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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第63回                第2話 ハイジャック計画
「ピッ、ピー」。警告音が鳴った。隠しカメラが階段を上がって来る男の姿を映し出した。男は下を向いているがコンピュータが特定した。「渋沢亮一、二十九歳」。それを見て相田がテレビを消すとドアを開きに立ち上がった。
「向こうは一億五千と言っている」。大前は黙って肯いた。相場よりかなり安いが不満はない。言い値にケチを付けないのは渋沢も承知しているはずだ。
「俺の情報料が20、仲介料が10、合計30パーセントで、大前さんの取り分は一億五百万だ」
「判った。何故、金を持ってこなかった。街は監視カメラだらけだ。電車や車でIDを使えば全て記録される。何かあったら俺達の関係が怪しまれるぞ。ここに来る回数は最小限にしてくれと言ったはずだ」
「一つ手前の駅で降りて路地裏を歩いて来た。金を持って来なかったのは、でかい話があるからだ」
「でかい話?」
「準備金は一人五千万だ」
「ほう、儲けは三億くらいか?」
「いや、儲けはゼロだ」
「どういう事だ、人をからかっているのか」
「イズモだ」
 大前は相田と顔を見合わせた。渋沢の言う意味が判らない。

渋沢が唐突に話を変えた。
「昨日、インゴットの盗品が出た。三年前に伊勢貴金属から盗まれた物だ」
「何だと!」
「やはり大前さんの仕事か。侵入経路も不明、音も立てずに金庫に穴を開けている。あんただと思った。それで金を持って来なかった」
 それは大前と相田の初仕事だった。渋沢と取引する前で盗品は処分屋に売ったのだ。
「くそっ、信じられないぜ。金なら溶かしても価値は変わらない。それなのにそのまま流したのか」
「警察が動き出した」
「・・・・・」
「処分屋まで辿り着くのは時間の問題だ。後は奴がどこまで踏ん張るかだ」
「インゴットをそのまま流す奴だ。すぐに吐くだろう」
「だから、惑星イズモだよ」
「どういう事だ?」
「宇宙に逃げるんだ。俺もやばい事があって警察に目を付けられた。一緒に逃げないか。仲間はもう一人、木田という男だ。四人でアスカを乗っ取る。女の乗員十人は連れて行く。ちょっとしたハーレムだぜ」

大前は反対した。
「惑星移住は国の計画だ。南米にでも逃げた方が良い」
「行きは良い良い帰りは怖い、って知ってるか?」
「知ってるよ、歌の文句だ」
渋沢は相田を無視して言葉を続けた。
「南米の空港に着いた所で御用よ。そのまま帰りの便で日本に送り返されるんだ。手錠、足かせ、オムツ付きでな」
「・・・・」
「国際便の乗客は全て警察がコンピュータと照合するんだ」
「時間との勝負だな。今すぐなら間に合う。俺達はブラック・リストには載っていない」
「大前さん、甘いぜ。俺は情報屋だ。警察にもツテはあるんだ。あんたはグレーだ。空の上で浮かれている間に、あんたの顔とIDは徹底的に調べられる。それでもばれない自信があるのかい?」
「国内に潜伏する方がましか」
「残りの人生を一歩も外に出ずに過ごすのかい」
「偽造IDを買えば・・・」
「そこらで売ってるIDを使えば、半日で逮捕されぞ」
「何故だ?」
「IDと顔が照合しない。俺なら完璧なIDが手に入る、ちょっと高くつくがな」
「金なら出す」
「俺の計画に反対なんだろ。俺がそんなお人好しに見えるかい」
「・・・」
「アスカを乗っ取ると言っても、向こうに着いたら地球に帰す。惑星移住計画は一回、遅れるだけだ」

大前が上を向いてフゥーと息を吐いた。渋沢が計画の詳細を話し出した。聞き終えた大前が考えている。そして椅子に座り直すと渋沢に言った。
「入れ替わる四人の男のなかにオペレータが三人いる。アスカは惑星に行かれるのか?」
「オペレータは女にもいる。男女両方いるのは交代要員だ。女だけで大丈夫だ」
「もう一つある。こっちの方が問題だ」
そう言うと大前は相田を呼んだ。壁に向かって立たせた相田に小さな声で指示すると、振り返って渋沢に言う。
「更衣室は狭いはずだ。相田の後ろ二メートルで計画を実行してみろ」
渋沢が怪訝な顔をしながらも立ち上がった。右手を相田に向けると言った。
「動くな!手を上げろ」
途端に、相田が半歩後ろに下がりながら身体を低くして半回転した。次の瞬間、渋沢の右手を蹴り上げた。
「痛っ!」
渋沢は相田を睨みつけると、右手を押えながら大前に言った。
「こいつに言ったんだろ。知っていたから出来たんだ」
「ニュースを見てないのか。男三人は特殊部隊から選ばれている。反射的に身体が反応するはずだ」
「なるほど。そうかもしれねえ。だがよ、思い切り蹴ることはないだろう」
そう言って渋沢が再度、相田を睨んだ。相田は得意気な顔で笑っている。

翌日、四人が顔を合わせる。木田は目つきが鋭く、がっしりした体躯だ。ビジネスマン風の渋沢とは正反対だ。渋沢より二つ年下の二十七歳だが、やんちゃ坊主の面影を残している。挨拶を済ますと木田が口を開いた。
「渋沢から話は聞いた。俺ならドジは踏まねえ。俺の身体に触れる前に撃ち殺す」
「あんたなら殺せるだろう。だが、一対六だ。それに船長か中林を殺せば、そこで計画は失敗だ」
「四対六だろう」
「四人揃うまでに相手に気付かれる。最初の一人が六人を制しないと駄目だ。それに撃たれた奴が叫び声を上げたら、警官が飛んで来る」
「じゃあ、どうするんだ?」。木田が声を荒げた。
「打ち上げはまだ先だ。まず情報を集めよう。細かい事でも良い、何か判ったら俺に知らせてくれ」

木田がビールを一気に飲み干すと言った。
「装備が決まったぜ。レーザーガンは将校用のピストル型だ。ライフルは12.7ミリの大口径で貫通弾と炸裂弾が撃てる。それとレッド・ケーキだ」
「それは何だ?」
「元々はB16対戦車地雷だ。色と形からレッド・ケーキと呼んだってえ話だ。起爆装置はリモコン、タイマー、センサーの三つある。併用も可能だ」
大前が怪訝な顔をした。木田が手を振って言った。
「地雷を持っていくんじゃねえ。普通、レッド・ケーキと言えば小さい一号の事だ。もっとでかい七号もある」
「どのくらいの大きさなんだ?」
「B16は200ミリだ。そいつを四号と言い出したのも兵隊だ。一号、七号も呼び名だ。号数で大きさが判るからさ」

木田の話し振りに戸惑っていた大前は気付いた。この男は相田に似ている。性格は逆のようだが、話の組み立て方が人と違う、そこが似ている。そして飛行機マニアと兵器マニアだ。大前は木田の言いたい事がみえてきた。
「一号が50ミリ、七号は350ミリ」
そう言いながら大前が手で大きさを示した。木田はそれを見て肯いた。
「一号は歩兵用に作ったんだ。投げれば手榴弾になる。軍用トラックなら木っ端微塵よ」
「なるほど、さすがに詳しいな。七号は工兵が使うのか?」
「厚さ一メートルのトーチカでもぶっ壊す」
「それを宇宙センタービルで使うとどうなる?」
「ビルの半分が吹っ飛ぶぜ」
「そいつが手に入らないか?」
「無理だな。軍の管理は厳重だ」
そう答えた木田がニヤリと笑った。
「大前さんの考えが判ったぜ、脅しに使うんだろ」
「そうだ。良く判ったな」
「へへへ、模造品なら用意出来るかもしれねえ」
「乗員に工兵隊員がいる。模造品だと見抜かれないか?」
「うーん」。木田が考え込む。「脅しに使うなら、中身はいらねえ。入れ物だけなら何とかなるかもしれねえ」


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