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作品名:続編 小説「ボラカイ島」 作者:南 右近

第9回   過去 ・ 約束
過去

 この巡り逢いは単なる偶然なのか、それともどこかでこうなるように定められていたのだろうか。世界中の誰よりも幸せな正樹はこの恋が幻にならないようにと、ただただ願うばかりであった。正樹はたとえこの幸せが一時のはかない夢であったとしても、この張り裂けそうな想いを感じることが出来たということをきっと何年経っても忘れることはないだろうとおもった。
 山の上のディスコで踊り疲れてケソン市に戻った正樹はオヘダのアパートにディーン達を送ってから、ネトイとサンチャゴのアパートで再び飲んだ。もうさっきからビールを1ケース位は飲んでいる。二人とも、もう、ぐでん、ぐでんになっていた。ふらふらしながら、それでもまだ飲み続けた。
「ネトイ、ディーンには彼氏がいるのか?」
「マサキ、おまえ、彼女に惚れたのか?」
「ああ、当たり前だろう、彼女のことを好きにならない男なんか、この世の中にはいないだろう。違うか。」
二人とも相当に酔っ払っていた。正樹もネトイも何でもおもいついたことがすぐに言葉になった。
「マサキ、いいか、彼女は男が嫌いなんだよ。父親が嫌いだったからな。でも、奴は死んじまったよ。もうこの世にはいない。今頃はきっと地獄で苦しんでいるよ。」
「それじゃあ、ディーンは男は嫌いで、レズだとでも言うのかよ?」
「バカ、バカ、違うよ。俺の言いたいことはな、彼女はまったく男というものを信用していないということなんだよ。」
「何だか、よく分からんな。おまえの言っていることが俺には理解出来ないよ。ちゃんと、俺にも分かるように説明してくれないか。」
「分かった。ちょっと待ってくれ、もう一杯飲んでから話す。」
ネトイは一気に冷えていないサンミゲールを飲み干した。それからマルボーロに火をつけてから話し出した。
「ディーンの親父さんはとてもハンサムだったよ。軍人だった。だから、年中、いろいろな所に行ってたな。駐屯していた場所にはそれぞれ現地妻がいてな、何人も奥さんがいたようだった。子供もたくさんいたようだが、その数は確かでない。俺には分からないことだよ。地方ごとに一人いたとしても、30人は下らないな。ここの兵隊は多かれ少なかれみんなそうさ。そういう奴が多いんだ。独身でもさ、奥さんと子供はあちらこちらにたくさんいるんだ。」
「カトリックは離婚は出来ないと聞いたが、ディーンの親父さんはその奥さんたちとは正式には結婚していないというわけだな。」
「そうだ。ディーンの母親の場合も同じだった。ウエンさんが生まれてから、奴はしばらくビコールには顔を見せなかった。だから、ノウミの父親は別だよ。ところが奴はまたひょっこり現れてな、酔った勢いでもって、ノウミの父親を刺し殺しやがったんだ。まったく勝手な奴だよ。嫉妬しやがった。そしてディーンが生まれると、またどこかへ消えちまった。」
「お前の今の話だと、ウエンさんとディーンの父親とノウミの父親は違うということだな。そしてノウミの親父さんを殺したのはディーン達の親父ということか?」
「ああ、そうだ。結局、奴はミンダナオ島でゲリラに殺されちまったと、誰かが言ってたよ。詳しいことはよく知らない。その後、気の毒なことにディーンのおふくろさんも病気になって、すぐに死んじまったよ。残されたのは3人の幼い子供だけだった。」
「何だか、かわいそうな話だな。」
「だから長女のウエンさんが小さいノウミとディーンを育てたんだよ。」
「それで分かった。ウエンさんの優しさがね。随分と苦労したんだね。きっと。」
「だから、ディーンはハンサムな男は嫌いなんだよ。それにフィリピーノも大嫌いだ。まったく信用していない。」
「じゃあ、日本人でおまけにハンサムではない俺は望みがあるってことか?」
「そう言われてみると、確かにそうだな。望みはあるかもしれないな。」
「でも、今までに、ボンボンは沢山、外国人の友達を連れて来ているだろう。ディーンも会っているはずだが。」
「ああ、連れて来たさ。だけどみんなハンサムな奴ばっかりだったよ。」
「それじゃあ、この俺が一番最初のぶさいくな外国人ってことかよ。」
「まあ、そうだな。そういうことになるかな。でも、マサキ、おまえはそんなにはひどくはないよ。だから心配するなよ。」
「随分と失敬な答えだな。でもいいや、俺は兎に角、彼女に惚れてしまったのだからな。何とでも言え。」
ネトイがマサキに温いビールを差し出した。正樹は一気にそれを飲み干した。ネトイも同じ様にしてまた一本空けてから今度はゆっくりと言った。
「ディーンはね、お袋さんが病気で死ぬ時に何もしてやれなかったからな、だから医者になりたいのさ。」
 正樹は何でもズバズバ言うノウミがウエンさんやディーンと容姿も性格も違う理由がネトイの話を聞いてやっと分かった。父親が違ったからだ。しかし、今、酔ったネトイから聞いた話はすべて本当なのだろうか。正樹は酔っ払いが言ったことを完全には信じてはいなかった。平和の中にとっぷり浸かっている日本人には理解しにくい事だが、フィリピンでは今も尚、いたる所でゲリラと政府軍の間で戦闘が続いている。ボンボンの親戚にあたる青年だが、軍隊に入って飯を食っている職業軍人から戦闘の話を聞いたことがある。彼の話は想像を絶するものであった。前線基地での彼らの会話だが、今日は何人殺したとか、またその殺し方を自慢しあっているのだそうだ。その殺し方が極めて残酷だったので、正樹は話を聞いていて気分が悪くなり吐いてしまった。本当に戦争は人間を狂わせてしまう。そんなことは誰もが知っているはずなのに戦火は絶えない。戦うことは人間の本能なのだろうか。世界中の子供たちが熱中して遊ぶ人気ゲームもほとんどが戦い争うものばかりではないか。まったく残念としか言い様がない。フィリピンでは争いは続いていて、新人民軍NPAは共産党、新人民軍を中心としており、山中に解放区をつくって、特に司令部からの指示は受けないで行動する。地域ごとにそれぞれが動くものだから、政府軍は掴みどころがなく非常に手を焼いている。独裁政治に反対する統一戦線として、ファシズム的勢力を敵として、国民すべてをその統一戦線に巻き込もうとしている。政府のアメリカよりの構造が崩れない限り、どんなに経済政策に成功し、国民の支持を得たフィリピンの政権でもNPAとの真の和解はありえないだろう。今も都市部、山間部を問わずに政府軍とゲリラの間で戦闘は続いている。時々、新聞やテレビで報道されるその戦闘のニュース以外にも一般市民の目の届かない所で戦いは日々繰り返されているのだ。



約束

 しまった。寝過ごしてしまった。ディーンが学校を案内してくれることになっていたのに、何ってこった。昨夜、ネトイと飲み過ぎたのがいけなかった。まだ完全には視力が戻っていない目を擦りながら時計を見ると、すでに午後2時を回っていた。ディーンとの約束の時間は午前9時だった。とっくの昔だ。大失敗をしてしまった。まだ隣ではネトイが「く」の字になってぶっ倒れている。
「男なんて信用出来ない。」
きっとディーンは正樹のことを約束を破る男だとおもってしまったのに違いないのだ。またしてもしくじってしまった。しばらくの間、正樹はがっくりして立ち尽くしていたが、次の瞬間、素早く着替えをしてオヘダのアパートへ行ってみたが、やはり誰もいなかった。お手伝いのリンダも買い物に行っている時間で扉には鍵がかかっていた。正樹は迷わずに大通りに出てタクシーを拾った。乗り込みながら運転手に向かって言った。
「イースト大学にやってくれ。」
恋の魔力とは凄いものである。見ず知らずの国で、目的地がどこにあるのかも分からずにタクシーに飛び乗ってしまうのであるから。まったく無鉄砲としか言い様がない。ドライバーは正樹が日本人であることに気づいたらしく、運賃メーターを倒していない。高い料金を請求するつもりらしかった。それでなくても寝坊してしまって、気持ちが高揚している正樹は荒れていた。声を一段と荒げて不埒なタクシー・ドライバーに怒鳴った。
「へい、運転手。メーターを倒していないようだが、いったい、いくらとるつもりなんだ。」
あまりにも正樹の声が威圧的だったので、少しドライバーの方が怯んでしまった。
「300ペソでいいよ。」
「高すぎる。もっと安くしろよ。」
普段ならそんなことは言えない正樹であったが、恋の魔力は正樹のことを強くしていた。
「だんな、200ペソはもらわないと、こちとら商売にはなりませんよ。」
「高い。50ペソやるから、そこで車を止めろ。もう、降りる。」
「分かりましたよ。いいですよ、100ペソで結構でございます。」
今は寝坊をしてディーンとの約束を破ってしまった緊急事態である。正樹は100ペソぐらいならこの際しょうがないかなとおもった。また降りて、他のタクシーを拾うのも面倒であったから、100ペソで承知することにした。
「よし、分かった。100ペソだな、もし渋滞してもそれ以上は払わないからな、それでいいな。」
「100ペソでいいですよ。まったく、だんなにはかなわないや。」
今度からタクシーに乗る時はまずドライバーと値段を交渉してから乗った方がこんな気まずい言い争いはしなくて済むと正樹は悟った。
 焦る正樹を乗せたタクシーはマニラ市の下町に入った。繁華街の角を何度も曲がり、雑踏の中でやっと車は停車した。車の中からでもディーンの学校はすぐに分かった。建物の横にペンキで大きくイースト大学と書かれてあったからだ。正樹は100ペソを払い、車から降りた。でもいったいどうやってディーンを捜し出したらよいのだろうか。学校の入り口には警備のガード・マンが二人も立っており、身分証明書を一人一人チェックしている。仮に理由を話して中に入れてもらったとしても、どうやって彼女を見つけ出したらいいのだ。それに今の正樹の英語力では説明するのに不安すぎる。建物の中に入るよりもこの入り口で彼女が出てくるのを待つ以外には手はなさそうだと正樹はおもった。もし他に出入り口があったとしたら、その時はアウトである。ディーンがこの出口から現れることだけをただ祈るしかなかった。時々、通りに目をやると近くに幾つも大学があるらしく、いろいろな制服を着た学生たちが行き来していた。歩道には学生たちの懐を当てにした露店が出ており、バナナを揚げたものや、春巻きの大きな揚げ物、焼き鳥風の豚のバーベキュー、果物を食べやすく角切りにしてビニール袋に入れたもの、実にさまざまな露店が歩道いっぱいに店をひろげていた。そのなかでも魚の団子を油で揚げて串刺しにしたフィシュ・ボールと呼ばれるものはおいしそうだった。インスタント・コーヒーの大きな空き瓶に唐辛子やスパイスを入れて、さらに酢や砂糖を混ぜて作った特製ソースの中にそのフィシュ・ボールを浸して食べるのだが、学生たちはたらたらとその辛いソースを垂らしながら、本当にうまそうにフィシュ・ボールを食べていた。正樹は見ているだけで辛くなってきて汗が出てしまった。この学生街はまるで日本の縁日のようでもあった。ただ縁日と違うところはここが騒音と排気ガスに包まれているということだ。
 暗くなってきてしまった。それでも正樹は辛抱強く出口でディーンが出てくるのを待ち続けた。しかし彼女はとうとう出てこなかった。人相の良くないチンピラが正樹に声をかけてきた。正樹は聞こえない振りをしてタクシーに飛び乗った。逃げるようにしてタクシーに飛び乗った正樹であったが、行き先が言えずにいた。アパートの住所を覚えていなかったのだ。不思議そうにしげしげと見るドライバーに向かって、正樹はしばらく考えてから言った。
「サムス・ダイナーにやってくれ。」
ドライバーはまだむずかしい顔をしている。正樹は説明した。
「赤いキャデラックが突き出た店だよ。」
やっとドライバーは頷いてハンドルに向かった。正樹は今回は値段の交渉から入った。来た時の半値で折り合いがついた。ところがひどい渋滞にはまってしまって、かなりの時間がかかってしまった。見覚えのある赤いキャデラックの前で車はやっと停まった。交渉した値段では明らかにドライバーの損であることが正樹にも分かっていたので、チップを上乗せして支払った。ドライバーは渋い顔をしていたがメーターを倒さなかった自分にも非はあるわけで、それ以上は正樹に要求はしてこなかった。結構、気の良いドライバーだった。正樹は降りる際に振り返って言った。
「これ、少ないけれどおまえさんの子供たちにあげるよ。」
そう言ってから正樹は50ペソ紙幣をドライバーに手渡した。
「センキュー、サー。ガッド、ブレス。ユー。」
嬉しそうにドライバーはその紙幣を受けとって走り去って行った。

 正樹は店に入るとすぐにこの前ネトイがかけていた電話の所に急いだ。もし日本でもらったボンボンの名刺の裏側にサンチャゴのアパートの電話番号が書かれていなければ、正樹は大都会マニラで完全に迷子になっていたところだった。明日、日本に帰ることになっているのだが、もちろんそれも絶望であっただろう。ボンボンがさっと走り書きしたアパートの電話番号は正樹を絶望の淵から救った。ネトイがすぐ電話に出てくれた。理由を説明してサムス・ダイナーに迎えに来てくれるように頼んだ。みんな、正樹のことを心配していたことがネトイの口調から読み取ることが出来た。寝坊したつけは実に大きな失態になってしまった。旅行の最後の日をディーンと楽しく過ごすはずだったのが台無しになってしまった。それどころか、みんなに、迷惑までかけてしまった。どうしてディーンのことになると失敗ばかりなんだ。もう駄目だな。ネトイが迎えに来てくれるまでの間、正樹は自棄酒を何杯も呷った。

 また酔ってしまった。まもなくすると、店のドアの向こうにかすかにディーンの姿が見えてきたのである。ネトイの奴、またやってくれたな。情況は急転した。笑顔のディーンはすでにネトイからすべての説明を受けているのに違いなかった。正樹は彼女を迎える為に立ち上がった。近づいて来るディーンに向かって少しうつむき加減で言った。
「ごめん、約束を破って。」
「よく眠っていたから、起こさなかったの。」
「学校の出口でずっと待っていたんだ。でもすれ違いだったみたいだね。」
もうそんなことはどうでもよかった。笑顔のディーンを席に座らせて、正樹は大きく手を挙げて、ひとつ覚えのマンゴー・チキンをウエイトレスに注文した。
「ディーン、飲み物は何にする?」
「あたしも少し今夜は飲んじゃおうかな。だって、明日、正樹は帰ってしまうんでしょう。そうね、何かカクテルでも頼もうかな。ええと、じゃあ、これにします。サムス・ダイナー・スペシャル。」
理屈では語りきれない至福の時であった。食事もしながら、二人は酒を飲んだ。正樹はありったけの日本の話をディーンにした。ディーンはただ黙って楽しそうに正樹の話を聞いていた。正樹はマニラ旅行の最後の夜にこんなに楽しい時がもてたことを八百万の神に感謝したかった。
 どれくらい時間が経ったのだろうか。二人は本当に気持ち良く酔っていた。
「ウエンさんはとても優しい人だね。」
「ええ、とっても。いつもあたしたちのことを考えていてくれるわ。少ない給料のほとんどを私たちの学費にあててくれているのよ。」
「すばらしいことだね。自分のことは後回しにしている。なかなか出来ないことだよ。ウエンさんは絶対に幸せにならなくてはだめだよ。」
ネトイが言っていた。ディーンはお酒を滅多に飲まないそうだ。確かにその言葉の通りにカクテルを一杯飲んだだけで、もう真っ赤な顔になってしまっていた。
「ねえ、マサキ。もう一杯だけ、飲んでいいかしら。明日、あなたは日本に行ってしまうわ。私はまだこのフィリピンに残らなくてはならないのですものね。あなたと一緒に日本に行けたら、どんなに幸せなのでしょう。それを考えると、・・・・・・・もう一杯だけ飲ませて下さい。」
ディーンのような絶世の美人にそんなことを言われて理性を保てと言われる方が無理である。しかし正樹は自分を取り戻していた。
「それじゃあ、もう一杯だけね。僕も今夜は少し飲み過ぎてしまったから、もう一杯だけ飲んだら帰ることにしましょう。」
「マサキ、この前、あなたが言っていたことをずっと、あたし、考えていたのよ。もし将来ね、国連で仕事が出来てよ、アフリカにマサキと一緒に行けるとしたら、きっとウエン姉さんの恩返しが出来るとおもうのよ。」
「ディーン、別にアフリカでなくてもいいじゃないか。このフィリピンだっていいじゃないか。きっと君のことを必要としている患者さんはたくさんいるとおもうよ。」
「ダメなの。私はここが嫌いなの。正樹と一緒にアフリカに行きたいのよ。」
こんな激しい告白に耐えられる男はこの世にはいないだろう。正樹が何も言えずにいると、ディーンが続けた。
「マサキは明日、日本に帰ってしまうわ。でもよ、もし、イースト大学で勉強するつもりなら、また会えるわよね。あたし、ボンボンの姉さんに頼んでみるから。正樹が合格出来るようにお願いしてみるから。また戻って来てほしいの。」
即答は無理だ。日本に戻れば正樹にもいろいろな問題がある。気持ち的にはもう答えは出ている。しかしいい加減なことは今は言えなかった。
「日本から手紙を書きます。」
「手紙じゃ、ダメ。また必ず帰って来て。約束してちょうだい。」
正樹はここで人生が終わったとしても悔いはないとおもった。嬉しい。自分のことを必要としている人が今まさに自分の目の前にいる。何と素晴らしいことではないか。
「ええ、必ず、戻ります。」

アパートまで二人はゆっくりと歩いた。その道のりは長ければ長いほど良かった。二人に残された大切な時間だったからだ。正樹の腕にディーンの腕が絡みついていた。正樹はこのまま時が止まってしまえば良いのにとおもった。もし、天が運命を司っているのであれば、どうぞ二人の明日を定めて下さいと願うばかりであった。夜空には月が輝き、揺れる二人の帰り道を照らしていた。熱く激しい正樹の一週間はこうして終わった。しかしディーンとの出会いはあの雪が降りしきる北海道の中山峠であった。ボンボンが見せてくれた小さな一枚の写真が正樹をこんなに遠くにまで導いたのであった。

翌日、ディーンは学校を休んで正樹のことを空港まで見送った。正樹には自分のこれからの道がまったく見えなくなっていた。正樹が空港ターミナル・ビルに入る瞬間、ディーンが大きな声で叫んだ。正樹は振り返ってディーンのことを見た。
「プロミス。」
正樹は大きく頷いてそれに答えた。そして向きを変えて空港の中に入って行った。

正樹を乗せた飛行機は珍しく定刻で離陸した。何故なら空港で待ち合わせをしていたボンボンがとうとうやって来なかったからだ。役所に寄ってから直接に空港に行くからと言ってアパートを先に出たのだが、きっと交通渋滞にでも巻き込まれてしまったのだろう。だから彼のおかげで帰りの飛行機はフィリピーノ・タイムにはならずに定刻で飛び立った。そして羽田空港にも時間通りに到着した。

素晴らしい旅行だった。正樹はディーンとの約束をしっかりと心の奥に刻み込んでいた。




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