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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第107回                第14話 第二のイズモへ
二人がアスカに入るとチヒロが言った。
「蛇を踏んだ女とウサイから話は聞きました。十二人は殺されました。犯人は既に自供しています」
モニタに国王が映り叫んだ。「中で死んでいるぞ。死体に紫の斑点が見えた」
「毒殺と推測されます。大前も同じでしょう」
「オオカミは毒で滅んだと聞いた。それを使ったのだろう」
「隣村の五人に会わなければ、あなた達が死んでいました」
蛇を踏んだ女が自分の胸を抱えるとブルッと震えた。星を見る男は肯くと言った。
「南の草原には動物はいない。俺達は北へ行き毛長牛を狩るつもりだ」
「着陸前に北の地を飛びましたが、毛長牛はいませんでした」
「何故だ?オオカミがいなければ毛長牛は増えるはずだ」
「増えた毛長牛が乏しい冬の餌を食い尽くし、絶滅したのでしょう」

星を見る男が黙り込むと、蛇を踏んだ女が言った。
「チヒロはずっと十二人を待っていたの?」
「三日間待ちました。彼等には通信機を持たせていました。連絡がないので、私から呼び出しましたが応答はありません。彼等は電波の届かない遠くへ行ったと判断しました。
私は地球へ帰る準備に入りましたが、翼の上の耐熱タイルが一枚剥れているのに気付きました。翼の下は私には見えません。出発前の点検が必要となりました。私はあなた達を探していたのです」
星を見る男が聞いた。
「崖までは遠いが、声が聞こえたのか?」
「いいえ、口の動きから言葉を判別したのです」
「そうだったのか。翼の下は煤で真っ黒だ。洗わないと見えない。アスカは燃やされても大丈夫だったのか?」
「大気圏突入の高温に比べれば、焚き火の温度など問題になりません。翼を洗える場所はありますか?」
「そうだ!黒い石の川へ行こう。そこで翼を洗い、黒い石を積むんだ」
「その後の予定は?行きたい場所はあるのですか?」
「海の向こうに行こう」
「数百年後には南の草原も田畑になるでしょう。さらに人々は増え、船で海を越えます。そうなれば、あなた達の子孫と争いになるでしょう」
「だが、他に行く所はない」
「402年後の日本には、アスカの修復技術は残っていないでしょう。地球に戻っても再発進出来ないなら、別の星を目指すのが私の使命です。ここで待つ間、有望な星を見つけました。あと一回だけなら大気圏突入に耐えられるかもしれません。ここで使うはずだった種も農具も積んだままです。第四回惑星移住計画を実行しましょう。今回は第二のイズモを探す旅です」

星を見る男と蛇を踏んだ女が顔を見合わせた。するとカワシモが言った。
「アタイには良く判んないけどさ、別の星に行くってのは賛成だよ。この町には、うんざりしてんのさ」
「俺もカワシモと同じだ。鹿がいっぱいいる星に行こうぜ」
ウサイの言葉に星を見る男が肯いた。蛇を踏んだ女も賛成した。
「それでは計画を確認します。黒い石の川へ行き、耐熱タイルを点検します。可能なら別の星へ旅立つ。これで良いですか?」
「それで良い。だが冷凍肉が無くなった」
「牛の肉を手に入れましょう」
チヒロがそう言うと、ブヒヒー、ブヒヒーと外に向かって奇妙な音を出した。
「さかりがついた雌牛の声だ!」。星を見る男が叫んだ。
「そうです。これを聞いて雄牛が近づいて来ます。三頭倒せば冷凍庫がいっぱいになります」
「俺達が弓で倒す」
「弓を使えば牛が遠くまで走ります。近寄った牛をその場で仕留めましょう。私がレーザー砲を使います」
星を見る男とウサイが、がっくり肩を落とした。

肉を積むとアスカが飛び立った。町の上を飛ぶとチヒロが言った。
「通信機の反応がありました。電源はオフで応答もありませんが、場所はすぐ近くです」
「下は大前の屋敷だ。役人達が外に飛び出してこっちを見ている」
「場所を特定しました。屋敷の奥庭の小さな屋根の下です」
レーザー砲が屋根を破壊した。滑車が地面に転がる。木枠に蓋がしてあるのが見えた。星を見る男が叫んだ。
「井戸だ。蓋に石が載せてある」
「水中なら通信機は壊れます。これは使っていない空井戸です。十二人の遺体もこの中でしょう」
「下に降りて見てみよう」
星を見る男が叫ぶと、チヒロが言った。
「余分な燃料はありません。後は役人に任せましょう」

川原に着陸すると、チヒロがレーザー砲で木を倒した。星を見る男がそれを組み立て蔦で縛る。足場に登って翼を洗うと下側は問題ない。剥れた耐熱タイルはチヒロが見つけた上側の一枚だけだ。
「そこは高温で溶け出し、やがて周囲のタイルも次々に剥れます。しかし、その時には大気圏を突破しています。翼は損傷を受けますが破壊されることはありません。大丈夫です。黒い石を積みなさい」

チヒロは新しい星を目指し飛び立った。眼下に田畑のモザイク模様が見渡せる。下を指差してカモシモが叫んだ。
「見てごらん、まるでアリの行列だよ」
ウサイが覗き込んで笑った。
「本当だ。人間がアリに見えるぞ」
「何の行列だ?」
星を見る男の問いにウサイが答えた。
「大前ランドに年貢を納める行列だ。あっ、もう見えなくなった」
チヒロがウサイの言葉を否定した。
「年貢を納める行列ではありません。百名の男達が弓や槍を手にしていました」
「北を攻めるつもりだ。大前が死んだからだ」
「あんな大勢では勝てないよ。町で弓を持っているのは役人だけだ」
「町にはアタイ達に残飯をくれる小母さんもいたんだ。チヒロ、光の槍であいつらをやっつけてよ」

星を見る男が小さく首を横に振った。チヒロは無言だ。アスカのエンジン音が高まった。星を見る男が二人を座らせた。そしてシートベルトを締めながら言った。
「殺されるのは国王と役人だけだ」
「本当か?」
「どうして、そう言えるのさ?」
「来年からは、年貢を納める行列は北から南に向かう。町の人を殺せば年貢は取れない」
ウサイとカワシモが黙って目を伏せた。星を見る男が呟いた。
「兄弟を攻めるからだ・・・俺達は別の星に行く」


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