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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第14回               第12話 青族の逆襲
村の近くで大きな実が二十個以上も生っていた。最初に用を足した木だ。治は雲固の力に驚いた。お婆にこの木を見せてやろう、治は意気揚々と村へ向かった。
 村には誰もいなかった。治は先へ進んだ。畑が見えてくると治は驚いて身を隠した。青鬼だ。村人を取り囲んでいる青鬼は九匹。治は木陰を伝いながら畑に近づいた。女たちの実は真っ赤に熟していた。村人総出で畑にいるところに、青族が襲ってきたらしい。額に傷のあるのは前の戦いでダブに打たれた青鬼だ。こいつが青族の長(おさ)らしい。
「あの小僧を出せ、どこに隠している」
「ニライ様は二、三日帰らないと出かけて行きました」。答えているのは長老のアシジだ。
「どこへ行った?」
「判りません」
「あの小僧がニライだと言うなら雲固があるはずだ。それを出せ」
「雲固を出せるのはニライ様だけです」
「ならば仕方ないな、その赤く熟した実を喰うとするか」
「何てことを」。「駄目よ」。女たちが悲鳴をあげた。

治はこん棒を手に森から飛び出した。
「青族よ、俺はここにいるぞ。大人しく村から出て行け」
「この前はチビだと思って油断した。今度はそうはいかぬぞ、それっ」
長を除いた八匹の青鬼が棒を振りかざして向かってくる。最初の青鬼が棒を振り下ろす、治は横に逃げてその棒を上から叩いた。青鬼の長い棒は真ん中からポキッと折れた。
すぐに次の棒が襲ってくる。治はその鬼の後ろに回りこみ、その足を叩いた。ボコッと音がして大根でも叩いたように鬼の足が二つに割れてしまった。
「ぎゃー」
青鬼は叫びながら地面に倒れた。それを見た他の鬼たちがひるんだ。治は鬼があまりにも弱いのに驚いた。しまった、やりすぎたか。その時ダブの声が聞こえた。
「ざまあ見ろ、足が生えるまで二ヶ月はかかるぞ」
そうか、こいつ等は植物だ。手足が取れても生えてくるのだ、ならば遠慮はいらない。治はバットを構えるようにこん棒を持ち直した。
青鬼たちがいっせいに逃げ出した。

「小僧よ、棒を捨てろ。さもないと女たちの実を叩き落すぞ」
青族の長が叫んだ。女たちがまた悲鳴をあげた。仕方ない、治はこん棒を捨てた。青鬼たちは逃げるのを止め、治を遠巻きに囲んでいる。
「お前は何者だ?」。青族の長が言った。
「俺はニライだ」
「お前が本物のニライなら雲固を持っているはずだ」
ちょっと待て、と言おうとして治はひらめいた。片手をポケット入れると発煙筒のキャップを外した。それから発煙筒を出すと青族の長に言った。
「雲固が欲しいなら持っていくがよい。しかし邪悪な心で雲固に触れるなら、雲固は元の雲に戻るであろう」

治は発煙筒を長の足元へ投げた。長が治を見張りながら発煙筒を拾い上げ、手元に視線を落とした。今だ!治は発煙筒のキャップを握ると、長に向かってダッシュした。治の動きが早くて見えなかったと、ダブが言っていた。治はその言葉を信じたのだ。治は走りぬけざまに、長の手にある発煙筒の点火口をキャップで擦った。すぐに猛烈な勢いで煙が出る。その煙にまぎれて元の場所に走り戻った。

煙が薄れると、青族の長は突然ひざまずいた。
「ニライ様、ご無礼をお許し下さい」
それを見た青族が全員、ひざまずいた。
「あなた様が、本物のニライ様だと判りました。しかも青族のニライ様です。それが何故、赤族の村にいるのでしょう?」
青い船内スーツのせいで、治が青族の仲間だと思っているのだ。治はスーツを脱いで言った。
「俺は青族でも赤族でもない。今は訳あって、この村にいるのだ」
「ニライ様、どうか我ら青族の村にも来てください」
「青族の村はどこにある?」
「この村から川を越えて三日、御山の麓に我らの村はあります」
「何故、赤族の村を襲うのだ?」
「我らの村では食べ物が不足しています」
「それは赤族も同じ、青族に襲われ赤族は難儀しているぞ」
「青族と赤族は仇同士、昔からの慣わしにございます」
「これからは赤族を襲うのは止めるのだ、約束できるか」
「はい、ニライ様のお言葉に従います」
「今日は、もう自分たちの村へ帰るのだ。この者の足が生えた時、この者を案内として青族の村へ行くことにしよう」
「おお、有難いことです。ブライ、しっかり足を生やして、しっかり案内するのだぞ」
「はい、判りました」
治に足を折られた青鬼が、ひれ伏しながら、長と治に答えた。

治は青族が不憫に思えてきた。こいつらも腹を空かせているのだろう。ブライをその場に残し、治は青族を引き連れて村はずれに行った。すると青族が騒ぎ出した。
「おお、木が枯れてしまっている、どうしたことだ」
「実が生りすぎて力尽きたんだ」
「なんて可哀想な」
それを聞いて治は驚いた。雲固は緑の木にも力が強すぎるとはこういう事だったのだ。そして鬼たちにとって、緑の木は同じ植物の仲間なのだ。彼等のご先祖様と同じ姿なのだった。
さらに明日になればもう一本、全部で四本の木が枯れるのだ。困ったことになった。治は明日には枯れる木を見ると、その木にも実が生っている。二本の木で四十個以上の実が生ったのだ。治が一個だけを取り、残りの実を持たせると青族は喜んで村へ帰って行った。

治が畑に引き返すと、足を折られた青鬼はその場に座っていた。
「ブライだったかな?」
「はい、ニライ様」
「すまなかったな。足は痛むか?」
「大丈夫です」
ダブが近づいてきた。
「ニライ様が間に合って良かったよ、こいつはどうする?」
「ここで足が生えるのを待つか?」
「駄目だよ、女たちは畑のそばに青族がいるのは嫌だって言っている」
「どうしてかな?歩けないのだから危険はないだろう」
「知らないよ。とにかく嫌だってさ。どうして、こいつを置いて行かせたのさ、青族に担がせて行けば良かったのに」
「村まで三日の道のりを担いで行くのは無理だろう」
「たったの三日じゃないか。ニライ様、僕は七日の旅が決まったよ」
ダブは、そう言い残すと肩を落として行ってしまった。

治が驚いているとアシジが近寄ってきた。
「さてニライ様、この者をどこかに動かさねば」
「そこの森の中にするか?」
「そう致しましょう、村まで運ぶには重すぎるようで。おい、みんな手を貸してくれ」
アシジは村人に指示してブライを運ばせた。手を貸そうとする治を制して、小声で言った。
「お婆様はダブを選びました」
「ああ、今、本人から聞いたよ。落ち込んでいたな」
「七日の間、お婆様を担いでの上り坂、辛い道のりです」
「出発の日は?」
「今日、実が植えられます。今日から十月十日の間です」
「実が熟したか」
「はい、ニライ様のおかげでいつもより早く熟しました」

ブライは森の木に縛られていた。治はブライに大きな実を渡した。
「これを食って、早く元気になれよ」
 大きな実を丸ごと渡されてブライは驚いた顔をしていた。治は畑の方が気になって仕方ない。ブライを運んだ男たちは、とっくに畑に戻って何か始めようとしている。
「ブライよ、明日になればまた食べ物を持ってくる。ここで待っていろよ」
 ブライは大きな実にかぶりつきながら、肯いた。


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