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作品名:続編 小説「ボラカイ島」 作者:南 右近

第90回   拳銃に隠された秘密
拳銃に隠された秘密

 川平太郎と正樹は診療所の奥にある部屋でココナッツ酒を飲み交わしていた。部屋の窓際に机が一つ置かれてある。その古びた机だけで部屋には他に何もなかった。以前は、この部屋で正樹は寝泊りしていたのだが、今は、正樹の患者だった老人がこの世を去る前に譲ってくれた浜辺の家で早苗と一緒に暮らしている。ベッドやタンスなどの家具はすべて浜辺の家に運んでしまっていて、診療所の奥の部屋はがらんとしていた。正樹の助手のヨシオもタカオも診察が終わると岬の豪邸に帰ってしまって、診療所には誰もいなくなってしまっていた。正樹は太郎にこの部屋を好きなだけ使っていいと申し出ていた。
 正樹が太郎に言った。
「石垣島の太郎さんの農場はどうなりましたか?」
 太郎はココナッツ酒を自分のコップに溢れんばかりに注いで、それをグッとあおった。その後、正樹の質問に答えた。
「牛たちはここに来る前に、仲間たちに売ってしまいましたし、土地と家などは良太に処分してくれるように頼みましたから・・・・・・。」
「奥様たちは?」
「以前から、あれは町に住んで子供たちと暮らしていましたからね、農場がなくなっても困りませんよ。」
「そうですか。」
「先生には迷惑をかけてばかりで・・・。」
「いいんですよ。太郎さんが好きなだけ、このボラカイ島にいたらよろしい。僕も話し相手ができてとても嬉しいのですからね。」
 だいぶ酔ってしまったようだった。正樹は机の引き出しのカギを開けて、中から、拳銃を取り出して、それを太郎に見せた。
「これ、本物ですよ。実弾も入っていますよ。この拳銃で僕は命を狙われたのです。」
「先生、そんな物騒な物を持っていて、大丈夫なんですか?」
「いや、それがね、処分しようとおもっていても、なかなかそれが出来なかった。それに、太郎さん、最近、気づいたのですが、この拳銃には何か秘密があるようですよ。見てください、ここを。」
 正樹は拳銃の柄の模様を指差して、太郎に見せた。
「これ、何かの地図のように見えませんか?」
「先生、命を狙われたとか言っていましたが、この拳銃はどうしたのですか?誰のものだったのですか?」
「この島を仕切っていたゲリラが私のことを抹殺しようとしたのですがね、それが、どうやら仲間割れのようで、あのジャネットが私の命を救ってくれました。その射殺されたゲリラの手からポトリと落ちたのが、この拳銃です。」
「でも、この拳銃は日本軍の将校が持っていたものではないでしょうか。ほら、ここに、よく読めませんが、漢字で名前が彫ってありますよ。ゲリラが山の中に落ちていたこの銃を拾った可能性もありますよね。」
「本当ですね。よく見ると、この絵柄は漢字にも見えてきますね。確かに、太郎さんの言う通りだ。この拳銃が日本軍のものではないとは言い切ることは出来ませんね。もしかすると、この地図のような模様はあの山下財宝を捜し出す手がかりなのかもしれませんよ。」
「正樹先生、先生は宝探しには興味はありませんか?」
「僕はまったく興味がありませんよ。もし、太郎さんがお望みならば、この拳銃をあなたに差し上げましょうか?」
「どうせ、今、日本に帰ったところで、借金取りに追い掛け回されるだけですしね。駄目で元々です。しばらく宝探しでもやってみますか。先生、その拳銃を私に貸してください。」
「ええ、いいですよ。差し上げます。」
「例えばですよ。銃をこうして水平にして撃つとしますよね。発射された弾丸は、どの位、飛んで地面に落下するでしょうか?」
「それは銃によって違ってくるとおもいますね。」
「そこですよ。だから、どこで、どの方向にこの銃を発射すればよいのかを、この柄に描かれた地図から謎解きをすればいいのですよ。後は弾丸が落ちた地面を掘ればいいのでは?」
「なるほどね、・・・・・・さっぱり僕には分からないけれど、太郎さんの話を聞いていると楽しくなってきますよ。でも、気をつけてくださいよ。宝探しはいつの時代も命の危険が伴いますからね。慎重にね。」

 数日後、小さなボラカイ島の、いったいどこで仕入れてきたのだろうか、スコップを抱えて、見るからに宝探しをする格好で、川平太郎は正樹の前に現われた。正樹が笑いながら言った。
「よく、お似合いですよ。でも、その格好ではトレジャー・ハンターであることがすぐに分かってしまいますよ。・・・そうだ、一つ知恵を授けて差し上げましょう。行く先々で、まず教会をお訪ねなさい。そして、戦争で死んだ父の遺骨を捜していると、それから、山中に隠れている日本人の子孫を救い出すつもりだと大義名分をかざして歩いた方がいいでしょう。」
「なるほど、そうすることにします。遺骨収集ですね。」
「教会関係者もきっと協力してくれますよ。でも、忘れないで下さいね。山の中にはゲリラたちがいますし、反日感情が悪いところもあります。それから、もし、宝を発見しても、決して喜んではいけませんよ。哀れな貧しい遺骨収集家を装い続けることです。太郎さんが宝を見つけたという噂が流れただけで、警察も軍も村人もすべて、太郎さんの敵にまわってしまいますからね。いいですか、そのことを絶対に忘れないように!」
「分かりました。そのようにするつもりです。」
「あ、それから、蚊に食われないように、肌に薬を塗っておいた方が良いとおもいますよ。薬局に行けば売っていますから。ええと、何て、名前だったかな、ちょっと忘れてしまいましたが、お店の人に蚊の話をすれば分かりますよ。田舎ではサリサリ・ストアーにもおいてあるかもしれません。」
「スプレー式ですか?」
「いや、軟膏ですよ。蚊取線香なんかより、その塗り薬の方が役に立つとおもいますよ。」
「宝探しなんかすること、諭には黙っているつもりです。心配をかけたくないから、先生もあいつには内緒にしておいて下さい。」
「分かりました。・・・太郎さん、まあ、やるだけ、やって、また、疲れたら、この島に戻ってらっしゃい。いつでも大歓迎ですからね。」
「ありがとうございます。」

 そして、三日後、川平太郎はルソン島北部の山に入っていった。それは無謀な宝探しだった。


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