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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第106回                第13話 役人との対決
ウサイが叫んだ。「役人だ!」
星を見る男は振り返った。すぐ後ろの三人の幼児が「抱っこ」。と言って泣き出した。その向うに山を駆け下りる役人達が見える。星を見る男が蛇を踏んだ女に言った。
「アスカまで走れ。レーザー砲をチヒロ連動にするのだ」
「やり方が判らない」
「チヒロが教える」
蛇を踏んだ女が槍を放り出すと走り出した。カワシモが鳥を捨て幼児を一人抱きかかえた。星を見る男も両手に幼児を抱えると後を追った。座っていた牛が立ち上がった。こちらへ走って来るウサイに星を見る男が叫んだ。
「牛を追い立てろ」
役人達が近づいて来る。ウサイは矢を抜くと牛に放った。尻に矢の刺さったウシが鳴き声を上げて走り出した。他の牛も驚いて走り出すと役人達が逃げ出した。柵まで来ると、星を見る男が抱いていた幼児を降ろした。カワシモも幼児を降ろすとアスカを指差して言った。
「走るんだよ」
すでに他の子供達は蛇を踏んだ女の後を走っている。三人の幼児が走り出した。星を見る男がウサイに言った。
「お前も行け。俺は時間をかせぐ」
「俺も・・・」
「駄目だ。足手まといだ。行け」
走っていた幼児の一人が転んだ。カワシモが振り返った。「俺に任せろ」。ウサイが叫んで走り出した。カワシモが前を走る子供達に叫んだ。
「空飛ぶ大岩に入るな。アタイが先に確かめる」
カワシモが本気になって走り出した。子供達を追い抜いていく。その先を蛇を踏んだ女が走っている。アスカがタラップを降ろした。役人達は山の麓に駆け戻ったが、三人が牛の群れの中で右往左往している。星を見る男は柵の陰に身を伏せた。牛の群れが駆け去ると三人の役人が走り寄った。
「奴等はどこだ?」
三人が柵の手前で立ち止まった。走り去る子供達の中に若夫婦を探す。その時、ヒュンと音がして二人の弓の弦が切られた。張られていた弓が支えを失い、反対側へ強く弾けた。一人の手から弓が飛んで柵に当った。役人頭は反射的に強く弓を握った。手の中で弓が激しく震えた。手が痺れ役人頭は弓を落とした。
残った一人が慌てて矢を抜いた。と、弓が飛ばされた。落ちた弓に矢が刺さっている。三人が矢の飛んできた方を見た。二十歩ほど横に弓を構えた星を見る男が立っていた。そして柵から離れ、三人の正面に移動しながら言った。
「何故、俺達を追う?」
「お前達は流行り病を撒き散らしているからだ。もう七人死んだ」
役人頭が痺れた手を押さえながら答えた。星を見る男がその横の役人に矢を向けると言った。
「後ろを向け」
役人が振り向くと仲間がこちらに走ってくる。背後から星を見る男の言葉が続いた。
「奴等に止まれと言え。奴等が近づけばお前の首を矢が貫く」
役人が両手を挙げ必死に「止まれ、止まれ。こっちに来るな」。と叫んだ。その剣幕に役人達が立ち止まった。

星を見る男が役人頭に言った。
「俺達を縛った男や、鞭で打った男は生きているぞ」
「役人は誰も死んでいない」
「何故だ?」
「国王様のお茶を飲んだ。毒を消すお茶だ」
「子供達はお茶を飲んでいないが、一人も死んでいないぞ」
「これから死ぬ。病が伝染ってから半日から五日の間に死ぬのだ」
「五日だと?鞭の傷に薬草を貼ったのは子供達だ。もう三十日は経った」

その時、星を見る男の足元でジュッと小さな音がした。青臭い焦げた匂いが漂った。星を見る男が弓を下げた。それを見ると、役人達が一斉に走り出した。後ろを向いていた役人が「ヒィー」。と叫んで首の後ろに手を回した。役人頭が振り向いて怒鳴った。
「弓を下げろ」
柵まで走り寄った役人達の数人は弓を構えたままだ。頭が再度、怒鳴った。
「弓を下げろ!何度も言わせるな」
「しかし、頭・・・」
「話はまだ終わっていない」
役人頭が星を見る男を問いただした。
「隣村の五人も死んだ。あの五人に何をした?」
「何もしていない」
「話をしただけか?触れたはずだぞ」
「奴等は村を通るなら何か置いていけと言った。俺は肉を持っていた。それを奴等は盗った」
「大前様に貰ったサシミだな」
「違う。サシミは子供達に渡した。国王がくれた焼肉だ」

二人の会話に別の役人が口を挟んだ。
「国王様のおかげで我等は助かった。そのうえ国王様は亡くなった大前様の秘密も解いたのだ。国王様は神様のようなお方だぞ。呼び捨ては無礼であろう」
星を見る男が冷笑を浮かべて言った。
「国王は神だと?」
「まだ言うか、無礼者。言い直せ」
役人が星を見る男に弓を向けた。星を見る男は平然として言った。
「コクオオハカミ、正体を現したな。この言葉の中にオオカミが隠れている。それが奴だ。オオカミに様はいらない。お前こそ言い直せ」

役人の顔が怒りで赤くなった。星を見る男の太ももに矢を向けると放った。矢の音がヒュと鳴りかけて消えた。矢が光ったと見えた次の瞬間、それは無くなった。一筋の煙が星を見る男の近くまで流れて消えた。役人達は驚いて声も出ない。
「アスカに弓は通用しない」
星を見る男の言葉が役人には判らない。互いに顔を見合わせる。その顔がすべて役人頭に向いた。頭が言った。
「何をした?」
「レーザー砲、光の槍だ。それで矢は燃えた」
「・・・お前は槍を持っていない」
「光の槍を持っているのはアスカだ」
「アスカとは何だ?」
「空飛ぶ大岩の名だ」
役人達がアスカを見た。矢も届かない遠さだ。

呆然としてアスカを見ていた役人頭が、思い出したように言った。
「何故、国王様はお前に焼肉を渡し、弓も返したのだ?」
役人頭の質問には答えずに、星を見る男が言った。
「地球の十二人はどこにいる?」
「あの十二人は空飛ぶ大岩に戻った。そこで死んだ」
「あの中に十二人はいない」
役人達がざわついた。一人が叫んだ。
「国王様が梯子を登って死体を見つけた。俺も一緒にいたぞ」
「お前も死体を見たのか?」
「いや・・・見たのは国王様だけだ」

その時、叫び声がした。
「役人の嘘つき!」。走って来たカワシモが、星を見る男の横で立ち止まった。
「十二人があの中で死んでいると言ったのは、どこのどいつだい?嘘つきは誰だ。お前か?」
指差された役人が首を横に振った。
「中には誰もいない。アタイがこの目で確かめたんだ。誰がそう言ったんだい?」
役人は誰も答えない。カワシモが突然、泣きながら怒鳴った。
「アタイの父ちゃんと母ちゃんを鞭で殺したのは誰だい」
カワシモが星を見る男の弓に手を掛けた。星を見る男が手を放すと、弓を手に柵まで走った。
「お前か?お前だろ」
そう言いながら柵の間から弓で役人の腰を叩いた。
「違う、俺ではない」
カワシモが隣の役人を叩く、役人が否定する。さらに隣を叩く。
「何で死体も返してよこさないんだよう。父ちゃんと母ちゃんの死に顔も見せてくれないんだよう」

星を見る男がカワシモに近づくと、役人達が後ずさりした。星を見る男が弓を握ると、カワシモが両手で顔を覆って泣いた。星を見る男が役人達に言った。
「俺を恐れることはない。俺は病ではない」
誰も返事をしない。星を見る男が言葉を続けた。
「国王は俺を殺そうとした。だが、死んだのは五人の男だ」
「どういう事だ?」
「俺に食わせるつもりで焼肉に毒を入れた」
「毒だと!」
役人達が顔を見合わせる。
「何故、国王様がきさまに毒を盛るのだ?」
その問いに別の役人が答えた。
「きさまが病を撒き散らすからだ」

星を見る男が首を振って言った。
「国王は俺に大前の秘密を聞いた」
「まさか!」
「サシで始まる五つの言葉だ」
「きさま、でたらめを言うな!」
怒鳴りながら一人の役人が弓を構えた。と、何かが光った。役人は「うっ」。と呻いて弓を落とした。落ちた弓に役人の手が付いている。
「馬鹿者!弓は使えぬのを忘れたか」
役人頭が怒鳴った。血の噴き出した腕を押えて役人がうずくまる。別の役人が懐から布を取り出すと、怪我人の腕に固く巻きつけた。手当てが終わるのを待って、星を見る男が言った。
「お前達は帰れ」
役人頭が黙って歩き出した。役人達が黙々と続く。星を見る男が泣いていたカワシモに言った。
「さあ、アスカに行こう」
カワシモが顔を上げて言った。
「あそこに鳥を置いてきたんだ。拾って来るよ。兄さんも、姉さんの槍を拾いなよ」


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