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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第79回                第18話 北の風
 二日経った。村人は避難所を出てアスカの側に集まった。プラトンがチャップリンに言った。
「南に向かった少年と少女は俺達に村に住む。代わりに同じ数の若者を浩二の一族に向かわせよう。互いの血を交わらせるのだ」
「判った。俺達はこれから冬の村へ行く。若者は冬の村へ連れて来てくれ」
「レンゲはどうする?」
「健太の一族に言い伝えを残せば良い。レンゲには妹がいる。俺達のレンゲとなるだろう」
「大前はどちらの村へ行く?」
「俺は冬の村に行くが、持って行きたい物がある。チャップリンと共に後から行く」

 プラトンが立ち上がるとチャップリンとブブトも立った。プラトンがこん棒を掲げて言った。
「俺達のこん棒は、浩二の一族の手で使われ敵を倒した。勇者のこん棒は光の矢に勝った。この事は俺達の一族に語り伝えられるだろう。向、大前の二人よ、治と花音と同じ種族の者よ。勇者中林と共にお前達も語り伝えられるだろう。死を恐れない勇気ある鬼族よ、共に帰って互いの言い伝えにこの戦いを加えよう」

「浩二の一族よ、俺達は浩二の恩に報いることが出来て満足だ。薬草や黒い石が無くなれば俺達の村へ来い」

「健太の一族よ、鬼族よ。お前達のお陰で戦いに勝つことが出来た。俺達のレンゲはお前達の勇気を言い伝えに加えるだろう。お前達が困難にあえば知らせろ。今度は、俺達が助けに行く」

 プラトン達と鬼族が出発した。彼等と共に村人の半分が台車に燻し肉を積んで冬の村へ向かった。船長が幼い娘を連れたレンゲと共にアスカに入った。コントロール・ルームでレンゲが言い伝えをチヒロに語り出した。大前はアスカから様々な道具や種を取り出して外に並べた。やがて二人のレンゲと船長が出てきた。
「レーザーガンとライフルは持って行かないのか?」
「ああ、武器は要らない」
「オオカミがいるぞ。護身用に持っていた方が良い」
「シェークが守ってくれる。それより俺はパソコンが欲しい。アスカの知識が欲しいんだ。野菜や穀物を栽培するのに役立つ。それにパンの焼き方どころか米の炊き方も俺は知らない」
「パソコンはあるが、バッテリーは二十時間しか持たない」
「電動ドリルを分解しよう。モーターを水車で回せば発電機になる」
「なるほど、さすがに機械屋だな」

 冷凍庫には大量の肉が入っていた。女達はそれを燻すことになった。燃料にする木を一本倒すと、鉄の斧の切れ味に皆が驚いた。さらにノコギリも使って見せると、この二つがあれば村はすぐに元通りになると喜ぶ。冬の村へ行った台車はまだ戻って来ない。アスカの側でゆったりとした時間が流れていく。そしてチャップリン達はアスカに興味津々だ。
「何故、岩よりも大きいソリが空を飛べるのだ?」
「何故、壁が動いて道になるのだ?」
「何故、夜なのに昼のように明るくなるのだ?」
 説明すれはするほど疑問が増えるだけだ、そう思った船長は科学の力で済ませる。

今度は別の疑問を大前にぶつける。
「お前達の種族には幾つの名があるのだ?」
「名は幾らでもある。子供が生まれたら親が好きな名を考えるのだ」
「お前達の村には何人住んでいる?」
「数え切れないくらい、いっぱいいる。健太の一族と浩二の一族を合わせた百倍も千倍もいる」
「その大勢の者が、別々の名を持っているのか?」
「そうだ」
「信じられん」
「例えば、チャップリンのチから始まる名は、チャーチル、チャールズ、ちば、ちい、ちだ、ちくま、ちょうしゅう、ちの、ちねん・・・」
「女の名もあるのか?」
「チューリップ、ちぐさ、ちか、ちなつ、ちず、ちえ、ちずる、ちよこ、ちよ・・・」
「シェークのシで始まる名もたくさんあるのか?」
「ああ、たくさんある。どんな言葉で始まる名もたくさんある」

「俺達は冬の村に行ったら、長老を選ぶ。大前が冬の村に来るなら、名を付けるのは長老ではなく大前だ」
「名をたくさん持っている大前が長老にふさわしい」
「名を持っているだけではない。大前は賢い」
「斧とノコギリは大前の星にあった物だ。大前は他にもいろんな物を持っている」
 チャップリンが改まって言った。
「治や花音と同じ種族である大前よ、俺達の祖先は治と花音に多くのことを教わった。そして今、俺達は大前から多くのことを教わろう。大前よ、俺達の長老になってくれ」

 大前が困った顔をして船長を見る。笑っていた船長が真面目な顔をして言った。
「大前はお前達の知らない事を知っている。多くの名も知っている。だが、牛がいつ戻るのか、牛をどう狩るのか、どこに薬草があるのか、それを知らない。お前達がここで生きていくのに必要なことを大前は知らない。
長老はお前達の中から選べ。長老が知らないこと、長老が困った時、そういう時に大前に聞け。大前は長老の次だ」
 チャップリンが大きく肯いた。大前がほっとした表情で船長に片手を上げた。

 八日経って台車が二往復した。大量の燻し肉が冬の村へ運ばれた。大前が台車に自分の道具を積んだ。それを紐で縛り毛皮を敷くと座席の形になった。足の怪我が治っていないベートーベンが嬉しそうに笑った。出発の準備が整うとチャップリンが言った。
「北の風がもうすぐ吹き始める。明日、俺達も冬の村へ行く」


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