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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第115回            第7話 馬に触れた三人
会議が始まり艦長が意見を述べた。コリンズは叱責を予想し、伍長を殺害しようとした。普通では考えられないことだ。精神を病んでいたのかもしれない。
医者が発言する。コリンズは健康そのものだった。心理テストの結果も正常だ。但し、と医者が言葉を続けた。脳の扁桃体は別名怒り中枢とも呼ばれる。事故などで扁桃体を損傷すると怒りの発作が起きやすくなる。あるいは、扁桃体に腫瘍があったかもしれない。無差別殺人の犯人を解剖して腫瘍が見つかった事例は幾つかある。
生物学者が挙手した。寄生虫の宿主と寄生部は決まっているが、他の生物だと間違えて脳に入る場合もある。そこが扁桃体の場合、腫瘍と同じ結果になるだろう。

艦長にテイラー伍長から報告が入った。電話を置いた艦長の顔が青白く見えた。
「ハリソンとレイチェルが死んだ。怒りの発作で互いに殺しあったような状況だ」
全員が凍りついたように固まった。考え込んでいた生物学者が言った。
「あの三人の共通点は馬に触れていることよ。ノミのような寄生虫を通して感染したんじゃないかしら」
「馬に触れたのは三人だけだったのか?」
「確かめよう」
 艦長が電話を手にした。
「私だ。肝心なことを聞くのを忘れていた。森の様子はどうだった?」
「森の中は見通しが利かない。隠れたサルを掃討するのは時間が掛かりそうだ。一旦、母船に戻って作戦を立てたい」
「判った。今、何をしている?」
「アスカのコンピュータが動くのを待っている」
「M−0を送信するまで、どのくらい掛かる?」
「俺には判らない」
「待つだけか、暇そうだな。馬に乗って遊んでいるのか?」
「もっと良い使い方がある」
「どういうことだ?」
「馬のステーキは美味いぞ」
「それは豪勢だな。私も食べてみたい」
「食い放題だ。チャーリーと一緒にこっちに来るか?」
「私の好みはミディアム・レアーだ。上手に焼いてくれよ」
「お勧めはレアだ。最高だぞ」
「そうか。M−0が送信されたらチャーリーに迎えの準備をさせる」

テイラー伍長は無線機を切ると口笛を吹いた。燃料にうるさい艦長が迎えを出すと言った。俺の提案に反対しないとは珍しい。作戦の失敗で弱気になったか。軽い足取りでアスカに向かうと一人の兵士が草原を見つめていた。
「ワトソン、くよくよするな。コリンズは気が狂ったんだ。お前の責任じゃない。馬を食って元気を出せ」
「コリンズが乗ると馬の目が光った。不気味な目でした。それを思い出すと、とても食う気になれません。それに馬に触った三人が死んだんですよ」
「それは偶然だ。気にするな」
ワトソンの肩を叩いて伍長が歩き出した。ふと、立ち止まる。

伍長が猛然と走り出すとアスカに飛び込んだ。
「スティーブ、M−0を送信するな!」
「どうしたんだ?これから送信するところだ」
「間に合った!」
「どういうこと?」
「M−0を送信したら俺達は置いてきぼりだ」
スティーブとキャサリンが顔を見合わせた。伍長が言葉を続ける。
「馬に触れた三人の気が狂った。馬からうつったんだ。そして俺達は馬の肉を食った、ほとんど生でな」
「違うわ。レイチェルが出て行ってからコリンズが撃たれるまで四十分くらいだったわ。私達が肉を食べて、もう一時間以上経ったのよ。私達は感染していないわ」
スティーブがキャサリンに言った。
「艦長の反応を見よう。通信システムにエラーがあったことにしてM−0をメモリースティックに入れる。チャーリーに取りに来させるんだ」

その時、アスカの外から伍長を慌しく呼ぶ声がした。伍長が外に飛び出すと、兵士が水に濡れた段ボールを見せた。段ボールには四本の矢が刺さっている。
「くそっ、全部駄目か?」
兵士が段ボールを降ろして中を見た。
「三本は無事です」
アスカにいた二人も出てきた。
「水を汲んできたのね」
「ああ。だが、見ての通りだ」。伍長はペットボトルを一本取り出すとキャサリンに渡した。「一人、四分の一ずつだ」。キャサリンが二口飲むとボトルを見た。もう一口飲もうとすると、伍長が言った。「そこまでだ」。キャサリンが伍長を睨むと言った。
「着陸船のカバーを外して箱を作れば矢を通さないわ」
「何のカバーだ?」
「ヒューズボックス、メンテナンスボックス、何でも良いわ。どうせ母船には戻れない」

伍長が突然叫んだ。
「ヘルメットを被れ、フェイスガードを下ろせ。命令するまで撃つな」
一匹のサルが馬に乗って近づいて来る。馬が立ち止まった、サルが弓を手にすると空に向けて放った。矢は放物線を描いて伍長達の手前で地面に刺さった。それを見届けるとサルは駆け去った。
「何なんだ?」。兵士の呟きに伍長が言った。
「矢羽が赤いのは血だ。宣戦布告だろう」
それを聞いて兵士達が笑った。
「冗談だろう、俺達に矢は通じない。どうやって戦うつもりだ」
伍長が水汲みに行った兵士に質問した。兵士が答える、奴等が放った矢は四本だけです。伍長が考え込むと、やがて口を開いた。
「サルは俺達に矢が効かないのを知っている。だから水だけを狙った。明け方の襲撃も予想していた。何故、俺達のことを知っている?嫌な予感がする。マードック達もサルにやられたんだ」

晴彦は森に入って気付いた。信次郎爺様の木から赤布が無くなっている。遺体を埋葬すると苗木を植え、墓標の印として赤布を巻く。最後の孫が死ぬとそれを取るしきたりだ。爺様には二人の子供と五人の孫がいた、それが皆死んだのだ!晴彦は拳で涙をぬぐった。
先に進むと数人が何か作っている。晴彦の問いに男が答えた。奴等の兜にはガラスが付いている。チヒロの家のガラスと同じで矢は通さないだろう。だから火攻めと決まった。仲間が燃える石と燃える水を取りに行った。戻るのは明日になる。治は夜に敵を殺した。だから俺達も明日の夜に奴等を殺す。
俺達が作っているのは石投げ器だ。奴等は空飛ぶ大岩で寝るだろう。今晩、川原の石を投げて眠りを妨げるのだ。朝になって奴等はただの石だと知る。明日の夜に投げるのは燃える石だ。奴等は今度もただの石だと思うだろう。警戒は薄れ眠気に襲われる。明け方にくり抜いた瓜に燃える水を入れて投げ、火矢を放つ。燃える石に火がつき奴等は焼け死ぬ。

晴彦も石投げ器を作る。やがて見張りが走って来た。奴等がガラスの甕に水を汲んでいる。晴彦は思い出した。奴等の水甕はガラスに似ているが弱い。尖った木で穴が開いた。四人が先回りする。水甕の入った箱に矢を放つ。奴等が水を垂らしながら走り去った。火攻めの前に、水攻めと決まった。晴彦は毒草を集める。奴等が水を汲みに来たら毒の汁を泉に投げ込むのだ。


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