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作品名:続編 小説「ボラカイ島」 作者:南 右近

第74回   母と娘
母と娘

 正樹は診療所でただあぐらをかいているだけではなかった。暇を見つけては島中の家々を歩いて回った。動けなくなった老人を見つけると、定期的にその家を訪問していた。ヨシオが診療所に来てからは、正樹はその往診のために時間をより多く割き、島の医療の向上に努めた。そんな自宅で寝たきりの老人の一人だったのだが、正樹ととても気が合った老人がいた。その老人には親戚縁者が一人もいなかった。亡くなる少し前に島の弁護士を呼んで、彼の財産のすべてを正樹に譲り渡した。岬の豪邸とは比較にはならない小さな家とわずかばかりの土地、そしてその家の前に広がる小さな砂浜は形式的には村に譲渡したが、その使用権を正樹に永久的に与えてこの世を去っていった。
 ジャネットは正樹からその小さな浜の家を借りて、母親と二人で暮らし始めた。誰にも邪魔されずに、失った二人の長い時間を取り戻そうとしたのだ。ジャネットは溢れんばかりの愛情を病んでしまった母親に与えようとした。銃を捨て、きっぱりとゲリラの世界から足を洗ってしまった。正樹はそのことを大いに喜んだ。ジャネットが岬の家の子供たちから離れたことも嬉しかった。お米は岬の家のネトイから届けられ、あとは庭に野菜を栽培し、海には定置網を仕掛けて、魚を獲った。自給自足に近い生活だったが、それで十分だった。正樹が訪ねていくと、いつも二人は家の外に置いた長椅子に座って、海を眺めていた。ジャネットが正樹の顔を見ると嬉しそうに言った。
「先生、もう、母は前のように、歩き回ってあたしのことを捜さなくなりましたのよ。」
「そう、それは良かった。お母様のお顔も拝見すると、だいぶ表情が穏やかになってきていますね。でも、散歩は身体に良いから、毎日続けた方がよろしい。」
「ええ、丘の上の共同墓地には二人で毎日行って、お墓の中のお父さんとお話をしてきますのよ。お父さんのお墓を見ると母は目を潤ませることもありますの。誰のお墓なのか分かるのかしらね。先生はどうおもいます?」
「お母様はもう分かっているのかもしれませんね。私はボラカイ島の魔法を信じていますからね。きっと、お母様はもっともっと良くなりますよ。」
「そうですね、あたしもそうおもいますよ。」
「さっき、ネトイが闘鶏の帰り道に診療所に寄って、負けた方の軍鶏を6羽置いていきましたよ。ネトイの育てた軍鶏が立て続けに6連勝したのだと言って自慢していきました。ヨシオと二人では食べきれないから、3羽持ってきたので、お母さんと食べてくださいな。」
 もう、ジャネットは人を何人も殺してきたゲリラのリーダーではなかった。母親のことを気遣うやさしい娘になっていた。
「いつもすみません。助かります。あとでおかゆに入れて、母に食べさせます。そうだ、さっき、島の警察が来て、色々と質問をしていきましたよ。何故、ここにいるのかとか、国籍はどこだとか、でも、母のことを見るとすぐに引き上げて行ってしまいました。」
「そうですか、では、私が帰りに警察に行って話をしておきましょう。今はまだ、日本に帰ったところで身を寄せるところもないし、仕方がないでしょう。しばらくこの浜辺の家で養生された方がお母様の為には良いのではありませんか。そのうちに両国政府の話し合いもまとまるようだと、署長も言っていましたから。まあ、のんびり、ここでお母様ときれいな海を眺めていて下さい。」

 浜辺の家からの帰り道、正樹は島の警察に寄って、事情を詳しく説明した。警察もあの親子が両国政府の犠牲者だと知ると、出来うる限りのことをすると約束してくれた。その後、正樹は郵便局に寄って、簡単にこれまでの経緯を書き、日本にいる早苗に手紙を出した。

前略、早苗様
 
 あの誘拐された真田徳馬さんの奥様が見つかりました。バタンガスの教会で保護されていました。ただ、あまりのショックから頭を病んでいて、根気の要る治療が必要だと考えます。ジャネットは岬の家から浜辺の家に移り、あの小さな家で母親と二人だけの生活を始めました。もう戦うことは止めて、母親の看病に専念すると言っています。島のゲリラのリーダーだった片足の老人も死にました。どうやら、また島に平和が戻ってきたようです。
 ヨシオが私の料理はまずいと言ってボヤいています。君の料理が食べたいと食事の度に催促してきます。私もまったく同感です。          郵便局にて、正樹
草々         



正樹様へ

お手紙嬉しく拝見いたしました。ご無事で何よりです。きっと、神様が正樹様をお守りくださったのですね。とても感謝しております。
早苗の方は、何不自由のない日本の暮らしですけれど、どうしても何かが足りません。それは、あのボラカイ島の青い空やきれいな海ではなくて、正樹さん、あなただと気づきました。遠く離れてその想いはいっそう強く感じております。早く、あなたに会いたい。今はその気持ちでいっぱいです。
京都にいる茂木さんのお母様から言われていたことがあります。もし、真田様の奥様とお嬢様が見つかった時には、是非、連絡してほしいとのことでした。あたし、しばらくしたら、京都へ寄って、その足で大阪からセブ島経由でそちらへ向かいます。もしかすると、この手紙よりもあたしの方が先に着くかもしれませんね。

                              早苗



 新鹿

 紀伊半島の先端にきれいな砂浜がある。「新鹿」という小さな浜で、海岸線は1キロほどだが、とてもきれいな弧を描いている砂浜である。黒潮の太平洋に面しているのだが、入り江の奥まったところにこの浜は位置しているので波はとても静かで、砂も驚く位さらさらしている。日本では数少ない南国情緒が漂う美しい砂浜だ。
 「新鹿」は茂木の母親の生まれた場所だ。そして茂木が子供の頃、預けられて育った場所でもあった。早苗が真田徳馬の捜していた妻と娘が見つかったという知らせを持って、京都の居酒屋「河原町」を訪れると、茂木の母親は自分の故郷である「新鹿」に早苗を誘った。

「どうです。早苗さん、この新鹿の砂浜もきれいでしょう。ボラカイ島のホワイト・サンド・ビーチのように雄大ではないけれど、みごとに弧を描いた砂浜は見るからに上品で、水質も海水浴には最高のものだそうですよ。上空から見ると、この入り江は扇の形をしていて、ちょうど扇の手元の狭いところが太平洋への出入り口だから、高い波が狭い入り口から入ってきても、浜に到達する前には、扇形に広がってしまって、なだらかな静かな波になってしまうのよ。砂の色も他の日本の砂浜とは違ってクリーム色をしているでしょう。珊瑚の沖縄には負けるけれど、日本のどの砂浜よりも、この新鹿の浜はボラカイ島に近いと私はおもいますよ。」
 二人は茂木のことを赤ん坊の頃から育てたという、新鹿のおばあちゃんの家に向かって歩いていた。浜より一段高いところにある国道を並んで歩いていた。すれ違う車も少なく、浜を見下ろしながら、ゆっくりと歩いていた。
「そうですか、茂木さんはここで育ったのですね。京都ではなかったんだ。」
「徳馬は海外勤務を続けていましたし、私はお店を任されて、子供を育てる余裕はありませんでしたの。だから、あたしたちは何もあの子に親らしいことをしてあげられませんでしたのよ。ここの新鹿のおばあちゃんがあの子の母親と言っても間違いありませんの。大切にあの子を育ててくれましてね、感謝しているというより、むしろ嫉妬したいくらい、あの子は新鹿のおばあちゃんに懐いてくれました。大学に入って、京都のお店にあの子が来ても、あたしたちはただの客と女将だったわ。あの子にとっての母親はここのおばあちゃんだったから。」
「そうでしたか。茂木さんの心の中には、いつもこんなきれいな海があったのですね。ボラカイ島を選んだのも、きっと、ここで育ったせいですね。」
「あたしね、京都のお店を引き払って、ここに戻って来ようかとおもっているのよ。おばあちゃんも寝たきりになってしまったし、それに、菊千代さんとあの子の子供に、日本にも帰ってくる場所をこしらえておいてあげたいのよ。まあ、今はボラカイ島の岬の家で良いとしても、いつか必ずきっと、日本に帰って来たくなるとおもうのよ。」
「そうですね。あたしもそうおもいます。ここの浜なら、明るくてきれいだから、菊ちゃんも慎太郎も喜ぶとおもいますよ。あたし、明日、少し写真を撮って、島に戻ったら、二人に見せてあげますわね。」
「そうしてくれる。でも、ごめんなさいね。こんなところにまでつき合わせてしまって、早苗さんには茂木のことでは、散々、苦しい想いをさせてしまったのにね。」
「いいえ、お母様には本当に色々助けていただいて、ボラカイ島へ行く勇気を与えてくれたのはお母様でした。あの、実は、あたし、好きな人ができたのですよ。」
「ああ、分かったわ。島にいるあの、日本人のお医者様ね。違うかしら?」
「ええ、そうです。あたし、日本にいても正樹さんのことばかり考えていたんです。早く会いたくて、会いたくて、・・・・・・あら、あたしったら、すみません。」
「いいのよ。早苗さんの幸せそうな顔を見ることができて、あたしもほっとしました。若い人たちはいいわね。じゃあ、戸隠には帰らずに、向こうへ行くのかしら?」
「ええ、席が取れ次第、大阪から飛ぶつもりです。」
「そう、あたしもまたボラカイ島へ行かなくてはね。あの人のお墓参りをしなくてはなりませんからね。それに、その見つかった奥様と娘さんにも会って、真田から預かっていたものを渡さなくてはならないから。・・・・・・そうか、あたしも早苗さんと一緒にボラカイ島へ行こうかしら。」
「ええ、そうしましょうよ。一緒に行きましょう。」
「でも、また京都のお店に預かったものを取りに戻らなくてはなりませんわ。」
「構いませんよ。あたしは急いでいませんから、お母様のスケジュールに合わせますから。」
「そう、そうしたら、そうしてもらえる。」

 二人は京都に戻り、百万遍の交差点近くの居酒屋「河原町」に入ると、カウンターに渡辺電設の佐藤が座っていた。茂木の母親が軽く挨拶をした。
「あら、佐藤さん、日本に帰っていらしたの。」
 佐藤もいつものように座ったままで、頭を軽く下げた。
「ええ、本社で会議があったものだから。・・・・・・あれ、そこにいるのは早苗さんじゃあ、ありませんか。」
 早苗は少し驚いて言った。
「はい、お久しぶりです。」
 佐藤は椅子から立ち上がって、丁寧に早苗に挨拶をした。
「この店はね、独り者の私にはなくてはならないところなのですよ。しばらく、岬の家に顔を出さなかったから、少し心配していたのですよ。そうでしたか、日本に帰っていらしたのですか。そうだ、正樹さんはお元気ですか?この頃、彼もちっとも岬の家には顔を出さない、最近では、ヨシオが正樹さんの代わりに子供たちの往診に来ているようですね。だから彼とも会う機会がなくなってしまったな。正樹さんも日本ですか?」
「いえ、ボラカイ島にいますよ。島で寝たきりのお年寄りたちの面倒を見ています。」
「そうでしたか。」
 佐藤は現在、ボラカイ島の岬の家を含む、フィリピンにおける、渡辺電設の総責任者だ。渡辺社長と専務の吉田以外には、彼を呼び捨てにすることは出来ない。それほど会社にとって重要な人物になっていた。その佐藤が早苗に言った。
「あの岬の家の資産価値は、もう、すでに我々が購入した時の倍になっていますよ。何度も会議で売却の話が出ました。私以外の重役たちは皆、売りたがっていますが、あの渡辺社長がでんとして動きません。まるでボラカイ島の魔法にかかったようです。早苗さんもあの島の魔法は信じるでしょう。」
「ええ、信じますよ。」
「僕もそうです。あの島は本当に不思議な島だとおもいますよ。それでね、社長が名案を考え出したのですよ。」
「名案?」
「そう、うちの会社の連中を順番で、ボラカイ島へ慰安旅行に招待することにしたのですよ。その先陣を切って、つい先日、専務の吉田が家族と一緒に島へ行って来たんですよ。」
「そうしたら、どうなりました?」
「早苗さん、それがね、うまく社長の思惑通りになりましたよ。島から帰って来ると、専務はボラカイ島のことを褒めまくっていましてね、先日の会議では私と同じ売却反対にまわっていました。」
「ああ、良かった。あの家がないと子供たちが困るから、佐藤さん、頑張ってくださいよ!」
「ええ、分かっています。」
 女将が佐藤に向かって言った。
「佐藤さん、ゆっくりしていってくださいな。今日はあたし、お相手が出来なくてすみません。ちょっと二階に行って、ボラカイ島へ行く準備をしてきますからね。」
「何、女将も島へ行くのですか。僕も明日、戻るところですよ。早苗さんも一緒ですか。」
「ええ、そのつもりですけれど。」
「座席は?」
「これからですけれど。」
「うちの会社が使っている旅行社を紹介しましょうか?」
「いえ、結構です。直接、航空会社から航空券を買いますから。」
「でも、高いでしょう。フルで払うとディスカウント・チケットの何倍もするから。」
「そうですね。でも仕方がありませんわ。その代わり、すぐ席は取れますよ。」
「まあ、その通りですけれど、少し時間の余裕があったら、旅行社を利用したほうが得ですよ。」
「そうですね、では、次から、そうしようとおもいます、」
女将は二階へ駆け上がって行ってしまった。佐藤は席を早苗にすすめながら言った。
「そうですか。慎太郎はおばあちゃんが大好きだから、・・・・・・・。そうだ、ジャネットと真田さんの奥様が正樹君の浜辺の家に移りましたよ。二人だけで暮らすのだとか、言って、岬の家から去って行きました。」
「ええ、正樹さんから、お手紙で聞きました。」
「彼女たち二人の人生はまったく悲劇の連続でしたね。二人を捜し続けた真田さんもしかり、そして、ここの女将もまた、悲しい運命の渦に巻き込まれてしまった一人ですね。」
 佐藤はここで冷酒をぐっと呷った。
「どうです。早苗さんも一杯いかがですか?」
 正樹にとっても、岬の家の子供たちにとっても、佐藤は大切な人だ。無下に断ることも出来ない。あまりお酒は好きな方ではないが、早苗は佐藤の杯を快く受けた。
「それでは、一杯だけ、頂戴します。」
「うちの渡辺社長は岬の家の子供たちに、小さい頃から技術を教え込んで、会社の即戦力にしようと考えているようですが、それは悪いことではありませんよね。子供たちが自立する手助けになりますからね。」
「そうですね、あたしには難しいことはわかりませんが、向こうでは、大学を出ても職がないのが現実ですからね。それをおもうと、渡辺電設の考え方は子供たちの利益と一致しているとおもいますね。」
「まあ、社長は子供たちにうちの会社に入ることを強制するつもりはないと言っているので、僕も社長の考えには反対はしていません。」
 女将が割烹着姿で二階から降りてきた。
「早苗さん、明日、銀行へ行きたいので、出発はあさって、ではだめかしら?」
「ええ、いいですよ。それじゃあ、あたしはせっかく京都にいるのだから、昔、茂木さんとボンボンと歩いたお庭でも歩いてみます。」
 佐藤が興味深げに早苗に訊ねた。
「どこのお庭ですか?」
「詩仙堂と大河内山荘、あと、龍安寺の石庭です。」
「そこが、あの二人が好きだったお庭ですか?」
「ええ、そうなんです。ボラカイ島へ渡る前に、三人で歩いたんですよ。何だか、二人とも、もう、この世にいないのかとおもうと、あたし、・・・・・・。」
「そうでしたか。早苗さん、さあ、もう一杯、いかがですか。」
「そうだ、佐藤さんにとっての京都はどこですか?」
「何ですか、それ?」
「あたしたちね、茂木さんもボンボンもまったく違った環境で生まれ育ったのに、あの時、不思議にも同じ感情を持つことが出来たのです。この京都のある場所に立って、その景色を眺めていたら、三人とも同じ気持ちになったのですよ。いったい、どこだとおもいます。」
 しばらく佐藤は考え込んでから言った。
「川でしょう。鴨川。」
「ええ、どうして分かったのですか?」
「僕がタイやフィリピンで、仕事帰りに思い出す京都の景色はいつもきまって鴨川の河川敷だからですよ。」
「そうなんですよ。あたしたち、橋の上から鴨川の流れを見ていたら、この風情が京都なんだと意見が一致したんです。そうですか、佐藤さんも同じでしたか。」
「ほら、ここで呑んでから、帰る時の寂しさがね、鴨川の川面に映るんですよね。結構、ぐっときちゃってね。これが独り者の寂しさですかね。」
 女将が口を挟んだ。
「だから、いつも言っているでしょう。早くいい人を見つけなさいよって。適当なところで手を打たないと、いつまで経っても、結婚なんか出来やしないわよ。」
「それはそうなんだけれど、なかなか、縁がなくてね。そうだ、早苗さん、僕のお嫁さんに・・・・・・と言っても無理ですよね。」
 女将が佐藤をたしなめた。
「駄目よ!早苗さんには正樹さんがいるから。」
「そうですよね。それじゃあ、ナミさんは・・・・・・、無理だよね。あんなモデルさんみたいに均整のとれた人は、僕には、おまけに頭が良くて、バリバリの外交官ときている。
振り向いてもくれないか。」
「あれ、来月だったかな、ナミはオーストラリアから、今度は本省勤めになるはずよ。少し休暇がとれるから、ボラカイ島に遊びに来ると言っていたわよ。」
「早苗さん、そんなことを言っても無理ですよ。あんなきれいな人の前に出ると、僕はただのヒヨコですからね。もう、ポーッとしちゃって何も言えなくなってしまう。」
「そうなのよね。男の人たちって、ナミから出るオーラで怖気づいてしまうみたい。」
 女将が早苗に訊ねた。
「ナミさんって、そんなにきれいな人なの?」
 佐藤が横から入って答えた。
「きれいな人ですよ。あれだけバランスのとれた人は滅多にお目にはかかれませんよ。」
「早苗さんのお友達なの?」
 今度は早苗が答えた。
「ええ、学校が一緒で、外交省にも二人で入りました。確かに、ナミはきれい過ぎて、男の人たちはみんな引いてしまうみたいですね。未だに恋人はいないみたいですよ。」
 女将が佐藤に檄を飛ばした。
「佐藤さん、頑張りなさいよ!ナミさんの親友である早苗さんが応援してくれるって、アタックしてみたら、どうなの?」
 真っ赤になってしまった佐藤が急に席を立ち、言った。
「ナミさんがボラカイ島に来るのですね。あの島でなら、何とか言葉が出るかもしれないな。よし、明日、出かけるので、今夜は、これで帰ります。」
 女将がカウンターから出て来て言った。
「佐藤さんのそんな顔を見るのは初めてだわ。とてもかわいらしいこと。あたしたちも、あさって、ボラカイ島へいきますからね。菊千代さんにそう言っておいて下さいね。」
「分かりました。では、これで失敬!・・・・・・。早苗さん、応援を頼みますよ!」
 笑いながら早苗が言った。
「分かりましたわ。佐藤さんもしっかりね!」


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