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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第105回                第12話 山狩り
残った二人の役人が山の方を見つめる。一人が後ろを振り返った。人影がないのを確かめると小さな声で言った。
「何故、お雪だけが病になったのだろう?他の女中は平気だったのに」
「運が悪かったのだろう」
「お雪が死ぬ前、国王様はお雪に人工呼吸をした。それなのに墓を三つ掘れと言ったそうだ。死ぬと判っていて人工呼吸をしたのか?」
「何が言いたいのだ?」
「いや・・ただ・・・」
「言葉を慎め。我等の鞭は皮を破るが、国王様の鞭は肉をえぐるぞ。当り所が悪くて死んだ夫婦もいた」
「そんなつもりではない。ちょっと不思議に思っただけだ」
「今のは聞かなかった事にしておこう」
「すまん」
「・・・」
「おい、見ろ。子供だ。山へ走って行くぞ」
「放っておけ。遊びに行くんだろう」

二人の間に沈黙が続く。気まずい雰囲気を打ち消すように、一人が口を開いた。
「実は・・・誰にも話してないんだが」
「何だ?」
「隣村で死人が出た時、国王様は男が五人死んだと聞いて驚かれた」
「どういうことだ?」
「国王様はあの二人が死んだと思われた様子だった。俺の勝手な想像だが」
「なにっ、国王様はチキュウの病を知っていたのか?知っていて、あの二人を」
「いや、そうではない。早とちりするな。だから誰にも言わなかったのだ。順に話すから黙って聞け。チキュウの十二人が屋敷から出たのを見た者はいない。十二人は裏口から出たのだ。裏口からなら牧場まで近い。薬を取りに空飛ぶ大岩に急いで戻った。だが、間に合わず全員が死んでしまった。
空飛ぶ大岩が牧場に留まって居る理由を、国王様はそう考えた。そして牧場にいた牛泥棒の二人にうつっているかもしれないと思った。だが、それに気付いた時には二人は屋敷を出た後だった」
「ところが、牛泥棒から隣村の五人にうつった」
「だから国王様は驚いたのだ。我々にもうつることを心配されたのだ。そして大前様やお雪にもうつってしまった」

「そうだったのか、俺も今になって判った」
「何だ?」
「五人が死ぬ前のことだ。俺は長い梯子を作ろうと言ったが、国王様はチキュウの者に構うなと言われた。国王様はうつることを心配していたのだ」
「さすが国王様だ」
「まだある。国王様が問答無用で射掛けろと言った時、俺は不思議に思った。正々堂々とした国王様にふさわしくない言葉だ。だが、奴の腕前を見てそうするしかないと判った。奴が弓を射るのを見ていないのに、国王様は奴の腕を知っていた」
「国王様は奴の弓を見ていた。牛泥棒の時に取り上げた弓だ。それを見て腕前を知ったのだろう」
「俺もその弓を見た。古くて汚いと思っただけだった」
「国王様は神様のような方だ」
その時、十八人の役人が弓を手に集まって来た。役人頭が見張りに言った。
「国王様の命令だ。これから我等全員で山狩りをする」
 
星を見る男が蛇を踏んだ女に言った。
「山の尾根道を通り、俺一人で行く。お前はここに残れ。崖の上に見張りを置け」
蛇を踏んだ女が肯くと、カワシモが言った。
「アスカって空飛ぶ大岩だろ?」
「そうだ」
「さっき言っただろう、あの中で十二人が死んでる。入ったら病がうつっちまうよ」
「くそっ、忘れてた。聞いてくる」
星を見る男がそう言うと、斜面を駆け上がった。しばらくすると、崖の上から星を見る男が叫んだ。
「アスカの中には誰もいない。役人達が大勢、弓を持ってこっちへ来るのが見えた。全員でアスカに行こう。皆、斜面を登れ。小さい子は俺が引っ張り上げる」
蛇を踏んだ女が上に向かって叫んだ。
「黒い石はどうする?」
「置いていけ」
カワシモが蛇を踏んだ女に言った。
「兄さんは誰に聞いたんだ?」
「チヒロよ」
「それは誰だい?」
「アスカの中にいる」
「牧場だろう?どうやって聞いたんだい?声は届かないよ」
「話したら返事をしたわ」
「はぁ?どうやって?」
「光で返事をしたのよ」
「何だか訳の判らない話だね。本当に死んだ十二人はいないのか?」
「チヒロは嘘を言わないわ」
「アタイは自分の目で見ないと信じないよ」
「役人が来るわ。早く行きましょう」
「判ったよ。食い物を持って行かなきゃ」
「こっちは子連れよ、荷物は少なくしなさい」
カワシモが羽をむしりかけの二羽の鳥を持ち上げて笑った。
「これで全部さ」

大岩の手前で役人頭が黙ったまま指を動かした。十人が左右に散って岩陰で弓を構える。五人が大岩に走り寄ると人梯子を作った。一人が素早く登ると、大岩の上を覗く。ひらりと大岩の上に立つと弓を構えた。二人目も大岩の上で弓を構える。三人目が登ると腰に付けていた縄を下へ降ろした。役人が次々に大岩を登る。洞窟の入り口に鳥の羽が散らばっている。
「間違いない。奴等はここに居た」
「こっちに足跡があるぞ。斜面を登って逃げた。子供も一緒だ」
尾根の獣道を進むと分かれ道に出た。土が固くて足跡が判らない。
「山を越えて遠くに逃げるつもりだろう」
そう言って一人が下り道を指差した。役人頭が尾根道の先に白い物を見つけた。
「鳥の羽だ。奴等はあっちだ」

昔の家の横を通って草原に降りた。小さな子供が、もう歩きたくないと泣き出した。星を見る男が抱き上げて歩き出すと、別の幼児が愚図りだした。蛇を踏んだ女が抱き上げると、三人目が泣き出した。カワシモがその子に言った。
「大きな声で泣くんじゃないよ。牛が怒って走り出すよ。牛に蹴られて死んじゃうからね」
そう言うと先を歩く二人を呼び止めた。
「その子も降ろしな。抱かれている子がいるから泣くんだ」
星を見る男が抱いていた子を下ろして聞いた。
「自分で歩けるか?」
子供が首を横に振った。カワシモが近寄ると子供に言った。
「ここで泣いてて牛に蹴られるか、自分で歩くか、どっちか決めな。さあ、みんな行くよ。歩かない子は置いて行くからね」
カワシモが星を見る男と蛇を踏んだ女に近寄ると囁いた。
「振り向くんじゃないよ。そうすれば子供は付いて来る。あんた達、子供の扱いも知らないのかい」
ウサイと他の子供達が柵に寄りかかって待っている。柵を越えればアスカまでは二百メートルほどだ。欠伸をしていたウサイが叫んだ。


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