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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第30回               第13話 仲間と暮らす
花音がリュックの非常食を見つけた。
「あっ、がんばり食だ。食べずに取っておいたのね」
治は非常食を知らずに飢え死にしそうになった話をした。馬鹿にして笑うと思った花音が泣いて言った。
「そんな事で死んだら、私と会えなかったじゃないの」
その花音の口にチョコレートを入れると、すぐに泣き止んだ。
「がんばり食は、評判は良くなかったのよ。それが、こんなに美味しいとは思わなかったわ」
「どうして、がんばり食と言うの?」
「不時着したら、これで三日間がんばれ、という意味よ。これ使って良い?」
「どうするの?」
「治は招からざる客なのよ。これを使って仲間に入れてもらうの」。そう言って、花音は考えている。「乾パンはギーよね。ゼリーはプクかしら。チョコは私が食べちゃおう」
「なんだい?それ」
「食べ物の名前よ。ギーは木の実。プクは貝よ。池に行ってギー、ギーって言うの。私が口を開けてアー、アーと言うから、乾パンを一個口に入れるのよ。それを見て皆が来るわ。そしたら乾パンを口に入れるの」
二人で池に戻り手はず通りにした。皆の反応は花音の言った通りだった。そして、それだけだった。感謝の意も、味の感想も無い。無表情で池に戻った人に、花音は満足していた。
「あれで良かったのかい?特に嬉しそうでもなかったけど」
「皆満足していたわ。治を仲間と認めたのよ」

 花音は池を変えた。他の仲間にも治を紹介するためだ。川に沿って幾つもの池が散在している。池には三、四人から七、八人くらいの仲間が住んでいた。治たちは五つの池を回り、残りの非常食を使って治は仲間に入れてもらった。
その時に気付いたが、何人かと違う池で再度出会うのだ。治たちの後を追っているようでもない。ここでは縄張りもなければ、住む池の強制もない。自分の好きな池を自由に行き来するのだ。
花音は最後に、一番奥の池に落ち着いた。そこが、花音の最初の池なのだ。近くにトレーニング・タンクが、無残な姿で転がっていた。変形したドアを開けるには、ちょっとしたコツがいる。それを開けたママの知能の高さを改めて知った。
「この奥の池は貝が豊富なのよ。池も広いしね。だけど、グルがいるのよ。グルはライオンに似た猛獣よ。トレーニング・タンクにいた私を襲おうとした獣。大きさは大型犬くらいだからライオンよりはマシね」
「それで何時もレーザーガンを持っているのか」
「もう三匹倒したわ。グルは水が嫌いなの。他の池は湿地帯に囲まれているからグルは来ないけど、貝は少ないのよ。ここの人が池に住むのは、グルがいるからよ」

 花音は女たちと、すっかり馴染んで暮している。治はそうはいかない。男たちと挨拶はするが、それ以上の関係にはならない。一緒に行動するのは木の実を取りに行く時だ。誰かがギーと言うと、男たちが池から上がる。棒を手にするのはグルがいるからだ。だが、これは強制ではない。池から上がらない男もいるが、それを咎める様子はない。
ボスの座を争うことも、仲間の顔色をうかがう事もない。ここの男は自由に生きている。男たちに命令できるのは子供だけだ。子供がプクと言えば貝を取ってやり、ギーと言えば木の実を取りに行く。子供を養うのが男の義務らしい。誰が自分の子なのか知らない、子供は皆の共有財産なのだ。

 雨が降らなくなった。季節が変わって乾季になったようだ。木の葉が散り始めた。木の実は僅かに残っているだけだ。仲間たちが奥の池に集まってきた。湿地帯が乾いて他の池にもグルが出没し始めたのだ。レーザーガンのエネルギーは残り少なくなっていた。
治は石を割って小さな刃を作った。それを棒の先に付ければ槍になった。若者がそれを見て真似る。大人の男たちは自分の棒を、治に手渡して棒の先を指差す。治に槍を作れと言っているのだ。出来上がるまで横で待っている。出来た槍を渡すと嬉しそうに笑い治の肩を叩く。
 治は黒曜石の矢じりで弓矢を作った。さらに土を盛って標的を作る。横にいる若者に小さな声で「グル」。と言い矢を射ると、その若者はすぐに理解した。一人の若者が弓矢の練習を始めると他の男たちも関心を持ち始めた。治は幾つも弓矢を作り男たちの腕は上達した。もうグルは怖くない。男たちは槍と弓矢を持って狩に出た。

 森に大きな獲物は少ない。言葉を喋れる男が成長したら、あの山脈を越えてみよう。向こうは草原だった。鹿や牛のような大型の草食獣がいるだろう。


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