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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第76回                第15話 作戦失敗
 翌日になるとレンゲが呼ばれた。健太の一族は言い伝えを聞いて喜んだ。彼等のレンゲは娘を産む前に死んだからだ。それから南の草原にいる、角のない牛、角の曲がった牛、首の長い牛の話になる。プラトンが棒で地面に絵を描いた。それを見て中林が言った。
「これは鹿に似ている」
「シカ?こいつはシカという名なのか?」
 三人が肯くとプラトンが言った。
「俺達は牛の名前しか知らなかった。四つ足で草を食うものはどれも牛だった。お前達は治や花音と同じ種族と聞いた。治や花音が角の曲がった牛を見たら、お前達と同じようにシカと呼んだだろう」
 プラトンが皆を見渡しながら言葉を続けた。
「俺達は新しい名を知った。角の曲がった牛の名はシカだ」
 プラトンがさらに動物を描いて問う。
「角のない牛の名は何だ?」
「イノシシだ」
「首の長い牛は?」
 三人が相談する。キリンほどは長くない。考え込んでいた大前が叫んだ。
「思い出したぞ、オカピだ」
「おー」
 男達が喜びの声をあげる。

星を見る男が言った。
「シマウマはどんな生き物だ?」
 その言葉に男達が口々に言い立てる。
「描いてくれ」「シマウマを教えてくれ」
 プラトンが棒を船長に手渡した。船長が棒を中林と大前に示した。二人が首を振る。仕方なく船長が手を動かす。男達が食い入るように見つめた。描き終わって船長が聞いた。
「何故、シマウマにこだわるのだ?」

「南に行けばシマウマがいるだろう」
チャップリンが話し出した。すぐに他の男達がそれに唱和する。
「シマウマは牛に似ているがもっと早く走る。だが、お前達なら倒せる。シマウマを倒しても油断するな。シマウマは立ち上がって走り出す。血を流し、はらわたを引きずって走る。お前達もシマウマのように生きろ。血が流れても諦めるな。血を流しながら前へ進め。命のある限り進め」
 男達が口を閉じた。誰も何も話さない。焚き火の薪がパチッと弾けた。船長が口を開いた。
「力強い言葉だ」
「治の言葉だ」
 プラトンの返事に三人は驚いた。

 翌日は獲物の狩り方、弓の作り方などの話が延々と続く。四日目になって、空から降りて来た者が村を襲った話になる。そしてチャップリンが文殊作戦を話す。プラトンは避難所の地形を見て肯くが、納得はしていない。光の矢の威力を信じられないのだ。
 船長が健太の一族に言った。
「お前達の中で大岩よりも大きい物が宙に浮いたのを見た者はいるか?」
「大岩は宙に浮かない。それを見た者はいない」
「お前達の中で空から降りて来る者を見た者はいるか?」
「いない。だが、言い伝えでは治と花音が空から降りて来た」
「大岩よりも大きい物が宙に浮くのは科学という不思議な力のせいだ。科学の力で治と花音は空から降りてきた。それを信じない者はいるか?」
「いない。皆、言い伝えを信じている」
「ならば科学の力も信じろ。光の矢も科学の力だ。光の矢は白い石にしか見えない。だが、指を少し動かせば光の矢は放たれ、どんな矢よりも遠く早く飛ぶ。弓を構える前に光の矢は飛んでくる。敵に見つかる前に矢を放たねば奴等には勝てない」
「判った。俺達は敵に見つかる前に矢を放つ。崖の上から石を落とせば敵は上を見る。その時に一斉に矢を放とう」

 作戦が練り直される。大前と少年達は石を落として叫ぶ。敵は上を見て慌てる、その時に大岩の後ろから六人、対岸の岩陰から八人が矢を放つ。四人が村で待ち伏せる。敵の数は六、七人だ。全員を谷で倒せるだろう。取り逃がしたとしても一、二名だ。もしも、三人以上が逃げたなら村での待ち伏せは中止する。光の矢を持つ敵三人に弓の四人では勝てないからだ。

 翌朝、四名が村へ向かった。一時間後に焚き火の煙を上げる。少年が崖の上から叫んだ。
「六人出てきた。真っ直ぐこっちに来る」
谷の入り口に真っ赤な櫛を置く。全員が配置に付いた。大前と四人の少年は崖の上で伏せて待つ。大前が腹ばいになって下を覗く。奴等が櫛に気付いた。大前の合図で蛇を踏んだ女が姿を見せる。
六人の中の一人が奇声を上げて大岩に向かった。五人が警戒しながら後を追う。大前が片手を挙げた。少年達が石を持って立ち上がった。その時、雲が薄れて日が射した。突然、六人は谷の入り口まで引き返してしまった。

大前は呆然として見ていた。どうしてだ?首を上げると、少年達は石を持ち上げたまま不安げに大前を見ている。一人の少年が呆然と対岸の崖を見つめている。大前はその視線を追った。対岸の崖に少年達の影が映っている。大前が片手を振って少年達に座れと指示した。
崖から離れた大江組がレーザーガンを撃った。大前が首をすくめる。近くの草がジュッと音を立てて真っ黒に縮れた。大前は身体を低くして少年達の横へ移った。「お前達のせいではない、がっかりするな。今日はちょっと運が無かっただけだ。最後に勝つのは俺達だ」。そして下に向かって叫んだ。「失敗だ。影を見られた」


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