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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第65回                第4話 切り札
 アスカに乗り移り宇宙服を脱ぐと四人は正体を現した。女性隊員は居住室に閉じ込められた。向船長と中林は男子居住室のベッドに縛られている。コントロール・ルームで呼び出し音が鳴った。地上の管制塔からだ。
「ワープまで二時間ある。船長に応答させないと怪しまれるぞ」。大前の声に渋沢がゆっくり振り向いた。相田の横にいた木田が渋沢にうなずいた。
「大前さん、ご苦労だったな。悪いがしばらく大人しくしてもらおうか」。渋沢がレーザーガンを大前に向けた。相田が驚いて腰を探るがレーザーガンがない。「こっちだ」。木田がレーザーガンを握って薄ら笑いを浮かべた。

 大前と相田もベッドに縛られた。「仲間割れか?」。向船長の言葉を無視して大前は考えていた。はめられたのは確かだが、渋沢の狙いが判らない。木田が現れて船長を連れ出した。木田が紫色のネクタイを絞めている。
「相田、判ったぞ。奴らは大江組だ」
「大江組は壊滅したはずだ」。相田の代わりに中林が答える。
「幹部は逮捕されたが、組員は大勢逃げたままだ」
「何故、大江組だと判る?」
「あのネクタイだ。大江組は東京マフィアの流れを汲んでいる。大江戸から戸を抜いて大江組にした。それは刑務所の戸を抜け出すという意味だ」
「なるほど、奴等は逮捕されても証拠不十分で釈放されていた。だが、今度は違う。死刑は確定した」
「江戸といえば紫、紫のネクタイが大江組の正装だ」
「何で江戸が紫なんだ?」
「江戸紫だ。何だが知らんが、東京が首都だった頃にあった物らしい」
「奴らの狙いは幹部か?」
「そうだ。死刑囚の幹部を解放しろ、さもないと人質を殺す。そして惑星へトンズラだ」
「あんたは利用されたのか」
「トンネル強盗は予行演習だったんだ。インゴットも灰色リストも嘘だろう。くそっ、人をコケにしやがって」

「私はチヒロ。人をコケにしやがって、とはどういう意味ですか?」
「だっ、誰だ?」
「この船のコンピュータだ。チヒロ、それは人を馬鹿にしたという意味だ」
「中林少尉の説明を了解しました。大前に質問です。何故、馬鹿にされたのですか?」
「俺達は騙されたんだ。俺達は大江組とは関係ない」
「大江組と無関係なのは理解しています」
「チヒロ、コントロール・ルームはどうなっている?」
「あなたたちの予想通りです。八人の幹部をアスカに連れてくるように要求しています。移送ロケット発射までのタイムリミットは六時間です。船長はワープ延期をキーで指示しました。私はコントロール・ルームでは沈黙しています」
「一般人はチヒロを知らない。それで船長はキーを使ったんだ。チヒロは犯人には正体を隠しておいてくれ」
「了解しています」
「奴等は他にも何かしたか?」
「モニタに映します」

 木田が武器庫でライフルに弾を装填した。レッド・ケーキに起爆装置を付けると船内の三ヶ所に設置した。コントロール・ルームに戻った木田がリモコンを渋沢に渡す。そして木田もリモコンを腕に取り付けた。
「計画が失敗したら船を破壊するつもりだ。船体に穴が開けば我々は即死だ。政府の対応は?」
「幹部を刑務所から移動させ始めました。同時に特殊部隊も出動しました。コブラです」
「やはりな。・・・・えっ、何故コブラの出動が判った?」
「暗号を解読しました」
「まさか、コブラ暗号の解読には百万年かかるはずだ」
「それは全ての組み合わせの計算に必要な時間です。私は以前にもコブラ暗号を傍受しました。二つの暗号に含まれる文章は『田代春菜がアスカに向かった』。と『アスカを奪回せよ』。と推測しました。共通するアスカという言葉から素数の組み合わせを推測し二十六分で解読しました。計算よりも推測が有利なことを私は先生から学びました」
「よし、コブラ暗号でこちらから発信しよう。こちらアスカ、中林少尉。犯人は二名、及び共犯者二名。 仲間割れで共犯者二名は拘束されている。犯人は無反動ライフルを所持。レッド・ケーキを船内の三ヶ所に設置。起爆用リモコンは犯人が一つずつ所持。この文面に全員の船内の位置を添えて発信してくれ。自分達の位置が変わればその都度、発信してくれ」
「了解、発信しました。私から二名の共犯者に質問があります。騙される前の当初の目的、計画を述べなさい」
「くそっ、何でこんなややこしい事になっちまったんだ」

仕方ない、大前は全てを話した。
「そこまでの計画を立てたのは大前、あなたですね」
「そうだ。爆弾は木田が準備した」
「了解しました。今後の展開を推測する参考になりました」
「俺が思うには、木田は度胸がある。計画が失敗したと思ったら迷わず死を選ぶだろう。問題は奴が短気で単純な男だという事だ。奴が失敗だと思い込んだらアウトだ。 
渋沢は正反対だ。神経質で細かい事にも気付く男だ。だが、こういう大仕事には向いていない。スケールが小さいと言うか、気も小さい奴だ。特殊部隊を見ただけで手が震えてリモコンを押しかねない。いずれにしても俺達はここで死ぬ事になる」
「第一回惑星移住計画では十四名がこの船で死にました。残る二名は船外で死亡しました。これ以上、死者を出してはいけません。犯人は見せしめに人質の一人を殺すつもりです。私はそれを許しません」
大前とチヒロの会話に中林が割って入った。
「どうするんだ、チヒロ?」
「私は犯人と直接交渉します」
「犯人に正体を出しては駄目だ。チヒロとコブラが協力すれば何とかなるはずだ」
「私はチヒロ。決定するのは私です」

「私はチヒロ。この船のコンピュータです」
「なんだ、誰だ?」
「落ち着け。船のコンピュータだ」。船長は二人に言うと同時にチヒロの発言に戸惑った。自分がキーを使った意味に気付いたはずだ。今までの沈黙がそれを示している。突然、話し出したのは何故だ。救出作戦の一環なのだろうか?
「なんだ、驚かすな。コンピュータなら最初に、いらっしゃいませとか挨拶しろ」
「私はチヒロ。オート・カーの単純なコンピュータではありません」
「今は忙しいんだ。機械の相手をしてる暇はない。最初は相田だ。あいつを見せしめに殺す」
「それは私が許しません」
「何だと!」
「この船で死者を出すことを禁止します」
「おい、判ってるのか。俺達が船を乗っ取ったんだ。いざとなれば船を爆破することも出来るんだ」
「それがあなた達の切り札ですね」
「そうだ。判ったら黙ってろ。コンピュータらしく人間様の言う事を聞いていろ」
「私にも切り札があります」

 船がグラッと揺れた。
「てめえ何をした」
「ワープ装置からアスカを切り離しました。あなた達は惑星へは行けません。そして、私は地球の大気圏に突入して燃え尽きる事も出来ます」
「何だと。何を考えてる」
「あなた達の交渉を成功させ、無事に惑星へ行くのが私の目的です」
「交渉を成功させる?」
「そうです。このままでは計画は失敗します。また十六人が死にます」
「何故、失敗する?」
「私は特殊部隊に作戦中止を指示しました。私の指示に従わなければアスカは大気圏に突入すると通告しました」


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