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作品名:セカンド・プラネッツ 作者:織田 久

第100回                第7話 流行り病
 翌朝、役人が国王へ報告する。
「国王様、隣の村で紫の斑点がある死体が見つかったそうです」
「なにっ、紫の斑点だと?」。国王は驚いたふりをした。
「はい。五人の男が死んだそうです」
「一体、どういう事だ!」
「国王様、どうなされました?」
「いや・・・紫の斑点に驚いたのだ」
「国王様が驚かれるのも、ごもっともです。死んで紫の斑点が出るなど、前代未聞のことです」
「私が見に行こう」
「大前様にもご報告しますか?」
「いや、調べがついた後で私から言う」

 村へ入ると死体が並べてあった。役人がムシロを持ち上げると、国王は死体の目の回りを見た、紫だ。そして斑点を確かめる。五つの死体を見終わると、少し離れて地面に座っていた村長が話し出した。
「国王様自らのお取調べ恐れ入ります。この五人は日頃より行いが悪く、バチが当ったのでしょうが酷い死に様です。
昨日も二組の旅人を脅していたのを村人が見ております。昼過ぎに南に向かう若夫婦から何か巻き上げ、夕方には町に戻る男を脅していました。身内の者が申すには夕飯を食べた後、具合が悪いと言って早寝したそうです。そして、朝になると死んでおりました」

 それを聞いて役人が言った。
「夕方の男が怪しい。そいつは村に畑を持っていて、日頃から行き来している男だ。前にも脅されたのを恨んで毒入りの食い物を渡したのでしょう」
 国王はそれには答えず、振り向くと村長へ聞いた。
「南に向かった若夫婦とは、どんな者達だ?」
「死んだ男の一人が、身内の者に言ったそうです。どちらも醜い顔をした似合いの夫婦を見たとか」
 間違いない、焼肉を食ったのは五人の男達だ。あの二人は生きている。俺が大前様の秘密を探っていると誰かに話したら、国王といえども吊るし首だ。
「病だ。この男達は流行り病で死んだのだ」
 それを聞いて村長は飛び起きると小川に走った。手と口を洗うと、国王の前に跪き早口で言った。
「村の者に告げて参ります。死体は穴を深く掘って埋めます」
村長が走り去ると、役人も小川で身体を清めた。国王は死体の横に立ったまま考えている。
「国王様も身を清められて下さい」
 役人の言葉に国王が我に返ると、小川へ歩き出した。手を洗うと国王が言った。
「あれはチキュウの病だ。十二人のうち一人の娘は元気がなく目の回りがうっすらと青かった。私はそれを見て、血の巡りの良くなる薬草を取りに部屋へ行った。戻ると十二人は居なかった。奴等は病で死んだに相違ない」

「長い梯子を作って、空飛ぶ大岩の中を調べましょう」
「いや、私なら今の梯子でも中が見える」
「国王様の背丈ならば見えるでしょう」
「村を通った若夫婦は、牛泥棒の二人だ。あの二人が病に関係あるような気がする・・・お前は弓が得意だったな」
「はい」
「あと二人、弓の上手を選んで旅の支度をしろ。そして屋敷で待っておれ。私は牧場へ行って確かめてくる」

 役所に戻ると国王は、役人に梯子を持たせ牧場へ向かった。梯子を登ると国王が叫んだ。
「中で死んでいるぞ。死体に紫の斑点が見えた。ここは危険だ、薪を集め、空飛ぶ大岩ごと燃やせ。この梯子も穢れた。一緒に燃やすのだ」
 屋敷に取って返すと、国王は旅支度の三人に言った。
「私がこの目で確かめた。十二人は空飛ぶ大岩の中で死んでいた。病はチキュウのものだ。牛泥棒の二人は牧場でうつり、さらに村の五人にうつしたのだ。二人は南に行った。追いかけて殺せ。近寄って話せばうつるぞ。見つけ次第、矢を放って射殺せ」

 南に向かった三人の役人は最初の村に着いて村長を呼んだ。
「村の者に異常はないか?」
「はい、みな元気にしております」
「やはり流行り病だった。うつしたのは若い夫婦者だ」
「流行り病とは恐ろしいことです」
 そう答えた村長が、顔を上げると明るい表情で言った。
「ならば、もう大丈夫です。夫婦者は昼過ぎにここを通りました。五人の具合が悪くなったのは宵の口、半日足らずの時間です。五人が死んですでに半日以上、もう大丈夫かと思います」
「なるほど。だが、油断は禁物だ。しばらくは注意しろ」

次の村へ急ぐ。ここで若夫婦を見た者はいない。三人が話し合う。
「夫婦者が通れば誰か気が付くはずだ」
「途中で死んだのかもしれん」
「死体を捜しながら戻ろう」
 ゆっくり歩きながら、草むらを弓で掻き分けて進む。
「無造作に草むらに入るな。死体に触れればうつるぞ」
「俺は奴等を縛ったんだ。昨日の昼前だ。うつるならとっくにうつってる」
「・・・実は、俺は奴等を鞭打ちにしたんだ。その時に返り血を浴びた」
「何っ」
 他の二人が、その男からパッと離れた。
「もう五日も前だ。変だろう、俺はとっくに死んでるはずだ」

 国王の話を聞いて大前が言った。
「私やお前だけではない、多くの者がチキュウの十二人とあの二人に接した。大丈夫だろうか?」
「隣村の五人は翌日に死にました。我々はすでに五日を過ぎています。病はうつっていないでしょう」
「あの二人は病には見えなかった。それでも人にうつるのか?」
「二人は毒消しを飲んでいたのでしょう。しかし、中途半端な薬で病を抱えたまま撒き散らしているのです」
「何ということだ」
「私の毒消しは大丈夫です。体内の毒を完全に消します。念のため、大前様もお飲み下さい」
 国王がそう言って湯呑みを差し出した。大前はそれを覗き込んでから一口だけ飲んだ。
「苦くて不味いかと思ったら、お茶の味だ」
 そう言うとさらに一口飲んだ。
「この薬はまだあるのか?」
「大前様、全部お飲み下さい」

「屋敷の者全てに飲ませたいが、どうやって作るのだ?」
「草の根を煎じた液を木匙半分ほどお茶に混ぜるのです」
 国王は答えながら、大前の持っている湯飲みをじっと見つめている。
「それでお茶の味なのか。その草はあるのか?」
「十株残っていますが、滅多に見つからない貴重な草です」
「二株を残し、八株で薬を作れ。皆に飲ませよう」
「さすが大前様、良い考えです。皆も喜ぶことでしょう。さあ、全部お飲み下さい」
 大前が湯のみを口に運びながら言った。
「屋敷の者は、不安を感じちぇおるじょ・・・何だ?舌が痺れる・・・」
 大前は国王を見た。驚いた顔に憎悪や恐れが混じっている。


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