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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第104回                第11話 戻って来た若夫婦
二人は来た道を戻る。蛇を踏んだ女が聞いた。
「どこへ行くの?」
「北には毛長牛がいるはずだ。黒い石を探そう」
「名はどうする?」
「このままだ」
 蛇を踏んだ女が下を向いた。二人は川原へ降りたが、黒い石は見つからない。
「あれは何?」
 蛇を踏んだ女が指差した。浅瀬に赤と青の円い物が幾つも見えた。星を見る男が駆け寄った。
「鬼の切り株だ。鬼族は川に追い込まれて木になった。町の家は色を塗ったのではない。鬼族は滅んで窓と屋根になってしまった」

 星を見る男は呆然として辺りを見回した。道は消えているが、地形はそのままだ。
「村へ行ってみよう」
 森の中を進むと大きな赤い切り株があった。
「ここは村の広場だった。俺はこの木の横を歩いた。その時はまだ細い木だった」
 そう言いながら星を見る男が先に進む。
「両側には家が並んでいた。俺達の村に似ていた」
 家は朽ち果て痕跡すらも残っていない。
「大前が攻めてきて何もかも変わってしまったのね」
「この辺に大きな家があった。一目で長老様の家だと判った」
星を見る男が藪の中を覗きながら言葉を続ける。
「お婆様の話では大前が来る前から動物は減っていた。矢を使わなければ黒い石も減らない。鬼族は滅びるまで黒い石を集めていたはずだが、健太の一族はそれを取りに来なかっただろう。槍を貸してくれ」
星を見る男が槍で藪をかき分けた。そして叫んだ。
「あったぞ。黒い石の山だ」
 星を見る男は手頃な大きさの石を三つ選んだ。蛇を踏んだ女が蔦で小さな背負い籠を編んだ。

二人は森のはずれに着いた。町の手前に村が見える。
「どうする?また、あの五人が来るわ」
「俺の矢が飛ぶのを見た。来ないだろう」
「道は家のすぐ横を通るのよ。矢は一本しか放てないわ」
「二人目には、こうだ」。星を見る男が矢を握って突く真似をした。「お前が槍で一人やる、ただし急所は外せ」
「まだ二人、残っているわ」
「その二人は逃げる」
「何故、そう言えるの?」
「奴等のこん棒を見たか。傷一つ無かった。五人は戦ったことなどない」
二人は村へ向かって歩き出した。村人が二人に気付くと村長の家へ駆け込んだ。
「大変だ、流行り病の夫婦が戻って来たぞ」
村長は一人の若者を役所へ走らせた。

国王は弓上手の三人を呼ぶと言った。
「お前達は町の入り口に隠れていろ。二人が近づいたら一斉に矢を放て。声を掛けるな、うつるぞ。町の安全はお前達に掛かっている。心して当れ」
三人が物陰に隠れて配置に付いた。何も知らずに二人が歩いて来る。役人達が矢筒から矢を抜いた。と、二人が立ち止まった。
「こちらに気付いたのか?」
「そうではないようだ」
「こちらから射掛けるか?」
「いや、遠すぎる。様子を見よう」
星を見る男が矢を抜くと下を向いた。
「何をする気だ?」
「おい、上を見ろ。鳥だ、鳥を射落とす気だ」
「まさか、飛んでる鳥だぞ」

鳥の群れが頭上を飛んで行く。星を見る男は動かない。群れが降りすぎると、星を見る男が矢を放った。一番後ろの鳥が心臓を射抜かれ真っ直ぐ落ちてきた。前を飛ぶ鳥はそれに気付かない。
すぐに二の矢が放たれた。当った鳥が「ピィー」。と鳴いた。他の鳥がパッと散りながら高みに昇った。矢の刺さった鳥が、必死で羽ばたくが見る間に低くなる。道へ目を戻すと二人がいない。
「いたぞ、あそこだ」
星を見る男が畦道を走っている。蛇を踏んだ女が最初に射抜いた鳥を拾って、その後を追って行く。

「追いかけよう」
そう言って飛び出した二人を、もう一人が止めた。
「待て!三人では気付かれる。これを持っていろ」
そう言うと弓と矢筒を渡した。
「どうするのだ?」
「俺が行く先を確かめる。お前達はここで待て」
二人の行く先を見届けた役人が戻って来た。
「奴等は山に行った。お前達は西の町外れで見張れ。俺は国王様に報告する」

二人は避難所に着くと、ウサイとカワシモの名を呼んだ。大岩の上にカワシモが姿を見せた。
「兄さん、姉さん、生きてたのかい?」
「なにを驚いている?」
「身体に斑点が無いか、服を脱いで見せな」
「どういう事だ?」
「流行り病だよ。兄さんと姉さんが流行らせた事になってるんだよ」
「それでは、これも食わないのか?」
星を見る男が鳥を持ち上げて見せた。
「そいつは枝にいたのか?」
ウサイが姿を現した。
「飛んでた」
「すげえ、さすが兄貴だ。今度は一人で登れるよな」

そう言うと縄を投げてよこした。星を見る男が登るとウサイとカワシモが言い争っている。
「あんた暢気だね。流行り病か調べもしないのかい」
「国王が安全宣言をしたんだ。もう、そうとう前だぞ」
「見ろ」
星を見る男が服をめくると、ウサイが「アッ」。と言った。
「どうした?何かあるのか」
「腹に筋が六本もある。俺には一つも無い」
「お前も大人になれば出来る」

蛇を踏んだ女が登って来て、カワシモに身体を見せた。カワシモが肯くと言った。
「大前が流行り病で死んだよ」
「えっ!いつ?」
「あんた達が南に行った次の日だね。隣村でも五人の男が死んだってさ。チキュウから来た十二人も空飛ぶ大岩の中で死んでたって話だよ」
「何だと、本当か?」
「空飛ぶ大岩は焼かれた。ここから火が見えた」
ウサイがそう言いながら上を指差した。
「アスカはまだ牧場にいるのか?」
「焼かれたんだ。動けないだろう」

昔、大前が命がけで登った崖は崩れて子供でも登れる。星を見る男と蛇を踏んだ女は斜面を登って崖の上に出た。遠くに煤で黒っぽくなったアスカが見えた。
「アスカが焼かれたのは本当だったのね」
「チヒロも焼け死んだ」
その時、アスカの尾灯が二回、素早く点滅した。
「チヒロは生きてるぞ」
星を見る男が叫ぶと、尾灯が一回点灯した。星を見る男が自分を指差し、その手を真っ直ぐにアスカに向けた。一回だけ点灯した。
「行こう、チヒロが待っている」

二人は斜面を駆け下りるとウサイに言った。
「俺達は牧場に行く」
カワシモが二人の前に立ちふさがる。
「あんた達は流行り病ってことになってるんだ。町は通らないほうが良いよ」
「俺達は病ではない。さっき身体を見ただろう」
「あたいは見たさ、でも町の連中は見てないからね」
「町の者に見せれば済むことだ」
「兄さんも懲りてないね。役人は頭が固いんだよ」
その時、大岩の方から子供の叫び声がした。
「町で役人が待ち伏せしているぞ。弓を持った二人の役人だ」


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