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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第114回            第6話 二つの死体
コリンズは草原を駆けていた。風が心地よい。地面が飛ぶように後ろに流れていく。パカッ、パカッと馬が駆ける。そのリズムに身体を合わせる。馬の動きとコリンズが同調する。馬が向きを変えた。
草原から突き出すように大きな木が立っている。一つの森が生えているようだ。よく見れば二本の木が並んでいる。あの二本の木は切っていけない、村の掟が頭に浮かぶ。何故そんなことを知っているのか、コリンズは疑問に思わない。パカッ、パカッと大木に向かって駆ける。リズム乗って手を伸ばす、足を蹴る。何故か首筋がヒリヒリする。

着陸船が見えた。ワトソンが手を振った。仲間も手を振っている。伍長だけが手を動かさない。見張りをさぼったのを怒られるだろう。速度を落として近寄った。仲間が笑っている。
突然、その笑顔が凍りついた。どうしたんだ?伍長が伏せた。コリンズのすぐ上でダッ、ダッ、ダッと銃声がした。次の瞬間、コリンズの意識が真っ白になった。気が付くと空中に投げ出されている。敵だ!敵が銃を撃った。地面に落ちるとコリンズは、目の前の自動小銃を拾った。目の前には誰もいない、敵は後ろだ!銃を構えてコリンズが反転した。伍長が、仲間が銃を構えている。敵はどこだ?

「落ち着いて、ゆっくり話せ。細かいことも全部報告するんだ」
「レイチェルが馬を見つけた。ハリソンと一緒に馬を撫ぜていたが、二人は乗らなかった。コリンズが見張りを放棄して乗った。ここまではワトソンの報告だ。その後、俺達が森から戻るとコリンズは馬に乗って遊んでいた。
俺達の前で止まると、いきなり銃を構えたんだ。俺に向けてだ。いいか、俺を狙ったんだぞ。俺は咄嗟に伏せた。その上を銃弾が飛んで着陸船に当った。
馬が驚いて駆け出した。奴は馬から落ちると、また銃を構えた。俺は命令した。全員でコリンズを撃った。仕方ないだろう。奴は気が狂ったんだ。やらなければ、こっちがやられてた」
「コリンズの他に死傷者は?」
「いない」
「着陸船の被害は?」
「穴があいた。母船には戻れない」
「エンジンは動くのか?」
「大丈夫だ。アスカに電気を送っている」

コリンズの遺体を草原に埋めると着陸船の近くに戻った。涙ぐんでいた若い兵士達が陽気に騒ぎ出した。朝食を吐いた若者達は空腹の限界だったのだ。焚き火で馬の肉を焼く、美味そうな匂いがあたりに満ちた。非常食を抱えたキャサリンが迷っている。
「馬を食べるなんて野蛮よ」
「ここは地球じゃない。馬に似た別の生き物だ。食えよ、美味いぞ」
スティーブの焼いた肉を一口食べるとキャサリンは非常食を脇に置いた。
「これ、食べないなら僕が貰っても良いですか?」
「良いけど、あなたもお肉にしたら?ずっと美味しいわよ」
「いや、僕はこっちが好きなんです」
そう言うとワトソンが非常食を持って焚き火から離れた。
「奴はコリンズと仲が良かった。焼肉パーティの気分じゃないのだろう。俺だって殺されかけたんだ」
伍長が独り言のように呟くと、キャサリンが焼肉を片手に立ち上がった。
「美味しいコーヒーがあるの、インスタントだけどスペシャル・ブレンドよ。取ってくるわ」

伍長がふと気付いてスティーブに聞いた。
「ハリソンとレイチェルはどうした?」
「村に調査に行った。もう戻っても良い頃だが」
伍長が二名の兵士を探しに行かせた。入れ違いにキャサリンが慌しく戻ってきた。
「大変よ、水が無いわ。コリンズの弾でタンクに穴があいたのよ」
伍長が今度は四名を選んだ。
「森の中に泉があった。そこで水を汲んでこい」

探索に出た二人の兵士が駆け足で戻って来た。伍長が銃を手に走る。兵士に護衛されてスティーブとキャサリンが遅れて現場に着いた。キャサリンが悲鳴を上げる。
「あんた達はこの二人をよく知っているだろう。これをどう見る?」
「状況を説明してくれ」
「レイチェルは首の骨を折られている。ハリソンは首を切られた。凶器はそこに落ちている包丁だ。傷はそう深くはないのに大量に出血して死んだ」
「サルの包丁だ。サルが殺したんだ」
「レイチェルに付いている血はハリソンのだ。ハリソンはレイチェルの上にいた。レイチェルのズボンを見ろ。ベルトが外れている」
「どういうこと?まさか、ハリソンが!」

「あんたなら、どうする?男に押し倒された。あんたの手には包丁がある」
「躊躇しないで刺すわ」
キャサリンが拳で太ももを叩いた。伍長が肯くとスティーブに顔を向けた。
「あんたなら、どうする?女を押し倒した、首を切られた」
「ひっぱたく。いや、殴るかな」
「そうだ。普通はそんな程度だ。だが、レイチェルは首を刺した。ハリソンはレイチェルの首を骨が折れるまで絞めた。力を入れすぎて出血多量で死んだ。変だろう」

床下の穴に気付いた兵士が遠慮がちに言った。
「最初に調べた時に、サルがここに隠れていた。僕達はそれを見逃して、それで二人が殺された・・・」
「サルならハリソンの首をもっと深く刺す。次にレイチェルを刺す。包丁を棄てて首に手を伸ばすはずがない。そして」
伍長がその先を言いよどんだ。二人の遺体に背を向けると、伍長が静かに言葉を続けた。
「そして我々に誇示するはずだ。他の者もこうなると」
「どういうことだ?」。スティーブが聞いた。
「首を二つ並べて置くだろう。目立つ場所に」


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