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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第19回               第2話 青族の神話
「昔、昔のことです。ある年、赤族の村に青い赤ん坊が生まれました。それがカイン様です。カイン様はすくすく育ち三歳で十歳の子供よりも大きくなり、しかも大人よりも食べたのです。村人は集まって相談し、カイン様を捨てることに決めました。
カイン様はあちこちの森を彷徨い、やがてムシの森を見つけたのです。それから何年も経った頃、また青い赤ん坊が生まれました。村人は青い子をすぐに捨てました。森で泣いていた赤ん坊に気付いたカイン様は、その子を助け育てました。それがノド様です。

ノド様はムシの祭りで花が咲きました。その時に赤族にムシの森を見つけられたのです。赤族は石を投げてカイン様とノド様を追い払いました。石の一つはノド様の角に当たり、受粉した茎は折れてしまったのです。カイン様は泣きじゃくるノド様を抱き上げ逃げました。
そして赤族の来ないこの場所に住まわれたのです。ノド様に種を授けたいカイン様は、ムシの祭りの日を知るために、このような仕掛けを考えたのです。数十年が過ぎ、カイン様はご自分の死が近いことを知りました。そして遺言を残されました。

 ワシ等が石で追われたのも、この肌の色と諦めよう。しかし赤族は真実を語らず、自分たちに都合の良い話をでっちあげたと聞いた。ワシはそれが口惜しい。ワシの子供等よ、孫たちよ、子孫たちよ。赤族に復讐せい。幸いワシらは大きな身体と強い力を授かった。赤族の食い物を奪うのだ。赤族が真実を知ること、それがワシの復讐だ。それがワシら青族にとってこの痩せた土地で生きていく方法だ」

治は長に聞いた。
「長よ、赤族を襲うのは止めると言ったが、あれは守れるのか?」
「はい、私はそのつもりです。しかし、村はそれで二つに分かれているのです。ニライ様の言葉とカイン様の言葉、どちらが正しいのか?と。一部の者たちは、私は長にふさわしくないと言い出しております」
「カインの本当の願いは、赤族が真実を知ることか」
「そうです」

 治は席を立った。もよおしてきたのだ。外に出て困った。森に囲まれた赤族の村に比べ、ここは木が少ない。人目につかない場所を求めて、治は村人のいない上へ登ることにした。ここに生えているのは違う木だ。根元から何本もの細い幹が真っ直ぐに伸びている。その木の陰で用を足した。
それが青族の棒だと気付いた。先祖とは形の違う木ならば、鬼族は折り取ることに何の躊躇もないのだろう。ものは試しと、治は雲固を小分けすると、何本もの木の根元に埋めた。手ごろな岩を見つけると、そこに座って治は考えた。

 カインの話が、まるっきり逆なのは当然だろう。憎みあう二つの種族が相手の暴挙をでっちあげ、自らを正当化する。よくあることだ。赤族が真実を知ること、それがどういう真実なのか治には判らない。治が望むのは青族が身体の大きさにものいわせ赤族を襲うのを止めることだ。
ブライやダブがカインの話を知らなかったのは、最初の花が咲いた時に伝えられる話なのだろう。この話で互いの憎しみを増幅するのだ。

 それにしても、皮肉なものだと治は思った。赤族の方が光合成には有利なのだ。太陽光線の中で光合成に適するのは、青、赤、緑の順だ。植物が緑なのは効率の良い青と赤を使い、緑を反射しているからだ。
赤族が使う青と緑は一番目と三番目だ。青族は二番目、三番目しか使えない。それなのに青族の方が大きく、強く、賢いのだ。光合成に不利な青族が大食いなのは当然だった。赤族の食料を奪わなければ、青族の食料が不足するのは明らかだった。

 青族の村は子供が多いのに静かというよりも陰気だ。そう思った治は間違いに気付いた。治が大人だと思っていたのは男だった。女の身体の小さいので子供と思っていたのだ。青族の大人は二十人だ、夫婦は八組だろうか。子供と青年を合わせると九人、夫婦の子の数は平均1.1人だ。これは赤族と同じだ。
一方、性格はまるで違う。赤族は談笑しながら楽しげに食っていた。青族は黙々と食べ、食べ終わっても満足した様子はない。特に女は食べ終わると黙って下を向いている。まだ食べている男達を見ないようにしているかのようだ。
乏しい食料を育ち盛りの男の子に食べさせ、大きな戦士を作るのだ。女達が小さいのは食べないせいだ。青族の本来の姿は男女共に身長三メートル近い大きな身体のはずだ。治は二つの種族の相違点や共通点に戸惑った。

治はカインの神話を思い起こす。お涙頂戴の田舎芝居のような赤族の神話は、喜怒哀楽のある赤族にふさわしい。筋書きだけの素人芝居のような青族の神話は、いかにも冷徹な青族らしい。
どちらも作り話だと思っていた治は、その中に真実があるのではと考え直した。正反対の内容のカイン神話だがどちらも種族は同じだと言っている。それなのに何故、青族の身体は大きいのか?そして身体の色が違うのか。そうか、赤族から突然変異で青族が生まれたのだ。身体の色と大きさに関係するDNAが違った種族、その違いで反目しあう種族。それが鬼族だ。


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