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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第110回            第2話 二発の原子爆弾
3615年、アメリカ隊はイズモに戻り、二つの町に核爆弾が投下された。サルは絶滅したが艦長には気がかりなことがあった。クルーの士気が低下している。選ばれたエリート集団が、自分達は兵士の輸送係さと自嘲している。男の科学者は兵士と入れ替わった。残った女性科学者は暇を持て余した乗客気分だ。結婚相手が兵士になったのも不満の種らしい。
時間の経過だけが目的のワープに緊張感はない。船内には鬱々とした空気が漂っている。その時一人の女性科学者が艦長室に来た。
「十二光年先の恒星の年齢は四十五億年です。6.2AUに巨大な木星型惑星も見つかりました。地球型惑星は探査中ですが、ワープすればすぐに発見出来ると思われます」
艦長は肯いた。地球に似た惑星がある可能性が高い。だが、移住出来る可能性は低いだろう。それは我々の過去が証明している。それでも、探査を行うことで船内の空気が変わるなら実施する意義はある。
「惑星探査を命令した覚えは僕にはない。君は自分の意志でそれを行った。その行為はチャレンジャーという我々の船の名前にふさわしい。レイチェル、僕は君のような部下を持ったことを誇りに思う。担当者を集めてくれ」
レイチェルが顔をパッと輝かせると慌しく艦長室から出て行った。

3627年、アメリカ隊は素晴らしい惑星を発見した。五人の女性科学者が四名の護衛と共に緑の大陸に調査に向かう。そこは大草原だった。
「プレーリーより広いわ」「ここは広大な小麦畑になるのよ」
希望に満ちた未来を語っていると、その予想図が下に現れた。直線で区切られた幾つもの緑の四角だ。高度を落として調査に向かう。畑の中心に道があり両側に家並みが続いている。そこを動く小さな点が幾つも見える。
「人がいるわ!」
その声にテイラー伍長も下を見た。道は村外れの大木まで続いている、その手前で何か光った。銀白色に輝く飛行機だ。
「アスカだ!下にいるのはサルだ」
伍長の言葉に、パイロットのチャーリーが急上昇しながら叫んだ。
「レーザー砲にやられるぞ」
「大丈夫だ、アスカは三百年前に停止している」
「そうだったのか。だが、こっちの姿を見られた」
「相手はサルだ。着陸船をでかい鳥としか思わないだろう」
「確かに、そうだ」
伍長とチャーリーが声を合わせて笑った。

報告を受けた艦長は即座に命令を下した。この星のサルを駆除する。テイラー伍長は着陸して待機。爆撃機に七名の兵士を乗せ、翌朝二機で奇襲する。伍長は一旦母船に戻ることを提案した。女性科学者を降ろし、爆撃機と攻撃機の兵士や装備を整えたい。艦長がその案を却下する。地球に戻り二回目の移住計画を考えている艦長は燃料を節約したかった。
そして、アスカを破壊するなと命令を追加した。非常停止ボタンを使えば、マザーを起動せずにM−0プログラムを入手出来る。宇宙船の自動化が進み運航要員が減れば運べる移民の数が増える。それは移住計画の成功に大きく寄与するはずだ。

広場には村中の大人が集まっていた。
「空飛ぶ大岩が飛んできた。治の書によれば、空飛ぶ大岩からオオカミの言葉を話す者が降りてきて村を襲った。俺達の村も襲われるぞ」
別の男が反対意見を述べた。
「ご先祖様の治は偉大だ。治の書に嘘はない。だが、今日の出来事とは一つ違うことがある。イズモでは空飛ぶ大岩は草原に降りた。シナノでは空飛ぶ大岩は飛び去った」
村人たちがざわめいた。
「俺達の村は大丈夫だ」
「いや、判らんぞ」
「森に逃げよう。あそこなら安全だ」
「畑はどうする?」
「皆の衆、静まれ。長老様の意見を聞こう」
長老は立ち上がると、村外れの治と花音の木を指さして言った。
「わし等は土と共にある、畑は続けるぞ。森に隠れるのは老人、幼い子とその母親、腹の大きい女だけだ。そして四人の見張りを東西南北に置こう。もしも、襲われたら馬を通して村中に知らせ、素早く森へ逃げるのだ」

テイラー伍長が操縦席に来るとチャーリーに言った。
「キャサリンに言え、合流地点で着陸だ」
「艦長の命令に背くのか?」
「このままでは失敗する。お前も判るだろう」
「あんたから言ってくれ」
チャーリーが通信機のスィッチを入れた。
「こちらチャーリー、キャサリン聞こえるか?」
「キャサリンよ、どうしたの?」
「伍長と代わる」
「キャサリン、合流地点で一旦着陸して入れ替えよう」
「あんたにファーストネームで呼ばれたくないわね」
「えっ?」
「私はキャサリン・ウィンスレット空軍少尉。作戦の変更は認めない。五分後に合流地点で会おう。空の上でね。以上、通信終了」
テイラー伍長がレシーバーをチャーリーに返しながら言った。
「何故、黙っていた?俺は民間人だと思っていたんだ」
「何のことだ?」
「キャサリンだ」
「隠してはいない。あんたが聞かなかっただけだ」
「くそっ」


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