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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第52回                第7話 合同会議
科学省では連日、会議が続く。隕石事故での死亡者は少数だった、という意見が大勢を占め始めた。春菜はそれに反論出来ない。しかし、長官は生存者三、四名を科学省案とした。前回の案を踏襲したのだが、春菜の顔を立てた形になる。それが春菜には辛い。

合同会議が始まった。丸テーブルに長官が座り、その後ろに数名の部長が控え、三段目の末席に春菜も座る。外務省情報部、国防省統合情報部、内務省、内閣調査府が揃った。議長の開始の宣言が終わると国防省統合情報部がすぐに手を挙げた。新事実を入手したという。一人の青年が後ろの席から青い小箱を抱えて丸テーブルの上に置いた。春菜は思わず身を乗り出す。

統合情報部長が話しだした。
「これは軍の倉庫で発見されました。長野では軍の倉庫の一部を科学省に貸与しておりました。それで科学省の資料が軍の倉庫に紛れ込んだものと思われます。この箱には局長専用と書かれておりますが、当時の航空宇宙局長です。
この中には二つのメモリーステックが入っていました。その一つから意外な事実が出てきたのです。循環システム担当の徳寺治は他の複数の乗員から監視されていたのです。航空宇宙局長が徳寺治の監視、及びそれに準ずる指示をした四つの文書を皆さんのお手元のPCに映します」

 最初は船長宛だ。徳寺治の挙動に注意せよ、循環システムの自動化を最優先せよ。次にシステム・エンジニアの木本賢一宛で、循環システムの自動化最優先の件だ。精神科医である栢山樹理には、極秘資料の分析と徳寺治の監視が指示されていた。最後は調査機パイロットの大野竜也、上原花音に対し、徳寺治に不審な行動があれば身柄を拘束し船長へ引き渡せという命令書だ。

「ご覧になりましたように徳寺治を船長及び精神科医、さらに二名のパイロットが監視しておりました。彼の担当であった循環システムの自動化を急げという指示もあります。これはいったい何を意味するのか。
彼が担当した循環システムとは、宇宙船内を一つの生態系として長期の宇宙生活を維持するシステムです。そのシステムに不都合が生じれば、惑星移住計画どころか乗員の生命維持に支障をきたすのです。
そのシステムの自動化を急ぐとは、担当者である徳寺治の拘束に備えるためです。何故、彼は拘束されるのか?それは精神科医へ指示した事から容易に推察されます。徳寺治には精神疾患があったのです」

 統合情報部長は口を閉じるとゆっくりと周囲を見回した。待ちかねたように数人が挙手する。議長は内務省を指名した。
「理解に苦しむ内容だ。航空宇宙局は何故、精神疾患者を乗員に選んだのだ?」
「日付を見て下さい、2156年7月10日、出航の前日です。航空宇宙局は出航直前まで徳寺治の精神疾患に気付かなかった。彼を乗員から外し出航を延期するのは不可能に近い。乗員の訓練には一年かけていたし、出航セレモニーの準備も終わっている。やむを得ず徳寺治を乗せてアスカは出航した」
「船長たちには指示書だが、二名のパイロットには命令書になっている、この違いは何だ?」
「その二名は空軍に所属したまま航空宇宙局に出向している。局長は民間人と軍人で言葉を使い分けたと推測されます」

 統合情報部長は他に反論が無いのを確認すると先を続けた。
「この新たな情報により、我々は今回の最初のメールにあった隕石の衝突、あれは事実と異なると分析しました。アスカは内部から破壊された。犯人は徳寺治です。アスカはイズモに到着し、データを取り3Dマップも作った。
この時、いかに乗員が期待していたかを示す状況証拠があります。アスカはそれ以前に三つの有望な惑星に出会っていました。軌道上から観測し、調査機を飛ばし精密測定をする。その結果、移住には不適当と判った。
イズモの場合は異なります。それはデータを見れば判ります。大気の圧力、成分は観測値でした。実測値ではないのです。船長は調査機を飛ばさずに3Dマップを作成したのです。精密測定をする必要がないほど、イズモは第二の地球にふさわしい惑星でした。

ところが、巨大彗星に気付き、移住不能と知った。乗員のショックは大きかったでしょう。徳寺治はこのショックに耐え切れずに発狂した。宇宙服を着込み船内でレーザーガンを発射すれば、アスカは簡単に破壊出来ます。乗員は徳寺治を残し全員死亡。  
その後に彼は第一のメールを打った。内容はデタラメで宇宙船を破壊したのは隕石のせいにした。翌日になって気が変わり第二のメールを送信した。しかし、データを送った事のない彼は生データのまま送信した。3Dマップは出来上がっていたのを添付しただけです。さらに一日経って彼は地球に帰ろうと思いついた。以上が統合情報部の分析です」
「航空宇宙局長が精神科医に極秘資料の分析を指示した。その答えが例の開かずのメールだろう。局長専用コードはその箱には入っていなかったのかね?」
「無かった。我々もその答えは知りたいが、無かった」
 そう言うと統合情報部長は座った。誰も手を挙げようとはしない。議長が促した。
「どなたか統合情報部に反論、質問はありませんか?」

 春菜は考えていた。藤本さんは笑って誤魔化していたが、あのミスを悔やんでいるのは確かだ。この席に引っ張り出せば怖気づき、忘れた振りをするだろう。彼の名前を出さずに追求するなら話を作らねば駄目だ。ためらう春菜に長官の後姿が目に入る。春菜は挙手した。
「科学省、発言を許可しますか?」
 議長が長官に質問した。末席にいる春菜に自由な発言権は無い。振り返った長官は力強く答えた。
「許可する」
「ありがとうございます」。春菜は長官に一礼すると、統合情報部長ではなく議長へ言った。
「私が行いたいのは統合情報部への質問、反論ではありません」

 統合情報部から失笑が起こる。議長は眉をピクッと動かすと言った。
「では、何をしたいのかね?」
「統合情報部の資料の入手方法に関する疑問です。そこで議長にお願いがあります。その青い箱を証拠品として議長の手元に置いて頂けないでしょうか?」
 会議場がざわめいた。
「静粛に。それは入手方法に不正があった疑いがある、という事ですか?」
「はい、そうです」
議長は春奈ではなく科学省長官に問うような視線を送る。長官がうなずくと議長が宣言した。
「青い箱を証拠品と認めます。統合情報部長、証拠品に触れないように。係員は証拠品を私の前に移動したまえ」


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