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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第3回   第1部 2408年     第1話 赤族との出会い
徳寺治はアスカの外に出た。主翼の上を伝って調査機に乗り込むと命綱を放り投げた。
「二号機、発進します。花音、見守ってくれよ」
治は姿勢制御エンジンを噴射した。アスカの翼から調査機が離れていく。「さよなら、みんな」。治は深呼吸すると主エンジンを点火した。調査機が目の前の惑星に突っ込んでいく。やがて窓が真っ赤に染まり、さらにオレンジから黄色と変化していった。どんどん高温になっていく。治は不安になった。いや、火葬で死ねるなら仲間よりも幸せだ。そして窓は七色の虹のように輝いた。治が恐怖も忘れ見入っているうちに、赤くなってきた。温度が下がってきたのだろうか。

しばらくすると窓の外は真っ白になった。雲の中を飛んでいるのだ、と気付いて治は叫んだ。「やったぞ!」。治は操縦桿を握り締め少しずつ手前に引いた。雲が薄れて海が見えた。左の水平線に青い影が見える。治は慎重に操縦桿を倒し陸に向かった。やがて下は草原となった。緑の色が濃くなると山だった。山脈の先に一つだけ高い山が目に入った。富士山に似ている。その向こうに霞んで見えるのは海だろうか。

 脱出地点はあの山の麓にしよう。治は旋回すると富士山に向かった。その時、森の中に道らしきものが見えた。その道は真っ直ぐに富士山に向かっている。それは道というよりも、森の木々が一直線に倒れた跡のようだ。文明ではなく自然現象が作ったようにも思える。道に注意が向き機首がどんどん下がっていくが、治は気づかない。道の先に海が見えた、その水平線が低い。このままでは海に突っ込む。慌てて急上昇すると、二号機はフワッと浮き上がり勢いを失くした。
「馬鹿っ、ストールよ!」。花音の声が聞こえたような気がした。治は迷わず射出レバーを引いた。キャノピーが吹き飛び治は座席ごと飛び出した。二号機は海に墜落して爆発した。パラシュートが開くと治は周囲を見渡した。後席のパラシュートも開いた、と座席に固定したはずの段ボール箱が落ちていく。しまった!回収する目印を探すが深い森が続いている。

やがて足元は海になった。海面がどんどん近くなる。海に落ちたら助からない!その時、フワッと身体が浮いた。富士山に向かう上昇気流に乗ったのだ。胸を撫で下ろした治は、やがて不安になる。どこまで揚がるのだろう。たどり着きたかった麓の海岸ははるか下だ。やがてガサガサッと音がすると、パラシュートは木に引っかかり止まった。枝が多い木で降りるのは難しくはなさそうだ。治はシートベルトを外し、宇宙服のまま木を降りた。木の根元に宇宙服を脱ぎ捨て、周囲を警戒する。獣やこの星の住民に襲われるかもしれない。しばらく身を潜めていたが、そういう気配はなかった。治は深呼吸をした。空気が美味かった。我ながら上出来だ。いや、成功するとは思っていなかった。治は二号機を棺桶として選んだのだ。極度の緊張から開放されて治はいつのまにか眠っていた。

空腹と喉の渇きで目が覚めると、治は段ボール箱と海を隔てて落ちたのを思い出した。ここが半島なら食料とレーザーガンの落ちた森へ行かれる。島か別の大陸なら、それは不可能だ。ここには獣の姿もなく、鳥の鳴き声もない。木には果実も見当たらなかった。あてもなく歩いていくうちに、治は水の音に気付いた。川を見つけると治は流れを両手ですくって夢中で何度も飲んだ。見渡すとそこは田舎の谷川に似ていた。大きな岩のあいだを水が流れ落ち、岩の陰は淵になっている。そこには魚が潜んでいて、子供の治は網で魚を取ろうとしたが、素早くて捕まえることは出来なかった。だが、この川の淵を覗いても小魚一匹見つからない。苔むした石をひっくり返してもカニも出てこない。生物が住めない毒の川なのかもしれないと思った。それならそれで仕方ない、もう腹いっぱい飲んだ後だ。

 疲れを感じて川から上がり横になると、治はそのまま寝てしまった。激しい雨に目が覚めると、治は濡れながら川に沿って下り始めた。このまま歩けば海に出るはずだ。一日歩くと川幅は広くなったが、同じような森が続いていた。川岸の草や、木の葉を口に含んでみたが、すぐに吐き出した。さらに一日歩いても森が続く。治はすでに空腹を感じなくなっていた。ぼんやりとした頭で明日か明後日には死ぬのだろうと思った。それでも治は歩き続けた。疲れて横になりたかったが、何かがそれを許さなかった。

 治は首を上げる気力もなく、うなだれたまま歩いていると、視界の端に赤いものが見えた。ハッとして目を上げると、全身真っ赤な大男だ。白い牙をむき出し、頭には一本の角が生えている。逃げようとして振り返れば、治は五、六匹の赤鬼に囲まれていた。恐怖で治の膝はガクガクした。治が両手を上げると、鬼たちはビクッと一歩下がった。治が動いたので警戒したらしい。降参の意思表示は通じてないようだった。どうすれば良いのだろう、治は上げた手をゆっくりと下ろして合掌するとお辞儀をした。敵意がないことを示そうとしたのだ。すると、事態は一変した。赤鬼たちが突然笑い出したのだ。
「なんだ、こいつ。馬鹿か?」
「青族のガキにしては、面白い奴じゃないか」
治は驚いた。赤鬼が言葉を話している。治が呆然として立っていると二匹の赤鬼が両側から治を押さえた。大きな鬼に両腕をがっしりと取られ、治は恐怖と疲れから気を失った。

 気が付くと治は木の檻に入れられていた。檻のまわりを大勢の赤鬼が囲んでいる。
「長老様は青族の子供だと言ったよ」
「だけど、へんな青族だな。顔と手足の先は青くないもの」
「色も薄い」
「青族の子供は色が薄いのかな?」
「ああ、そうだ。きっとそうだよ」
治の着ていたのはライト・ブルーの船内スーツだった。これが青族とかと何か関係があるのだろうか。
「目を覚ましたぞ。食べ物持ってこい。大事な人質だからな」
食べ物と聞いて治は起き上がった。這うようにしてたどり着くと夢中で食べた。
「見てごらん、青族は食い意地が張っていること」
「あんたはね、赤族なんだから、ああいう下品な食べ方しちゃだめよ」
「わかってるよ、母ちゃん」
治は聞こえない振りをして元の場所に戻ると、また眠りに落ちた。空腹を感じて目が覚めると、もう見物人はいなかった。見張りだろうか、一匹の赤鬼がいる。食い物、と言おうとして治は止めた。言葉が判らない振りをしていた方が良いと思ったのだ。治は口をあけて指さした。赤鬼は「また食うのか、あきれた奴だな」。と言いながらも食べ物を持ってきた。二回目の食事で、治は食べ物を味わう余裕がでた。ホウレンソウとピーマンを混ぜたような青臭い味がした。

 翌朝になると、また鬼たちが治を見に集まってきた。治は檻の中から鬼を観察した。話を聞いていると鬼にはオスとメスがいるようだったが、見た目では区別がつかなかった。鬼の肌はウロコのようなもので覆われていて、メスに乳房らしき膨らみもなかった。やがて角を見て気付いた。細長いのがオスで、太くて短いのがメスだ。オスとメスの身体の大きさは同じだ。大人が身長二メートルで、子供は一メートル。若者はその中間だ。身体の大きさが三種類に、はっきりと分かれているのが不思議な気がした。治を見物しているのは女子供が多かった。男たちは数名を残して出かけているらしい。


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