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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第68回   第7話 オオカミの牙
 渋沢と大前を残して幹部達は村へ向かった。大前は見張りとはいえ丸腰だ。拘束は解かれたものの信用された訳ではないようだ。コントロール・ルームで縛られている船長と中林から、大前の足が見える。大前はレーザー砲の台座に座っている。船長が上を見上げてささやいた。
「大前」
「何だ?」
「生きていたか。背中に矢が刺さっているかと思ったぞ」
「縁起でもない事を言うな」
「そこは外から丸見えだ。一番、危険な任務をあてがわれたな」
「今は、まだ大丈夫だ」
「どうして?」
「やられたらやり返す、それが奴等のやり方だ。村を襲う前にこっちを襲うことはない」
「日本の暴力団よりよほど紳士的だ。で、あんたは非紳士的な方の仲間なのか?」
「仲間という訳ではない。成り行きだ」
「窃盗はしても、殺人どころか傷害も犯してないのが、あんたの誇りだろう」
「・・・・」

 大前が黙りこむと、船長に代わって中林が怒鳴った。
「おい、渋沢。木田を埋めてやらないのか?」
 渋沢がコントロール・ルームに入って来ると、腕のリモコンを示して言った。
「お前等、つまらない事を考えているんじゃないだろうな。こいつを忘れるなよ」
大前が上から渋沢に声を掛けた。
「俺が木田を埋める。下に降りるぞ」
「大前さんが手を汚すことはねえ。こいつ等にやらせる。準備だけしてくれ」
 大前は渋沢の指示に黙って従う。シャベルとツルハシを出してきて外に置くと、船長達を椅子から外した。手の拘束バンドはそのままだ。
「これではシャベルが使えない」
「足と頭を上手く使え」。食堂まで戻った渋沢がレーザーガンを構えながら言った。二人が木田の死体を持ち上げてタラップを降りると、シャベルとツルハシを持った渋沢が離れて付いて来る。二十メートルほど進むと渋沢がシャベルとツルハシを草の上に放り出した。「ここに埋めろ」。そう言うと渋沢はアスカに戻った。中林が船長にささやいた。
「隙を見せないですね」
「そうだな、とにかくこいつを埋めてやろう」

二人は穴を掘り始めた。渋沢はタラップに足を掛けて見張っている。大前は持ち場に戻って皆を見下ろしている。「うわっ!」。渋沢の声に二人は振り向いた。渋沢の首に何かがぶら下がっている、と渋沢が倒れた。「バキッ」。と何かが折れたような音が聞こえる。灰色の動物が渋沢の死体に前足を乗せると、船長と中林に「ガルルッ」。と唸った。二人は後ずさりする。大前がレーザー砲を獣に向けようとしたが、船に近過ぎる。獣が一歩踏み出して唸った。二人はシャベルとツルハシを持ったままさらに下がる。
「大前、声を出すな。下に降りて武器を取ってこい」。と、船長が言った。大前は獣を指差して首を振った。
「チヒロにタラップを閉めさせましょう」。と、中林が小さな声で言った。
「大前にもチャンスなんだ、奴等の信頼を得る絶好の機会だ。獣を倒してリモコンを取るかもしれない。チヒロの秘密を明かす訳にはいかない」

獣が横を向いて「ガルッ」。と小さく吠えた。すると小さい二匹の獣が現れた。「子連れだ、危険だぞ」。船長が呟いた。一匹がアスカに興味を示す。臭いを嗅ぐとタラップを昇った。それを見て大前が台座から飛び出した。「そこから降りるなっ!」。と、船長が怒鳴った。その声にもう一匹の幼獣が振り返ると、船長に向かって吠えた。
母獣が幼獣の前に走り出ると牙を剥き出して唸る。二人は急いで後ろに下がる。それを見て幼獣が向かってくる。母獣が前に出る。二人は身体を斜めにして顔だけを獣に向けて小走りに下がった。

大前は台座から飛び出すと滑り落ちそうになった。慌ててレーザー砲に掴まる。見れば二人はアスカから離れていく。二匹の獣がそれを追う。しめた、大前は台座に坐りなおした。獣に狙いをつけようとしたが、まだ近すぎる。もっと誘い出せ、と念じる。もっとだ、いいぞ、もう少しだ。その時足先に何かが触れた。うわあっ、と叫びそうになるのを抑えて足を引っ込める。幼獣が大前の足先に飛びついたのだ。
台座から飛び出す。外の獣がまた進んだ、レーザー砲が撃てる。大前は不安定な体勢で狙いをつけるが、獣の先に二人が立っている。邪魔だ、もっと横へ移動しろ。大前は片手を大きく振って合図した、途端にバランスを失って草原へ転げ落ちた。

船長が手を振っている大前に気付いた。中林に小声で言う。「こっちへ来い、ゆっくりだ」。獣を窺いながら横に動いた。そしてレーザー砲を見ると大前がいない。
「大前はどこだ?」
「あそこだ」
中林が指差した。身体を低くしてアスカから遠ざかる大前の姿が、草むらの中に見え隠れしている。獣がアスカに戻って渋沢の死体を食い始めた。村の方から「ドン」。と音がした。炸裂弾だ。それきり静かになった。レーザーガンと弓矢の戦いだ。音はしないが優劣は明らかだ。中林が独り言のように言った。
「大江組が戻るのと食い終わるのと、どちらが早いか・・・」
「獣が噛んでリモコンのスイッチが入らないか?」
「スイッチにはカバーがありました」
「獣の牙を見ただろう」
「あり得ます」。中林が顔色を変えて言った。

「行くぞ」。船長がそう言ってツルハシを放り出した。中林もシャベルを投げ捨て、二人は村とは反対の方向へ駆け出した。中林が船長の背中に声をかける。「あの山の陰ならリモコンの電波は届きません」。二人は必死に走る。「待ってくれ」。大前が後ろから追って来た。「俺はあんた達に付く」 
 山の低い所を目指して来たが、着いてみれば急斜面だ。手を拘束されたままの二人が迷っていると、遅れて着いた大前が言った。「木に掴まれば登れる。大丈夫だ、俺が手を貸す」
 山を越え一息入れると、石で拘束バンドを叩き切った。中林が船長の腰ベルトを外そうとして言った。「駄目だ、接着剤が完全に硬化している」。船長が枝を拾って言った。「ベルトは後回しだ。この辺にもさっきの獣がいるかもしれない。こんな棒でも無いよりはマシだろう。暗くなる前に寝場所を探そう」。大前も手ごろな枝を拾った。中林は力任せに長い枝を折り取ると二股の部分を残した。彼の考えでは、枝の先のY字型で獣を防ぐ実戦的な形だ。山の奥に進むと湧き水があった。三人は夢中で水を飲む。

 先に進むと大きな岩がある。岩陰を調べると船長が言った。
「ここなら風も弱いだろう。今夜はここで寝よう」
三人は岩に寄り掛かり座る。中林と大前が昼間の事を話し始めた。中林が台座から落ちた大前を非難すると、大前はレーザー砲と獣の延長上に居た二人を非難した。
「今更言っても仕方ないだろう。ミスはお互い様だ」
船長の言葉に肯きながら、中林がボツリと言った。 「無残な死に方をした渋沢には悪いが、草むらで死んでくれれば今頃は空の上だった。選りによってタラップの前とはな」
「いや、奴等をこのまま置いては行けない。出発はあの八人を片付けてからだ」
「でも船長、銃撃戦になってアスカが損傷したら」
「アスカを奪回してレーザー砲をチヒロ連動にする」
「そうか、チヒロなら一キロ先でも百発百中だ」
「マザーは緊急停止したんじゃないのか」
「再起動するんだ」
 船長がそう答えて肘で中林を突いた。中林が船長に話を合わせる。
「自分はコンピュータが苦手で、再起動が出来るか・・・」
「大丈夫だ、僕がやる。さて寝るか。二時間交代で見張りだ。最初は僕がやろう、中林、大前の順だ」


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