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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第4回               第2話 青族との戦い
「青族が攻めてきたぞー」
その声を聞くと、女たちは慌てて一つの建物に入って行った。屋根を葉でふいた粗末な建物だ。そこに避難するのかと思ったが、両手に食料を持ってぞろぞろと出てくる。
「早く、森に隠れるのよ」
「おい、出て来い」
男の鬼が治を手招きした。昨日のように両側を屈強な男に挟まれて、治は歩き出した。食べ物を持った女たちが避難していく。
「あ、あ」と、口をあけて指差し、女たちに食べ物をねだったが、誰もくれない。子供が両手に一つずつ小さな実を持っていた。
「あっ、あっ」と、おねだりすると子供はちょっと迷ってから、その一つを治にくれた。
「馬鹿ね、何で青族に大事な食べ物をやるのよ」
「だって、母ちゃん、可哀想だもの」
治はその子に「ありがとう」と言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。その代わりに両手を合わせて感謝の意を表した。
「ちょっと!うちの娘に何するつもりよ」
母親が治を怒鳴りつけた。
「まあ、まあ。花も咲いてないんだから」
治の横にいた鬼がとりなしてくれた。そう言いながら、もう一匹の鬼とニヤニヤ笑っている。

治は何がなんだか判らないまま、鬼たちに連れられて行った。治は子供に貰った小さな実をかじりながら歩いた。その実は甘くて美味かった。治はゆっくり歩きながら辺りを見回した。そこは森のふちで空が見えた。宇宙船から見た時と同じように空は厚い雲におおわれていたが、一ヶ所だけ雲が途切れて青空が少し見えていた。治の視線を追った鬼が言った。
「いいなあ、あそこは晴れている」
「今はそれどころではないだろう、もっと急げ、戦いが始まってしまうぞ」
「そうだったな。おい、もっと早く歩け」
治はそう言われて笑いそうになったが、言葉が判らない振りをして黙って、鬼に合わせてゆっくりと歩いた。

 戦いはすでに始まっていたようだが、治には能か歌舞伎でも演じているように見えた。草原では三匹の青鬼が棒をゆっくりと振り回し、それを七匹の赤鬼が囲んでいる。多分、これは儀式的な戦いなのだろうと治は思った。数の多い赤鬼が押されているようだった。それも当然で青鬼は大きかった。治より大きな赤鬼が、青鬼の側では子供に見えた。
「おーい、青族の者よ。お前らの子供を捕まえたぞ。この子を助けたければ棒を捨てて退散しろ」
治を連れてきた赤鬼が叫ぶと、近くにいた青鬼が答えた。
「そいつは我らの子ではないぞ。そんな事で我らに勝てると思ったか、馬鹿者め。そんな奴は叩き殺して食ってしまえ」
それを聞いて、赤鬼たちが浮き足立ったのが治にも判った。
「お前らが食わんのなら、俺が食ってやろう」
そう叫ぶと、青鬼がこちらに向かって来た。治の両側の赤鬼は逃げ出した。

これは儀式ではない、本気の戦いだと治は気付いた。「うおー」と叫びながら、恐ろしい形相で青鬼がやってくる。治は逃げようと思ったが恐怖で足がすくんで動けない。青鬼は棒を振り上げて突進してくる。今にも治の頭に棒が打ち下ろされるはずだが、見れば青鬼はまだ十メートルは離れている。
治は勝てるかもしれないと思った。鬼の動きが遅いのだ。青鬼が棒を振り下ろす前に、治は横に動いた。棒はゆっくりと振り下ろされて地面を叩いた。治が素早く青鬼の後ろに回ると、目の前に青鬼の足がある。両手で膝カックンをすると青鬼は倒れ、棒が地面に転がった。
治が棒を拾いあげると、二匹の青鬼がこちらに向かってきた。治は走った。すれ違い様に胴に打ち込む。振り返るともう一匹はキョロキョロと治を探しているようだ。治は走り寄るとそいつの棒を叩き落した。二匹の青鬼は呆然として立ちすくんだ。治は棒を構え直すと青鬼の出方を見た。剣道の達人になったような気分だった。

「あぶない!」その声に振り向くと、最初の青鬼が治の背後に迫っていた。その時、一匹の赤鬼が棒で青鬼の額を叩いた。「うっ」と呻くと、青鬼は額を押さえて逃げ出した。二匹の青鬼もその後を追って逃げて行く。治は愉快になって「わはは」と笑った。治はもう赤鬼たちへの恐怖心は無くなっていた。それどころか共に戦ったことで仲間意識さえ感じていた。
「君のお陰で助かったよ」
「いや、おまえこそすごいよ。おまえのおかげで初めて青族に勝ったよ。あれ?おまえは喋れるのかい」

他の赤鬼たちも集まってきて、治を囲んで口々に賞賛した。
「ところで、おまえは何族だい?」
「俺は地球人さ」
「チキュウジン?それは何族だ?」
話がややこしくなるので、治は言い直した。
「実は俺は、角なし族さ」
それを聞いて鬼たちは騒ぎ出した。
「小さくて見えないだけだろ?」
「違うよ。角はないよ。ほら、見て」
「角がないと・・・困るだろ?」
「角がなくても平気だよ」
鬼たちは憐れむように治を見た。

村へ帰りながら、治は鬼たちの話を聞いた。
「青族は二、三ヶ月に一度、赤族の村を襲って食料を盗んでいく。戦っても勝てないのは判っている。女、子供が避難する時間をかせいでいるのだ。女達は食料の半分を持って逃げる。全部持っていくと青族は怒って村の家を壊すからだ。
昔、いきなり襲われて食料を全て盗まれ、ひもじい思いをした。だから、青族の来る頃を見計らってパトロールに出る、その時に見つけたのがお前さ。青族がどこに住んでいて何人いるのかは判らない。判っているのは青族が乱暴で大食らいということぐらいだ。
我々のご先祖様がここに村を作った時から青族はいた。村を引っ越す?それは出来ない。ご先祖様が作った村だし、村はムシの森に近いからだ。ムシの森は十年に一度のお祭りだよ。おっとと、これは村の秘密だ。特に青族には絶対秘密だ。おお、村に着いたぞ」

「おーい、勝ったぞー。青族に勝ったぞ。みんな戻ってこーい」
その声を聞いて、森から女、子供が不思議そうな顔をして出てきた。みな手に食べ物を持っている。治は鬼に頼んだ。
「俺は腹がへっているんだ、あの食べ物をわけてくれないか」
「えっ、さっき食べただろう。昨日だってすごく食べた、青族みたいにね」
「俺はここに来るまで、何も食べてなくて死にそうだったんだよ」
「よしよし、我らの英雄が空腹では、また青族が攻めてきても勝てないからな」
女、子供が持っていた食べ物が治の前に置かれた。
「青族に食われるはずだった食料を我らの英雄に捧げようではないか」
そして女と子供たちに、さきほどの戦いの様子を話し始めた。子供たちは尊敬のまなざしで治をみつめた。

大人は治の食いっぷりを驚嘆の目で見た。といっても治が食ったのは大きい実を一つ、小さいのを四つばかりだった。
「すごいな、青族よりも食ったぞ」
「それだけ食えば、一ヶ月は何も食えないだろう」
「俺は角なし族だから」と言いかけたところで、女たちがドッと笑った。
「角なしだってさ」
「信じられなーい」
「どうやって、やるのさ?」
「きゃはは」
「わははは」
男たちも、大笑いだった。だが、治の次の一言でみな黙り込んでしまった。
「角なし族は、一日に三回食べるんだよ」


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