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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第112回            第4話 再起動
艦長の命令が下った。チャーリーは五人の女性科学者を乗せて母船に戻る。兵士は森のサルを掃討、スティーブとハリソンは計画を実行する。
レイチェルが居残りを希望し、艦長が許可した。船の護衛に二名を残して、兵士達が森に向かった。スティーブとハリソンがアスカに入る。キャサリンはアスカを見上げるとレイチェルに言った。
「ピカピカよ、コケも生えていないわ」
「サルが磨いてたのね」
「どうして?」
「マザーは神様だったのよ」
「核融合炉の燃料は百年分よ、マザーは三百年前に停止したわ」
「キリストが死んだのは三千六百年前よ」
レイチェルの言葉にキャサリンが苦笑した。アスカの中もきれいだ。レイチェルが紙の束を見つけた。手に取ると本のように綴じてある。中を開くと文字らしきものが書いてある。
「これ何かしら?」
「聖書でしょ」。キャサリンがそう言って笑った。

スティーブとハリソンがコンピュータの基盤を引き出す。埃をエアーで飛ばし薬品で清掃する。コネクターに接点復活剤をスプレィし、破損したチップを交換する。着陸船から送電ケーブルを出してアスカと繋いだ。
キャサリンが着陸船のエンジンを始動するとアスカに戻った。するとスティーブが言った。
「最初に大事なことがある。マザーの停止ボタンを押すんだ。二人のレディにお願いしたい」
キャサリンがカバーを持ち上げるとレイチェルが赤いボタンを押した。スティーブがコンピュータの電源を入れた。ウイーンと微かな音がした。モニタに文字列が映る、ハリソンがモニタを凝視する。が、モニタはすぐに消え、何も映らないまま数分が過ぎた。
「三百年も経っているのよ、駄目なんじゃないの?」
「もう少し様子を見よう」
「駄目ならどうするの?」
「手動で試すが難しいな」
「タイム・リミットは三時間よ。それ以上燃料を使うと母船に戻れなくなるわ」
キャサリンの声に反応したかのようにモニタが点灯した。
「前回の終了は正常におこなわれませんでした。プログラム・エラーが発生しました。自動修復します」
「やったぞ!」「動いたわ」

スティーブが報告すると艦長が質問した。横で聞いていたレイチェルが「私が押しました」。と無線に叫んだ。報告が終わるとハリソンが言った。
「艦長はずいぶんこだわるな」
「958年ぶりに戻って僕達は地球の凍結に驚いた。だが、艦長はマザー戦争がショックだったそうだ」
「艦長はコンピュータに詳しいのよ。だから私達が有り得ないと思うことでも実現可能と考えるのよ」
「おいおい、実際にマザー戦争で核爆弾が落ちたんだぞ」
「十二人の日本人が死んだことでも、艦長はマザーの信頼性に疑問を持っているのよ」
「どうしてだ?日本人はサルに殺されたはずだ」
「レーザー砲はマザー連動よ、サルが何百匹いても負けるはずがないのよ。もしかするとマザーは十二人を見殺しにしたのかもしれないわ」
「まさか!なんらかのトラブルでマザーは停止していたんだろ」
「だったら誰がマザーを再起動したの?日本人は全滅したのよ」
「マザーの関知しない所で十二人は殺されたかもしれない。日本人殺害に責任が無くともマザーの対応は不適切だ。アスカは日本の所有物だ。マザーは地球に戻るべきだった」
「コンピュータは人間に反抗する、その可能性を艦長は捨てきれないでいたの。そしてマザー戦争が実際に起きたし、アスカは日本を裏切ったわ。マザーは危険なのよ」

しばらく経ったが画面は変わらない。レイチェルがしびれを切らした。
「外に出ても良いかしら?村を調べたいのよ」
「君が見つけた星だからな。だが、外はまだ危険だ」
「伍長が村を調べてから森へ行く、と言っていたわ」
「だが、一人はまずいな」
「俺が一緒に行こうか?」
「頼むわ、ハリソン」
「よし決まった。スティーブ、後は任せたぞ」
「気をつけて行けよ」
「船に自動小銃があるわ。それを持って行きなさいよ」

ハリソンが見張りの兵士に自動小銃の使い方を聞いた。その時、レイチェルが馬を見つけた。「地球の馬に似ているわ。私、乗馬をしていたの」。指笛を鳴らすと馬が駆けてきた。「良い子にしてて、逃げちゃ駄目よ」。レイチェルが馬に話しかけながらゆっくり近づいた。「可哀想に、首に怪我している」「銃弾がかすったんだ」。レイチェルが馬をなぜた。「綺麗な毛並みだわ」「乗るのか?」「鞍がないから乗れないわ」

兵士の一人が言った。「それなら、俺が乗る」「コリンズ、止めろ。見張り中だぞ」「敵はいない。すぐに戻るさ」。コリンズが馬に飛び乗った。「乗馬していたの?」「いや、初めてだ」「鞍なしでは無理よ」「昔は裸馬に乗っていた、映画で見たんだ」。コリンズが馬の首を軽く叩くと馬が歩き出した。コリンズが馬にしがみつく。
「あんたが百ヤード以内で落馬する方に賭けるわ」。コリンズが上体を起こすと言った。「俺が勝ったらキスしてくれ」「ほっぺたなら良いわよ、坊や。両足で馬の胴体をしっかり挟むのよ。上半身は馬のリズムに合わせるの」
コリンズが肯く。馬がゆっくりと走り出した。コリンズが馬のたてがみを握った。背中がリズミカルに上下動する。「その調子よ、初めてにしては上出来だわ」。馬が速度を速めた。コリンズは落ちずに草原を駆けて行った。レイチェルが両手を広げて言った。「驚きだわ」


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