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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第109回   第8部 3627年      第1話 全滅した偵察隊
 3012年、アメリカは惑星イズモへの移住を決定した。危険生物に備え二機ある着陸船の一機を爆撃機に改造し、十一人の科学者を兵士と入れ替えた。艦長は新しい乗員のリストを見た。
隊長、テイラー伍長、四十七歳。男の階級に不自然さを感じる。母船に兵士が到着した。テイラー伍長が艦長に挨拶する。
「二千人でシティを防衛したが、生き残ったのは十八人だけだ。その中に俺を昇格出来る将校はいなかった。俺の階級は二十四年前のままだ」
 艦長が肯くと答えた。
「イズモ移住計画を成功させるには君達の力が必要だ。よろしく頼む」
 艦長が手を伸ばすとテイラー伍長が硬かった表情を緩めた。握手を交わすと伍長が同年輩の兵士を示して言った。
「マードック上等兵だ。実戦経験があるのは俺達だけだ。あとの若いのはかき集めだ。そこで艦長に頼みがある。こいつ等を訓練する場所を提供してもらいたい」
 心中を悟られないよう力強く肯くと艦長が言った。
「R12の二区画を君達に提供しよう。訓練するには狭いかもしれないが、ここは宇宙船の中だ、我慢してくれ。ところで、さっきの話では生き残った軍人は十八名と言っていたが」
 テイラー伍長が艦長を見つめて答えた。
「過酷な二十四年だった・・・二人も生きていれば十分だろう」

 二回目のワープが終わると艦長はテイラー伍長に呼ばれた。防弾アーマー、ヘルメット、フェイスガードの完全装備の兵士達を見て艦長の頬が緩む。これこそ世界最強のアメリカ軍だ。伍長の用件は装備の通信システムの故障だった。改めて装備を見た艦長は驚いた。
「どういう事だ?ヘルメット・カメラが無いぞ」
「トンネル内の監視カメラに転用した」
「カメラなら街中にあっただろう。それを使わなかったのか?」
「侵入者はまずカメラを破壊する。カメラは幾つあっても足りなかった。無い物は仕方ない。それより通信システムを直せないか」
 船のエンジニアが調べると接続プラグが腐食していた。二十四年前の血糊が付いたままだったのだ。音声通信、兵士の体調管理、武器の使用状況の三つが完全な装備はほとんど無い。テイラー伍長がエンジニアに言った。
「この船に予備のプラグがあるだろう。交換してくれ」
 エンジニアは艦長に答えた。
「使ってしまうと船が修理出来なくなります」
「予備品の数は限られている。交換は出来ない」
 艦長の言葉にテイラー伍長は両手を挙げて肩をすぼめた。
「俺達より船が大事か」
「装備の手入れを怠ったからだ、自業自得だろ」

3213年、アメリカ隊はイズモに到着した。アスカを呼び出すが応答はない。二つの町を発見し、北の町を調査する。爆撃機と兵士一名は母船で待機、十名が着陸船で草原に降りた。マードック上等兵達五人が偵察に出る。危険生物に備えてテイラー伍長他四人が着陸船に残った。
偵察隊が屋敷に入る。女が床に布をひろげ荷物を包んでいるのが見えた。女が兵士に気付きキャーと叫んだ。マードック達はその顔を見て驚く。叫び声に一匹のオスが飛んできた。兵士を見てサルが叫んだ。すると日本語に設定していた翻訳機が作動した。
「なんだ、お前達は何者だ?」
「怪しい者ではない。我々は地球から来た」
その言葉にサルが落ち着きを取り戻した。マードックが質問する。
「ここに十二人の地球人が来なかったか?」
「その十二人は死んだ」
「なにっ、何故死んだ?」
「どく・・・いや、南ランドの奴等に殺された。奴等は我々を攻めているのだ。チキュウの人間なら十二人の仇を取れ」
「もう一つ知りたい。アスカはどうした?」
「空飛ぶ船は牛泥棒が乗って飛んでいった」

中庭に出ると矢が飛んでくる。五人は平然とその中を歩く。一人の兵士に矢が当たって少しよろけた。それを見て残りの四人が笑った。サルが驚いて叫んだ。
「お前達は矢が当たっても平気なのか!」
「これはレーザー反射シールド付き防弾アーマーだ」
「なんと、光の槍に当っても平気なのか!」

サルと部下が話している隙にマードックが声をひそめてテイラー伍長に報告した。
「この星の生物はサルです。サルが服を着て二本足で歩いている」
その言葉に着陸船の兵士たちはゴリラを連想した。テイラー伍長がマードックの翻訳機を通して質問する。
「十二人の日本人はいつ殺された?」
「四十日くらい前、ここに着いた翌朝だ」
「生き残ったのは一人もいないのか?」
「いない。全員死んだ」
「死体をみたのか?」
「俺達が墓を掘って埋めてやったんだ」

正門が見えた。ひっきりなしに矢が飛んでくる。胸に布を巻いたサルがいた。白い布に血が滲んでいる。案内していたサルが駆け寄ると抱き起した。負傷したサルがマードックを手招きした。
「私が役人頭だ。敵は百人、こちらは二十人いたが半分やられた。光の槍で敵を倒せ」
「光の槍?これは自動小銃だ。一つ聞きたい。南ランドとは何だ?」
「南ランドは我等の先祖が征服した町だ。これは反乱だ。正義は我等にある」
会話を聞いていたテイラー伍長がマードックに指示を出した。
「争いに巻き込まれるな。中立を維持せよ。可能ならば争いを収拾して双方から事情を聞け。武器の使用を許可する。但し、極力人命、いやサルは殺すな」

マードックがサル達に叫んだ。
「攻撃を止めろ。戦いは終わりだ。外の奴等は我々が制圧する。門を少しだけ開けろ。俺達が出たらすぐに閉めるんだ」
そして部下に命令した。
「一列縦隊になれ。門が開いたら素早く出て散開しろ。発砲を許可するが威嚇射撃だ。やむを得ない場合はサルの足を狙え」
マードックが門の中央で立ち止まった。その後に兵士が並ぶ。二匹のサルがカンヌキを外した。その途端、門がバーンと勢いよく開きサルが左右に弾かれた。マードックの目前に丸太が現れ、避ける間もなく彼は突き飛ばされた。

屋敷の応戦が止まった。様子を見ていた南ランドの隊長が叫んだ。
「今だ、門を破れ!」
二十匹の兵士が太い丸太を抱え突撃する。カンヌキごと門を打ち破るのだ。と、門がはじけるように開いた。勢い余って突進しながら異形な者達を次々と跳ね飛ばした。防弾アーマーは破れなかったが強い衝撃を内部に伝えた。折れたアバラ骨が心臓を突き刺し、あるいは内臓が破裂して五名は倒れた。

「マードック、どうした?応答せよ。ジョンソン、何があった?」
テイラー伍長が呼びかけるが応答はない。モニタを見ていた兵士が叫んだ。
「マードック、ヘンリーの心臓停止。カーターも停止した」
「ルーカス、応答しろ・・・駄目だ。全滅だ」
テイラー伍長がマイクを握ったままスィッチを切り替えた。
「テイラーだ。偵察に出た五人が全滅した。爆撃機の出動を要請する」
「艦長だ。状況を報告しろ」
「攻撃開始と共に連絡が途絶えた。同時に三名の死亡確認、二名は体調管理システム故障中だ。全員死亡と推定」
「町は二つある。だが爆撃出来るのは一回だけだぞ」
パイロットのチャーリーが叫んだ。
「奴等が攻めて来るぞ」
町の住民が家財道具の入った風呂敷を背負って避難してきた。大きな四角い包みはチャーリーには武器に見えた。
「ロケット・ランチャーを背負って突進してくる、百匹以上いるぞ」
テイラー伍長が外を見て言った。
「くそっ、爆撃機が三機必要だ。チャーリー、撤退だ」

母船で会議が始まった。テイラー伍長が発言する。五名の完全武装の兵士が一瞬で全滅した。正体不明の危険生物は凶暴かつ強力だ。半島への移住を諦め、別の大陸に移住しても危険性が無くなる訳ではない。むしろ将来に危惧を残すだけだ。
良い方法がある。地球に戻って兵士を補充し、二発の核爆弾を積む。北と南の町に一発ずつ落とし危険生物を壊滅させる。その後でワープして戻れば数十年経過する。放射能の濃度は移住可能なレベルまで下がっている。
艦長が意見を述べた。日本人はサルに殺され、アスカはサルに奪われた。人間に似た危険生物とはサルのことだ。日本は残念ながらイズモの移住に失敗した。惑星イズモの権利はアメリカに移った。
テイラー伍長が立ち上がり艦長に握手を求めると、全員が拍手した。


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