艦長の命令が下った。チャーリーは五人の女性科学者を乗せて母船に戻る。兵士は森のサルを掃討、スティーブとハリソンは計画を実行する。 レイチェルが居残りを希望し、艦長が許可した。船の護衛に二名を残して、兵士達が森に向かった。スティーブとハリソンがアスカに入る。キャサリンはアスカを見上げるとレイチェルに言った。 「ピカピカよ、コケも生えていないわ」 「サルが磨いてたのね」 「どうして?」 「マザーは神様だったのよ」 「核融合炉の燃料は百年分よ、マザーは三百年前に停止したわ」 「キリストが死んだのは三千六百年前よ」 レイチェルの言葉にキャサリンが苦笑した。アスカの中もきれいだ。レイチェルが紙の束を見つけた。手に取ると本のように綴じてある。中を開くと文字らしきものが書いてある。 「これ何かしら?」 「聖書でしょ」。キャサリンがそう言って笑った。
スティーブとハリソンがコンピュータの基盤を引き出す。埃をエアーで飛ばし薬品で清掃する。コネクターに接点復活剤をスプレィし、破損したチップを交換する。着陸船から送電ケーブルを出してアスカと繋いだ。 キャサリンが着陸船のエンジンを始動するとアスカに戻った。するとスティーブが言った。 「最初に大事なことがある。マザーの停止ボタンを押すんだ。二人のレディにお願いしたい」 キャサリンがカバーを持ち上げるとレイチェルが赤いボタンを押した。スティーブがコンピュータの電源を入れた。ウイーンと微かな音がした。モニタに文字列が映る、ハリソンがモニタを凝視する。が、モニタはすぐに消え、何も映らないまま数分が過ぎた。 「三百年も経っているのよ、駄目なんじゃないの?」 「もう少し様子を見よう」 「駄目ならどうするの?」 「手動で試すが難しいな」 「タイム・リミットは三時間よ。それ以上燃料を使うと母船に戻れなくなるわ」 キャサリンの声に反応したかのようにモニタが点灯した。 「前回の終了は正常におこなわれませんでした。プログラム・エラーが発生しました。自動修復します」 「やったぞ!」「動いたわ」
スティーブが報告すると艦長が質問した。横で聞いていたレイチェルが「私が押しました」。と無線に叫んだ。報告が終わるとハリソンが言った。 「艦長はずいぶんこだわるな」 「958年ぶりに戻って僕達は地球の凍結に驚いた。だが、艦長はマザー戦争がショックだったそうだ」 「艦長はコンピュータに詳しいのよ。だから私達が有り得ないと思うことでも実現可能と考えるのよ」 「おいおい、実際にマザー戦争で核爆弾が落ちたんだぞ」 「十二人の日本人が死んだことでも、艦長はマザーの信頼性に疑問を持っているのよ」 「どうしてだ?日本人はサルに殺されたはずだ」 「レーザー砲はマザー連動よ、サルが何百匹いても負けるはずがないのよ。もしかするとマザーは十二人を見殺しにしたのかもしれないわ」 「まさか!なんらかのトラブルでマザーは停止していたんだろ」 「だったら誰がマザーを再起動したの?日本人は全滅したのよ」 「マザーの関知しない所で十二人は殺されたかもしれない。日本人殺害に責任が無くともマザーの対応は不適切だ。アスカは日本の所有物だ。マザーは地球に戻るべきだった」 「コンピュータは人間に反抗する、その可能性を艦長は捨てきれないでいたの。そしてマザー戦争が実際に起きたし、アスカは日本を裏切ったわ。マザーは危険なのよ」
しばらく経ったが画面は変わらない。レイチェルがしびれを切らした。 「外に出ても良いかしら?村を調べたいのよ」 「君が見つけた星だからな。だが、外はまだ危険だ」 「伍長が村を調べてから森へ行く、と言っていたわ」 「だが、一人はまずいな」 「俺が一緒に行こうか?」 「頼むわ、ハリソン」 「よし決まった。スティーブ、後は任せたぞ」 「気をつけて行けよ」 「船に自動小銃があるわ。それを持って行きなさいよ」
ハリソンが見張りの兵士に自動小銃の使い方を聞いた。その時、レイチェルが馬を見つけた。「地球の馬に似ているわ。私、乗馬をしていたの」。指笛を鳴らすと馬が駆けてきた。「良い子にしてて、逃げちゃ駄目よ」。レイチェルが馬に話しかけながらゆっくり近づいた。「可哀想に、首に怪我している」「銃弾がかすったんだ」。レイチェルが馬をなぜた。「綺麗な毛並みだわ」「乗るのか?」「鞍がないから乗れないわ」
兵士の一人が言った。「それなら、俺が乗る」「コリンズ、止めろ。見張り中だぞ」「敵はいない。すぐに戻るさ」。コリンズが馬に飛び乗った。「乗馬していたの?」「いや、初めてだ」「鞍なしでは無理よ」「昔は裸馬に乗っていた、映画で見たんだ」。コリンズが馬の首を軽く叩くと馬が歩き出した。コリンズが馬にしがみつく。 「あんたが百ヤード以内で落馬する方に賭けるわ」。コリンズが上体を起こすと言った。「俺が勝ったらキスしてくれ」「ほっぺたなら良いわよ、坊や。両足で馬の胴体をしっかり挟むのよ。上半身は馬のリズムに合わせるの」 コリンズが肯く。馬がゆっくりと走り出した。コリンズが馬のたてがみを握った。背中がリズミカルに上下動する。「その調子よ、初めてにしては上出来だわ」。馬が速度を速めた。コリンズは落ちずに草原を駆けて行った。レイチェルが両手を広げて言った。「驚きだわ」
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