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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第116回            第8話 寄生虫は支配する
艦長室の会議が続いていた。
「帰還した五人は発病していない。原因は馬と考えて良いかな?」
「馬の寄生虫による血液感染と考えて良いと思います」
「馬を食って発病する可能性は?」
「血液感染する病原体が消化器感染することは通常ない。胃酸で死滅するからだ」
「兵士たちには伝染していない、と考えていいんだな」
「馬を食って伝染するなら、すでに全員が発病しているはずだ」
「地上には二人のクルーと十名の兵士がいる。我々は彼等を安易に見捨てるべきではない。しかし、危険な宇宙生物を地球に持ち込むことは絶対に許されない。他に意見はないか?僅かな可能性でも言って欲しい」
艦長の言葉に皆が顔を合わせた。沈黙が続くなかで生物学者が手を挙げた。

「宿主の脳を支配するコイコクロリディウムという寄生虫がいます。この虫はカタツムリに寄生し、さらに鳥に移ります。その方法が驚きなのです。まずカタツムリの脳を支配して、枝や葉の先端に登らせます。それは鳥に発見させるためです。
さらに寄生虫はカタツムリの触角に集まります。太くなった触角を鳥はイモムシだと思って食べます。そして寄生虫は鳥の体内で成熟して産卵します。卵は鳥の糞に混じって下に落ち、草とともにカタツムリの体内に入ります」

 艦長達は脳を支配する寄生虫に驚いた。興奮が冷めぬまま議論が続く。
「それは地球の話だろう。この星にそういう生物がいるとは限らない」
「僅かな可能性でも、ということで話しました」
「この星の馬、木、草も地球のものと似ている。似た寄生虫がいても不思議ではない」
「三人は怒りの発作を起こし殺された。そして感染するのは血液からだ。目的は人間の血をばらまき感染を拡げることかもしれない」
「しかし、三人の死から一時間以上経っている。二次感染はしていないはずだ」
「死んだ三人がカタツムリなら、その血液を介して感染したのが鳥にあたる。二次感染者の症状は違うはずだ」
「寄生された鳥も脳を支配されるのか?」
「寄生虫は鳥の消化器官にいるだけです」
「感染した鳥には異常は見られないのだな?」
「そうです。外見は正常で症状もありません」
「二次感染者はキャリアになって病原菌を撒き散らすのだ!」
「この星は諦めてイズモに戻ろう」

艦長の電話が鳴った。
「キャサリン・ウィンスレットです」
「私だ、どうした?」
「M−0の送信準備が出来ました。しかしシステム・エラーが出たのでメモリースティックに入れます」
「送信システムの修復は?」
「していません」
「アスカの送信システムは我々のと大差ない。スティーブなら直せる」
「判りました。彼に伝えます。コリンズの発砲で船の水タンクが破損しました。全員喉がカラカラです。チャーリーに水を持ってすぐに来るように言って下さい」
「チャーリー機はエンジン不調で整備中だ。修理が終わるのは三時間後の予定だ。それまで水は我慢しろ。以上だ」

艦長が電話を置くと静かに言った。
「欲しければ取りに来いか。こっちの意図に気付いたようだ。残念だがM−0は諦めるか」
オペレータから電話がきた。
「艦長、M−0が送信されてきました」
「すぐにダウンロードしろ」。電話に答えると艦長が会議室のメンバーに言った。「やはりエラーは嘘だ。ウィンスレット少尉とテイラー伍長は組んでいる。送信したのはスティーブだ。我々と同じ民間人のスティーブはM−0の重要性が判っている。自分のことよりも移住計画を優先したんだ」

キャサリンがスティーブと伍長に電話の内容を伝えた。
「エンジン不調は不自然ね。三時間の間にシステムが修復するのを待っているみたい」
「メモリーに入れれば通信システムを修復する必要はないはずだ」
「伍長が正しかったな。僕達は見捨てられたんだ」
「諦めちゃだめよ。切り札は私達が握っているのよ」
「そうだった。M−0をメモリーに入れよう」
「カバーで箱を作って水を汲みにいかないの?」
キャサリンの問いかけを無視して、伍長がスティーブに聞いた。
「それに掛かる時間は?」
「三、四分だ」。スティーブが鞄からメモリースティックを出しながら答えた。

伍長がキャサリンに問う。
「着陸船は飛べるだろう?」
「雲より下ならね」
「M−0が手に入ればアスカに用はない。昨夜の場所に戻ろう。水があるし鹿のような動物もいた。そこで艦長と交渉再開だ」
「合流地点の近く?」
「その北二十マイルだ」
「OK,出発の準備を始めるわ」

「何だって?」。スティーブが叫んだ。キャサリンと伍長がモニタを覗き込む。
「使用するデバイスのドライバは削除されました。復元しますか?」
スティーブが即座にYキーを押した。
「復元ポイントを選択して下さい」
「四百年も前だ」。一番古いポイントを選択したスティーブが呟いた。
「ドライバの削除は復元ポイント以前です。ファイルは上書きされた可能性があり復元には時間が掛かる場合があります」
「くそっ、何で削除したんだ!」
「そうカッカするな。予定時間が出たぞ、二十分だ」
「わざわざドライバを削除するか?無意味なことだぞ」
「サルが悪戯したんだろう」
「そうか、仕方ないな」


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