す。間に合った。数分後、治は立ち上がると宇宙服を換えて倉庫へ向かった。

食料の入った段ボール箱を幾つも開けて中身を入れ替え、レーザーガンも一丁入れると封をした。この段ボールは藻の肥料になる有機物だが、治は突然気付いた。これは紙と同じだ。その一端を破り取ると治は医務室へ急いだ。
赤い薬品と先の尖った器具を手にコントロール・ルームへ行く。だが無重力の中で液体は球になり字が書けない。いらついた治が思わず指先に力を入れると、尖った器具で段ボールにキズがついた。そうだ、これで良いのだ。

治は段ボール箱を抱え二号機に向かった。段ボール箱を後席に入れるとシートベルトでしっかりと固定した。操縦席に座ってぎっしり並んだスイッチやメーターを眺めた。引っ掻き文字で書かれた切れ端を見ながら自分が使うスイッチを探し出す。最後に射出レバーにそっと触れてみた。出発準備は完了だ。治は船に戻った。

 船尾の機械室には幾つもの警告灯が点滅していた。「もういいよ、この船には誰も居なくなる」。治は配電盤を開くと循環システム室の電源を落とした。戻ろうとして反対側にある液体窒素タンクが正常に作動しているのが判った。ここには冷凍された精子と受精卵があるのだ。
治はふと思った。もしも宇宙人がこの船を発見したとする。高度に発達した宇宙人なら冷凍受精卵が何だか判るだろう。そして人工子宮のような物があったなら、宇宙人は受精卵をヒトにするかもしれない。そこで生まれた人間はどうなるのだろう。宇宙人のペットになるのか?あるいは食料?
この考えはおぞましかった。治は窒素タンクを破壊する方法を考えた。レーザーガンで破壊すれば、爆発の影響で調査機にも被害が出るかもしれない。受精卵だけを取り出して捨てる方法は知らない。コンピュータで検索してみよう、そう思い治はコントロール・ルームに向かった。

コンピュータの警告が変わっていた。
「警告。極軌道を外れています。このままでは12時間後に惑星への落下軌道に入ります」
そしてコンピュータは選択を示していた。
「極軌道に戻り3Dマップ作成を続ける」
「手動で軌道を変更する」
治は手動を選んで、Enterを押した。これで受精卵もろともアスカは大気圏で燃え尽きる。これが治に出来る唯一の選択であり操船だ。

最後にもう一つやることがあった。船長は地球へ定時連絡をしていた。アスカはすでに28回のワープをしている。治はキーを叩いて正確な数字を調べてみた。アスカは252光年を飛んでいた。地球との距離は201光年だ。
地球では252年が過ぎ、連絡が地球に届くにはさらに201年かかる。出航してから453年後に届く連絡になるのだ。453年後の地球、453年後の日本を治は想像した。第四次世界大戦は起きたのだろうか?首都の長野には人が住めなくなったのだろうか?

人類は愚かだ。酸素濃度の低下も温暖化と同じ轍を踏むだろう。後戻り出来ない頃になって初めて問題の重要さに気付くのだ。地球はアスカが出発した頃よりも厳しい状況になっているだろう。
日本人は453年後もアスカを覚えているだろうか?夜空を見上げて我々に希望を託しているのだろうか?治はそう信じるしかないと思った。日本人にとってこの船は、我々は希望なのだ。日本人はその希望を永遠に持ち続けるのだ。
それが死んだ十五名への供養であり、生き残った者の義務だ。治はしばらく考えてからメールを打ち始めた。

「本船は12月17日、隕石との衝突事故に遭遇せり。被害は軽微なれど通信機能を損傷、地球への通信はこれが最後となる。船長はじめクルーは全員無事、意気高し。日本の未来に幸あれ。  時空船アスカ」
メールを読み返して治は考えた。やはり真実を報告すべきだろうか?否、断じて否だ。治は送信ボタンをクリックすると二号機へ向かった。

誰もいなくなったコントロール・ルームでコンピュータは新たな警告を次々と表示していた。
「警告。接近中の天体を発見。距離約2000キロ。秒速3.3キロで接近中。およそ10分後に本船と最接近します」
「警告。天体は長径130キロ、短径90キロ。距離1540キロ、秒速3.7キロに加速。7分後に本船の後方250キロを通過」
「警告。接近中の天体は秒速4.1キロに加速。さらに加速中。本船と衝突の可能性があります」
「緊急事態発生。衝突まで280秒。30秒以内に回避行動を開始せよ」


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