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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第71回                第10話 太陽を望む種族
 星を見る男は立ち止まると空を見上げた。夜が明け、星が消えようとしている。僅かに残った星から南の方角を見定めた。星を見る男は水を飲むと座り込んだ。干し肉を食いながら日の出を待つ。
星を見る男は思った。奴等が来なければ今頃、俺は昔の家にいた。俺は黒い石で矢を作る。それを持ってオオカミを狩りに行くはずだった。山を越えて森に入ると男達は散らばって進む。やがて「ほーい」「ほーい」。と声が聞こえる。オオカミを追い込む声が近づく。
目の前にオオカミが姿を現す。俺はオオカミを倒して大人の仲間に入る。だが、貰える名はない。今いる男達で最初の矢でオオカミを倒したのはシェークだけだ。だが腹を裂くとシェークの矢は心臓には刺さっていなかった。
俺が最初の矢でオオカミの心臓を射抜けば、シェークは名人になり、長老様がシェークの名を俺にくれる。しかし、奴等が空から降りてきて全てが変わってしまった・・・。

日が昇った。星を見る男は立ち上がった。草原は終わり、この先は深い森だ。星を見る男は太陽の動きを夜明けの空に思い描いた。それが一番高くなるのが南だ。大きく肯くと、星を見る男は森に向かって歩き出した。

 旅を始めて十一目の朝、星を見る男は迷っていた。真っ直ぐ南に来たが森がどこまでも続く。古い兄弟も冬は森に住むと思っていた。だが雪のない南なら草原に居るかもしれない。星を見る男は大きな木を見つけると登り始めた。星を見る男はため息をついた。梢から見えるのは一面の森だ。いや、よく見れば様子が違う。西の森はすこし盛り上がっているようだ。それが何であるか判らないが、星を見る男は西へ行こうと決めた。
雨が降り出したが星を見る男は歩く。やがて雨が上がると開けた場所に出た。森の中の小さな広場で空を見上げる。今は太陽が一番高くなる頃だ、と星を見る男は感じた。雲の隙間から一瞬でも太陽が顔を出せば、その方角が南だ。星を見る男は空を見上げて呟いた。
「雨は上がったぞ、太陽よ顔を出せ」
「太陽を望むお前は、我等に近い種族の者か?」
星を見る男は素早く弓を構えた。
「何者だ」
「我等は鬼族、太陽を望む者だ。東から現れた者よ、お前は何者だ」

星を見る男は言い伝えを思い出すと、弓を下げて言った。
「俺の名は星を見る男。治と花音の息子、浩二の血を継ぐ者だ」
「治と花音の息子、浩二は我等の育ての親だ。星を見る男よ、矢を収めろ。我等はここだ。だが、まだ広場に水が残っている。我等は出て行かれない」
 木の陰からか青い顔が覗き、青い手が振られた。隣の木からは赤い顔が出た。星を見る男は矢を戻すと、彼等に歩み寄った。青鬼が言った。
「僕の名はバラン、彼女はキノラだ」
「ここはどこだ?」
「北の広場だ。我等の村はこの南にある」
「長老様に会わせてくれ、大事な話がある」
「判った。村へ案内しよう」
 そう答えたバランに、キノラが近づくと耳打ちした。バランが肯くと星を見る男に言った。
「頼みがある。僕とお前は森で出会った。そして彼女は居なかった。そういう事にしてくれないか」
「何故だ?」
「僕達は話をしていただけだ。北の広場に来たのも曇りで誰も居ないからだ」
「曇りだから来た?お前達も太陽が顔を出すのを望んでいたはずだが」

 その言葉を聞くとキノラが驚いて両手で顔を覆った。そして一人で帰ってしまった。
「ああ、キノラ。行っちゃったか。困ったな、そうじゃない。僕達二人の事ではないよ。我等は太陽を望む種族だという意味だ」
「どういう事だ?」
「北の広場は大勢が日に当たれる。だから儀式をやる場所なんだ。だけど僕達はそんなつもりで来たんじゃない、二人きりで話をしたかっただけなんだ」
「お前の話が判らない」
「僕達は・・・僕達はまだ結婚していない。北の広場にいたなんて知れたら、キノラが傷つくじゃないか」
「良く判らないが、お前の言葉に従おう。俺は森でバランに会った。他には誰にも会っていない」
「ありがとう、恩にきるよ」
「バラン、教えてくれ。治と花音の息子、健太の血を継ぐ者達はこの近くに居るのか?」
「この森を西に行けば草原に出る。健太の血を継ぐ者達はそこに住んでいる。何故、彼等に会いに行くのだ?」
「俺達の村が襲われた。長老様をはじめ八人が殺された。襲ったのはオオカミの言葉を話す人間だ。光の矢と光の槍を使う、恐ろしい奴等だ。俺は古い兄弟に助けを求めに来た」
「何という事だ。僕も助けに行くぞ。浩二は育ての親だ、その一族には恩がある」
「ありがとう。だが、お前の歩みは遅い。光の矢の餌食になるだけだ」
「くそっ、そうか」
「バラン、すまないが俺は急いでいる。こうしている間にも仲間が殺されているかもしれない。この道を辿れば村に行けるのか?」
「そうだ。村までは一本道だ。先に行け」
「お前の勇気と恩義を忘れぬ心に感謝する。では、先に行く。村で会おう」

星を見る男は村に入った。広場には赤い鬼や青い鬼がいる。近くにいた赤鬼が言った。
「長老様はあっちよ。一人とは珍しいわね」。星を見る男は頭を下げると、赤鬼の指差した方へ進んだ。広場の鬼達は、星を見る男が近づくと会釈して村の奥を指差した。奥へ進むと大きな家があった。そこに一人の赤鬼が座っている。
「長老様がどこにいるか教えてくれ」
「ワシが長老じゃ」
「長老様が女だとは思わなかった」
「ワシは男じゃ。お前は西の村の者ではないな」
「俺の名は星を見る男。治と花音の息子、浩二の血を継ぐ者だ」
「我等が育ての親の血を継ぐ者よ。お前の一族に幸多きことを」
「俺達の一族は苦境に立たされている。オオカミの言葉を話す者に攻められ八人が死んだ」
「おお、何という事じゃ」
「俺は古い兄弟に助けを求めに来た」
「我等、鬼族も立ち上がろう。浩二の恩に報いるのは我等の務めだ」
「途中で会ったバランもそのように言ってくれた。しかし、俺達の村は遠い。俺は二つの夜と九つの昼を歩き続けて来た」
「合わせて十一の日か。青い者でも十六日、赤い者なら二十二日は掛かるだろう。長い道のりじゃ」

「長老様、教えてくれ。バランは青く大きい男だった。村の入り口にいたのは赤く小さい女だ。それで俺は赤い長老様を女と間違えた」
「我等の一族には青く大きい者と赤く小さい者がいる。男女の違いではない。青い親から青い子が生まれる訳でもない。生まれて初めて男女が判るように、色が判る。
我等の一族は遠い昔に滅んだ。しかし、治が四つの種を持ち帰り、健太が種を蒔き浩二が育てた。健太と浩二は我等に言った。身体の色と大きさが違っても仲良く暮らせ。青い子にはたっぷり食わせる。赤い子はたっぷり日に当てる。青い子も赤い子も、雨が降ったら木の下に逃げる。じゃが、逃げ遅れた子がいた。
広場を見るがよい。赤い木と青い木、あれが逃げ遅れて死んだ子供の姿じゃ。星を見る男よ、森の中にも赤い木、青い木があるが切ってはならん。木が必要なら緑の木を切れ」

「判った。もう一つ教えてくれ。治と花音の息子、健太の血を継ぐ者の住む場所はどこだ?」
「治と花音の息子、健太の血を継ぐ者は西の草原に住んでいる。彼等は年に二度ここへ牛を取りに来る。大地の割れ目を渡りそこなった牛が流れ着くからだ。その時に我等は薬草と黒い石を渡す」
 そう言うと長老が部屋の中を指差した。床の上に黒い石と薬草が置いてある。星を見る男が肯くと、長老が話を続けた。
「大水と共に黒い石が流れてくる。水が引くと我等は川原の黒い石を拾う。さもないと次の大水で流されるからじゃ。我等のご先祖は黒い石のある島に住んでいた。だから我等もここに住むと決めた。我等はそうやって健太に受けた恩に報いてきた。
今日、浩二の恩に報う時がきた。言い伝えによれば、我等は三つの川を渡ってここへ来た。健太が緑の木を切り、橋を架けた。橋さえあれば我等は長い道のりを厭わん」

「長老様、俺は急いで村へ戻りたい。北では草が枯れ牛はいなくなった。肉は残り少なく、光の矢と光の槍を使う敵は強力だ。すまないが橋を架ける時間はない」
「無念じゃ」
「俺は西に向かう。バランはまだ来ない、彼に伝えてくれ。先を急ぐ、西からの帰り道でまた会おう」
「星を見る男よ、この道を南に行けば黒い石の川に出る。川を渡り上流に向かえば大地の割れ目に着く。崖を登った草原に西の村がある」
「長老様に幸多きことを」


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