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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第72回                第11話 草の海
  避難所はにわかに忙しくなった。子供達は流木を集める。夕闇に紛れて男達が牛の肉を取りに行く。肉の燻しが始まった、ものすごい煙だ。女達は交代で洞窟から出て来て新鮮な空気を吸うと、草を編んだマスクを付け洞窟へ戻る。それを見て大前が中林に言った。
「見ろ、女達が美人になったぞ」
「ははは、確かにそうだ。だが、自分はもうあの鼻は見慣れた」
「ははは、地球に帰ったらどんな女も美人に見えるだろう」
「アスカを奪い返したら一緒に地球に戻らないか?」
「俺はアスカ奪回には協力するが、地球に戻る気はない。戻れば三十年はくらう」
「船長が証言すれば大前さんの罪は軽くなるはずだ」
「ここにいると少年に戻ったような気になる。俺はここに居たい。中林、お前も残らないか?」
「自分は船長の指示に従う」
「そうか。すごい煙だな、奴等に見つからないか?」
「月が無いから真っ暗だ。煙は見えない。夜明けまでに全部の肉を燻すそうだ」

 中林の言葉に夜空を見上げた大前が言った。
「星が見える。雲が多いからイズモだったはずだが」
「巨大彗星が落ちて雲は減ると聞いた」
「どういうことだ?」
「地球の恐竜絶滅と同じだ」
「そんな大事件があったのか!」
「イズモは大打撃を受けるが我々が到着する頃には回復している。予想通りだ」
「それを彼等は乗り越えたのか」
「ああ、そうだ。船長も驚いていた」
 二人は黙って夜空を見上げた。やがて大前がいつもの冷静な口調で言った。
「星を見る男が出発して六日経った。彼が戻るのは十五日後のはずだ」
「何故だ?」
「十日分の干し肉を持って行った。つまり往復二十日、休養と協議に一日必要だろう」
「確かめよう」

 二人は船長とチャップリン達の輪に加わった。
「チャップリン、仲間の村までは十日か?」
「判らない。健太の血を継いだ者の村へ行った者はいない」
「星を見る男は十日分の干し肉を持って行っただろう」
「急いで歩くのに邪魔にならない量が十日分だ。干し肉が無くなれば狩をする」
 大前と中林は顔を見合わせた。船長がチャップリンに聞く。
「今日取った肉で何日もつ?」
「三十日か四十日だ。だが冬はもっと長い。村にあった燻し肉は燃えてしまった。明け方にも肉を取りに行く。今日は早く寝よう」

 中林と大前が洞窟の前へ戻ると、すぐに船長も来た。
「まだ二十一時だ、夜明けまで九時間もある」
「そうですね」中林が船長に答えると大前に言った。「地球時間に換算すれば九時間と四十五分だ」
「どういう事だ?」
「イズモの一日は二十六時間だ。だが時計の針は二十四時間しかない。だからイズモでは一時間は六十五分になる」
「その時計は・・・」
「イズモ時間に設定した。船長が今日の日の出を六時と決めた」
「デジタルにして二十六時間表示にする案もあったが、反ってややこしい。それに時計は針があった方が使いやすい」
「なるほど。日の出を六時にしたのは合っているのか?」
「秋から冬に向かっている。季節から推測した」
「船長の専門はそっちの方なのか?」
「僕はパイロットだ。被弾して計器が使えない時、太陽の位置と時刻で基地の方向を知る。その訓練をしただけだ」
「パイロットと言うことは・・・」
「そうです。チヒロに万一のことがあれば、船長がアスカを操縦するんです」
 中林の言葉に船長が苦笑して付け足した。
「ワープと大気圏突入はチヒロにしか出来ない。操船はチヒロに任せるつもりだ」
「戦闘機乗りか?」
「いや、輸送機だ。片瀬大佐に憧れてパイロットになったが戦闘機には乗れなかった」
「自分も同じです。航空科に落ちて工兵科に入りました」
 二人は片瀬大佐の戦績を熱く語り始めた。大前はそれを聞きながら思った、相田がここに居れば喜んだだろう。そして思い出した。大前は相田と共に、二人にレーザーガンを向けていたのだ。それが今、仲間となって談笑している。大前は不思議な気がした。相棒だった相田よりも、この二人との絆の方が強く感じる。相田とは金で繋がっていたが、二人と繋がっているのは命だ。

星を見る男は大地の割れ目に着いた。崖の下を川が流れている。手前の森に石積みが見えた。近寄れば二十歩ほど先にも同じ物がある。それを辿ると登り道があった。崖の上にも森が続く。そこを抜けると見渡す限りの草原に出た。
ここは草の海だ、と星を見る男は思った。星を見る男は遠くを見回した。黒い点がたくさん見える。牛だろうか、言い伝えのシマウマだろうか。川沿いの林の陰に三角の屋根らしき物が見えてきた。

突然、草の海から三人の男が姿を現した。星を見る男に矢を向け言った。
「動くな、何者だ?」
 星を見る男は弓を高々と上げ告げた。
「俺の名は星を見る男。治と花音の息子、浩二の血を継ぐ者だ」
 三人の男は矢を収めると、同じように弓を高々と上げて答えた。
「俺の名はシェーク。治と花音の息子、健太の血を継ぐ者だ」
「俺の名はエジソン。治と花音の息子、健太の血を継ぐ者だ」
「俺の名はハムレット。治と花音の息子、健太の血を継ぐ者だ」
 最初に名乗り出たシェークが言った。
「星を見る男、浩二の血を継ぐ者よ。お前に会えて嬉しいぞ」
 続いてハムレットが言った。
「古い兄弟よ、良い時に来た。明日は腹いっぱい牛が食えるぞ」
「古い兄弟よ、同じ名を分け合う兄弟よ。俺達の一族のエジソン、ハムレットは殺された。シェークは肩をやられた」
「おお、古い兄弟よ。何が起こったのだ?」
「俺達の一族は襲われた。長老様をはじめ八人が死んだ。古い兄弟の助けを求めて俺は来た」


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