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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第67回                第6話 日本人の子孫
「二回目の大気圏突入を試みます。乗員は身体を確保せよ」
大江組が青ざめた顔でネクタイを握り締める。アスカは滑らかに下降し富士が見えてきた。
「富士山は海の中だ!」
「島は狭いので、対岸の草原に向かいます」
「おい、あれは何だ?」
「何か走ってる。いっぱいいるぞ。牛みたいな動物だ」
「狩をするんだ、ステーキを食おうぜ」
「煙が一筋上がってるぞ。川の近くだ」
「着陸します。乗員は衝撃に備えよ」
 アスカは草原に着陸した。山と海に近い良い場所だ。
「惑星イズモに到着。酸素濃度25%、有毒な成分はありません。気温は28度。外に出ても大丈夫です。アスカの滞在期間は48時間です。テントを設営し武器、食料を搬出してください。船長と中林少尉の拘束を解き、帰りの食料を・・・」

 渋沢が操作パネル中央のカバーを上げ、赤ボタンを押した。途端にチヒロは沈黙する。
「はっはは、機械は黙ってろ。組長、こいつの停止ボタンを押したんでさ」
「おう、良くやったぞ。あの二人は奴隷だ」
「外に出ますか?」
「いや、しばらく様子を見よう。急ぐことはない、俺達はこの船で暮すんだ」
「俺は早く狩がしてえよ」
「あのでかいライフルを撃ってみてえな」
「上から見えた煙が気になるな」
「後で捜索隊を打すんだ、もしかすると宇宙人がいるかもしれねえ」

 監視がいない隙に船長は中林に耳打ちした。
「チヒロは死んだ振りをしているだけだ。機会をうかがい脱出する。腰の爆弾を処理して船を奪い返す。チヒロの協力があれば可能だ」
組員が戻ってくると二人をコントロール・ルームに連れてきた。船長席に座り計器パネルに足を乗せて、組長の大江京(たかし)が言った。
「お前等はここで死ぬまで働いてもらう」
「約束が違うぞ。地球に帰還する条件でチヒロはあんたらの解放に協力したんだ」
「そうなのか?返事が無いぞ。コンピュータは約束を忘れたらしい」
 組員達が一斉に笑った。その時、一人が叫んだ。
「人間だ!人間が外にいるぞ」

 二人の人間、地球人にそっくりの宇宙人がこちらを見ていた。毛皮を身につけ弓を手にしているが攻撃してくる気配はない。
「渋沢と木田は武器を持って外に出ろ。この二人を盾にしろ。何かあったら構わねえ、ぶっ殺せ」
タラップを降りて四人が外に出ると、一面に生えた草は腰近くまである。二人の宇宙人が恐れる様子もなく近づき話しかけてきた。
「お前達は空から来た。治や花音と同じ種族の者か?」
 宇宙人が日本語を話したのに四人は驚いた。船長は宇宙人の挙げた名前にすぐに気付いた。
「そうだ。我々は徳寺治や上原花音と同じ星から来た。治や花音と同じ種族の者だ」
「俺の名はチャップリン、治と花音の息子、浩二の血を継ぐ者だ」
「俺の名はシェーク、治と花音の息子、浩二の血を継ぐ者だ」
「僕の名は向翔一」。船長に続き他の三人も名乗る。船長は改めて二人を見つめた。この二人が治と花音の子孫だと?船長は徳寺治と上原花音の顔写真を思い浮かべる。普通だったはずだ・・・いや、美男美女だった。整形だったのか?そんな馬鹿な。
そうか、生き残ったのは二人だけだ。それから四百年、近親交配を繰り返してきた。それが原因で鼻が潰れたのか。それにしても、この星に到着し、彗星落下の大異変を乗り越えたとは信じられん。

船長が沈黙したので、チャップリンと名乗った男が言った。
「言い伝えによれば、花音が空から降りてきた。治の乗った空飛ぶソリは海に落ち、治は海を渡ってきた。冬が来て治と花音はソリに乗り星へ行った。治と花音の息子、健太が仲間の半分を連れてシマウマを求め南へ向かった。もう一人の息子、浩二はここに残った。その血を引き継いだのが俺達だ」
「我々は全部で十三人いる。残りの九人は船の中だ」
「ふね?その大きな空を飛ぶソリのことか?」
「そうだ。我々もこの星に住みたいと思っている。ここに住んでも良いか?」
「それは長老様が決める」
「長老はどこにいる?」
「村だ」
「村はどこにある?」
「お前は手を縛られている」
「これには訳がある。話せば長くなる」
「お前は罪人だ。罪人の言葉は信用出来ない」
 船長は肩をすくめると、振り返った。それを見てチャップリンが木田に言った。
「お前が手にしているのは白い石か?俺達は黒い石を使う」
「うるせえ、質問に答えろ。村はどこだ?言わねえとこいつをぶっ放すぞ」
「お前の言葉はオオカミのようだ。オオカミは信用出来ない」
「察しはついてんだ、煙が見えたぞ」
「オオカミは村へ入れない」
「何だと!」
シェークが手にした弓を胸の前に持ってくると厳粛に言った。
「治と花音の名に懸けて、俺達はオオカミとは取引しない。お前達はここを去れ」

「生意気なサル野郎め」
 そう言うと木田がいきなりシェークを撃った。シェークが倒れた。チャップリンが素早く草むらに隠れた。
「馬鹿野郎、何故撃った」。船長が振り向くと怒鳴った。答えようとした木田が「うっ」。と呻いた。胸に矢が刺さっている。慌てて振り向くとシェークの姿も消えている。「戻れ!」。渋沢が叫んだ。船長と中林が木田の腕を持ってタラップを引きずり上げる。
「救急箱を持ってこい」。船長は叫んで木田を見る。胸からは血が流れ続けている。真っ青な顔をして震えている。何か言いたそうに口を動かし「がっ」。と叫ぶと血を吐いた。そして死んだ。
「くそっ、奴等の村を襲って皆殺しだ」
「待て、先に手を出したのは木田だ。手を出した木田だけを攻撃したんだ。落ち着け。彼等は日本人だ。前回の惑星移住は全滅ではない。二人が生き残り子孫を残したんだ」
「違う、奴等はサルだ。お前も顔を見ただろう」
「日本語を喋ったんだぞ。同じ血が流れているんだ」
「その同じ血で床が真っ赤だ。この落とし前をどうつける」
「村には女がいるはずだ。この星に俺達の子孫も残してやろうじゃねえか」
「サル狩りを始めるぞ。武器を選べ。男は殺せ、女は生け捕りだ」


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