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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第111回            第3話 暁の急襲
しばらくするとテイラー伍長がまたチャーリーの横にきた。
「合流したら高度を上げる。エンジンを止めて滑空、目標手前でエンジンを再始動する」
「理由は?」
「寝込みを襲うんだ。音をたてずに侵入するのが当然だろう」
「なるほど。しかし、ウィンスレット少尉は承認しないぜ」
「どうしてだ?」
「空中でエンジン停止は気違い沙汰だ。出力を絞るならキャサリンもOKだろう。目覚まし時計は鳴らさない、グッドアイディアだ」

爆撃機が明け方の空を静かに滑り落ちてくる。後部ハッチを開くと弾倉ボックスをデッキに出した。安全装置を外すと兵士が怒鳴った。「爆撃準備完了」。キャサリンは地上に目をこらす。薄明のなかで目印は遠くから見えた。村外れの大木だ。後ろから光がさしてきた。朝日が大木を照らすと梢が二つある。村で小さな黒い点がたくさん動いている、あれは何だ?高度がどんどん低くなる、目覚まし時計作戦は終了だ。キャサリンはスロットルを全開にした。爆撃機はエンジン音を響かせ、大木を越えた。
黒い点がはっきりと見える、馬だ。サルを乗せた多数の馬が逃げている。「どうして?」。キャサリンが叫んだ。アスカの上を通過した。爆撃機が村の道を低空飛行する。「投下!」。ポン、ポン、ポンと爆弾が飛び出す。両側の家並みが次々に吹き飛んでいく。

後を飛んでいた攻撃機も水平飛行に移る。テイラー伍長達はデッキに立った。ドーン、ドーンと爆発音が続き黒い煙が流れる。煙の間に走る馬が見えた。サルが乗っている。右側二人の自動小銃が火を吹く。馬が倒れサルが落ちる。だが、着陸船のスピードは速い。倒れるのは少数だ。そして反対側に馬の姿はない。左の二人が一発も撃たないうちに町外れまで来た。
船が上昇すると旋回した。「キャー」。と船内の女達が悲鳴をあげる。船は畑の上を低空で逆戻りする。馬とサルが大勢逃げて行く。その真ん中を飛びながら四人が射撃を始めた。馬がバタバタと倒れる。サルの身体から血が噴き出す。
弾が切れた。空のカートリッジを外して棄てる。ポケットから出したカートリッジをセットする。と、目の前にはもう何もいない。森の中へ多数の馬が駆け込むのが見える。「クソッ」。伍長が叫んだ。

東の見張りが黒い点に気付いた。空飛ぶ大岩だ!その驚きと不安が馬に伝わる。それは村中の馬に伝わっていく。そして馬は自分の主人に伝えた。純二は跳ね起きた。ハヤテはすでにベッドの側に来ている。「起きろ!」。そう叫びながら正男を抱えるとハヤテに乗せた。枕もとの弓矢を握ってハヤテに飛び乗る。正男が目を覚まして言った。「母ちゃんと美鈴は?」「忘れたのか、昨日から森に行っている」。ハヤテはすでに走り出している。
「空飛ぶ大岩だ!」「逃げろ!」「逃げろ!」。その声が村の中をこだまのように進んでいく。村人が次々と馬に乗って飛び出してくる。振り返れば空飛ぶ大岩が村の上を飛んでいる。バラバラッと何かを落とした。ドーン、ドーンと空気が震え、家が粉々になって舞い上がった。いったい何なんだ?治の書よりも凄いことが起こっている。純二の驚きを感じたハヤテが脚を速めた。

背中に強い衝撃を受けて純二は馬から落ちた。すぐ先に正男も倒れている。正男、と呼んだつもりが「ゲホッ」。という音がした。正男は動かない。何が起こったんだ?すぐにハヤテが戻ると鼻で正男を押した。反転した正男の頭が半分吹き飛んでいる。純二は自分の身体を見た。胸が真っ赤だ。ハヤテが純二の顔を舐めた。ハヤテの首に傷がある。俺と正男を貫いた光の矢がかすったのだ。いや違う、光は見えなかった。禍々しい闇の矢だ。
ハヤテの姿がぼやけてくる。目が見えない。声が出ない。片手を上げるとハヤテが鼻を寄せてきた。憤怒の思いをハヤテに伝えた。仲間に俺達の最後を伝えろ、仇を取れ。純二の心がプツンと切れ、ハヤテがいなないた。もう一度、二人の顔を舐めると森へ向かって駆け出した。

家並みが途切れた。兵士がボタンを押すとワイヤーが巻き取られ、弾倉ボックスがゆっくりと船内に引き込まれる。
「こちらキャサリン、爆撃終了」
「チャーリーだ、二次攻撃をする。コースは森に近い畑の上だ」
「弾倉ボックス格納後、二次攻撃に参加する」
「了解」
キャサリンは真っ直ぐ飛び続け報告を待つ。「格納完了」。の声で即座に旋回する。兵士達の身体がシートから浮き、次の瞬間叩きつけられる。数人が手で口を押えて吐き気をこらえた。「二次攻撃用意」。キャサリンの声に兵士達がよろよろとデッキに出て銃を構えた。サルを乗せた馬が次々に森の中へ消えていく。二、三名の兵士がダッダッと撃つと、別の兵士が叫んだ。「止めろ、弾の無駄だ」

村外れに着陸したチャーリー機の周りに人がいる。四つん這いになって吐いているのだ。キャサリンがアスカの横に着陸すると、若い兵士たちが口を押えて急いで降りていく。テイラー伍長が走り寄って来た。
「話が違うぞ。爆音でサルどもを起こすから逃げられた」
「敵は攻撃を知っていたわ。ベルを鳴らす前から逃げ出していたのよ」
「何だと!くそっ」。テイラーが叫んだ。
「昨日、見つかったからよ」
「船を見ても、今朝攻撃すると何故判る?」
「そうね、不思議だわ」
「だから言っただろう。入れ替えれば良かったんだ。爆撃機の兵士は一名でよい。攻撃機に十名いればこんな事にはならなかった」
「私は爆弾と九人を乗せてたのよ。重いままで離着陸したら燃料を食うわ。作戦に支障がでる」
「九人?あとの二人は誰だ?」
キャサリンが目で示した、兵士たちに混じってスティーブとハリソンがうずくまって吐いている。
「くそっ、よけいなモノを積みやがって」
「艦長の命令よ」
 キャサリンはそう言い捨てると船内に戻った。ペットボトルを抱えて出てくると吐いている者たちに配った。チャーリーも皆に配っている。兵士達は何度も口をすすぐとペットボトルを投げ捨てた。


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