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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第23回               第6話 神話を再考
翌朝、三人で出発する。石の斧でリュックが重い。二人の遅い歩みに合わせていると、リュックの紐が肩に食い込んでくる。治は一芝居打つ事にした。
「ダブ、伏せろ」
「どうしたの?」
「青族かな?何かが動いたように見えた」
ダブの顔が引き締まった。普段はあどけないダブだが、戦いの時は勇敢な戦士だ。
「俺は様子を見ながら、森の中を通って行く。ダブはニーナと川沿いに行け」
「判った、気をつけて」
「ダブもな。ニーナをしっかり守るんだぞ」
「うん」

治は森に入ると自分のペースで歩き始めた。先に着くと棒の木を切る。二十本も切った頃、二人が仲良く話をしながら到着した。
「青族はいなかったよ」
「そうか、俺の目の錯覚だったようだ」
ニーナがクスッと笑った。治の芝居はニーナにはばれたようだ。ダブと代わると石の重さに振り回されている。ニーナの前でちょっとかっこ悪い。何度かやるうちにダブも慣れてきた。また治が代わって切る。ニーナは器用だ。木の束を蔦で縛ると持ちやすいように手提げ紐も編んだ。治は斧を置いて行くことにした。村人が後で使うだろう。

 村に戻ると治は棒を蔦で縛り始めた。それを見てニーナが手伝う。村人が集まってきて日向ぼっこがてら見物だ。青族は十列三段だったが、赤族の身体なら二段で大丈夫だ。その代わりに十五列にした。幅六十センチの立派な橋を持って川へ向かうと村人がぞろぞろ付いて来る。川幅四メートルの場所に六メートルの橋を置き、両側を杭で固定する。
「みんな、橋が出来上がった。この上を歩いて向こうの岸に行ける。そこには実がたくさん生っている」
「おおー」。村人から歓声が上がった。
「橋を渡るのは一度に一人ずつだ。最初に渡るのは長老のアシジだ」
「いや、わしは・・・あ、足にきた。駄目じゃ。歩けない」
「えっ、アシジ大丈夫かい?」
「普通の地面の上なら歩けるとさ」
皆に笑われてもアシジは手を振って渡ろうとしない。ダブも尻込みしている。ニーナが進み出て橋を渡った。それを見てダブが渡り、やがて全員が渡った。
「あれ、アシジ様。足はもう治っただか?」
「ああ、治った。さあ皆の衆、実を探そうではないか」
「アシジ様、探さなくとも、そこらじゅうにあるよ」。また皆に笑われたが、アシジも嬉しそうに笑っている。

治はお婆に橋の完成を報告に行った。お婆は橋を見たがったので抱き上げて戻った。
「これが橋かい、地面が繋がったようじゃ、たいしたもんじゃ」
「お婆様も渡りますか」
お婆を抱いたまま治が橋を歩く。
「ニライ様、二人一緒に渡っているぞ、橋が落ちないか?」。誰かが、からかって言った。治とお婆を合わせても大人一人分より軽いが、お婆は怖がって治にしがみついた。
「お婆様、死んだ亭主が見ているぞ」。村人が一斉に笑った。その両手は実でふさがっている。治はお婆を抱いたまま先に進んだ。あちこちの木に実が生っている。それを見たお婆は満足そうに肯いた。

 お婆は三日後に出発と決めた。橋を見て安堵したせいか、お婆の葉が落ち始めた。翌日、治は残っていた棒の束を川に投げ込み、その上に乗って河口まで行く。砂浜に引き上げ筏を作る。太陽が雲に隠れているとはいえ、川原や砂浜は暑い。治は森に入ると暦の石に二つを加えた。
海辺の森は風通しがいい、そこで横になるのは気持ち良い。治は村人の言葉を考えた。女たちの栄養が良ければ、赤ん坊は無事に生まれ育つのだ。赤族も青族も互いに、ムシの祭りを暗黙のうちに認めている。ムシの祭りがないと花が咲かないからだ。さらに、実が熟すにも栄養が必要なのだ。栄養とは即ち橋だ。赤族は橋を喜び、青族は橋を流した。

 思いあぐねた治は、もう一度カイン神話を思い起こした。赤族の神話から虚飾を取れば、ある飢饉の年カインがキャベツ泥棒をして赤ん坊を殺した、となる。飢饉か、江戸時代の飢饉も悲惨だったらしい。死人を食べたり、赤ん坊を殺して食べたこともあったかもしれない。
治はふと思った。飢饉の年とわざわざ断っているのは、カインの盗みに理由づけをするようなものだ。赤族にとって不利益な飢饉という設定は、それが正しい言い伝えだからではないのか?
それを青族の神話に当てはめると、ある飢饉の年に赤族から青い子が生まれた、となる。これはどういう事だ?突然変異が出たのが、たまたま飢饉の年だったのか?ノドが生まれたのも飢饉の年だったのだろうか?

待てよ、その前に基本的におかしい事がある、と治は気付いた。カインが突然変異で生まれたなら、ノドもそうだ。身体の色と大きさが異なる変異だ。二人にまったく同じ突然変異が出る確率は低い。そしてDNAが異なれば子供を残せないはずだ。カインとノドのDNAが同じなら突然変異は無かったのか?そうすると赤族と青族のDNAは同一ということになる。
あれだけ違う種族が同じDNAとは思えなかった。治は立ち上がると歩き出した。砂浜を歩きながら指を折って数える。身体の大きさ、色、性格、栄養の取り方、カイン神話・・・・右手の指が五を示す。角の色、葉の形、ムシの祭り、子供が少ない、ニライ神話・・・治は立ち止まると左右の拳を見た。相違点も共通点も同じ数だ。


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