スマホの画面に一瞬ギョっとした真由美は、妙にかしこまりならがら
「あ、ハイ。今、います」 「じゃ、替わります」と言うと、突然俺にスマホを渡した。
俺は通話の相手が誰なのかも分からないまま、出るハメになった。
「もしもし……?」 潜るような声で電話に出てみると
「熟女風俗 人妻クラブのマネージャーやってる者だけどー、 困るんだよね〜、商品の女の子、妊娠させられちゃうとさ〜」 「もう中絶出来ないって言ってるし、しっかり違約金払ってもらうよ。 今からうちの若いモン連れて、そっち行くからー、よろしく」
「え、、あの〜、自分は彼女とは、その〜、客とかじゃなくて…」 と、裕之が口ごもっていると 「そんなこと、ど〜でもいいんだけど、妊娠させたの あんただよね? しかも、不倫だって? 」 「奥さん自殺しちゃったって聞いたけど、ホントはあんたが殺(や)ったの?」
俺は、ギョっとした。
真由美が風俗で働いていたことも知らなかったし、俺が不倫していたことや妻の加代子が自殺したことを、この男は知っている。
すると電話の主は 「まっ、一括じゃなくてもいいからさ。今後長〜い付き合いになりそうだな〜、 山田裕之さんとは」 「こっちもさ、こういう商売やるからには、その道のプロが付いてるから逃げようとしても 無駄だよ」 と、笑いながら喋っている。
裕之は、ことの真相が掴めて、いよいよ怖くなってきた。
(その道のプロ……)
こういうの ヤクザ映画とかじゃ、あるあるなんだろうけど、まさかガチで自分が体験するなんて。
(夢であってくれ……)
こんなリアルに恐い話なら、加代子の幽霊の方がまだマシだったかもしれない。
気付いたら、真由美が俺の顔を覗き込みながら
「裕之さんの家って、いくらになるのかな〜?」 「奥さんの生命保険金って、本当に一年後に支払われるの?」 「さっきのマネージャーって、すごいんだよー!○○組の跡目争いの時に活躍したらしくって 言うことを聞いてくれる仲間が大勢いるんだって」
俺は「終わった 」と、思った。 コイツらに、一生喰いものにされる。
自らの邪欲が、より大きな邪欲に飲み込まれていく。
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